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「本当は自分も部活をやってみたかった」制服が苦痛で定時制高校に…トランスジェンダーの子どもたちの苦悩

 『AERA』2023年8月28日号で「心を病むトランスジェンダーの子どもが増加」という特集が組まれました。Web上でも記事が公開されていますので、ご紹介します。

 SNSなどでトランスジェンダーへの差別や偏見を助長するような言説が氾濫するなか、メンタルを病む中高生の当事者たちが増え、なかには「死にたい」と口にするほど追い詰められている子もいます。
 中学3年のトランス女子、ぽてまりさんは、成績ではなく、「男女分け」をどこまで避けられる学校かという点で高校選択を考え、当事者のチャットグループで「全日制と通信制の高校、どちらが青春できますか?」と書き込みました。「定時制や通信制のほうが自由度は高いですが一長一短かな。昼間の定時制は私服登校が可能で、授業や部活動は全日制と近い形だから、おすすめかも」「どちらを選んでも間違いじゃないですからね。後悔の少なそうなほうを選んでほしいな」といったコメントが返ってきたそうです。このチャットグループはコロナ禍で学校に行けない間に現在高校3年生となる伊織さんという方が立ち上げたもので、多様なトランスジェンダーの方で賑わっているそうです。
 今年に入ってLGBT法の制定が議論されるとともに、SNSなどでトランス女性のトイレやお風呂のことを取り沙汰するヘイトスピーチも激化し、当事者を傷つけてきました。
 現在のグループ管理人の代表であるかよさんは、今年の5、6月はメンタルを病む中高生が特に増え、深刻な子には大人のメンバーが個別に話を聞いて対応をしたと語ります。「とにかく『死にたい、消えたい』って声が増えたんです。若い子たちは社会が求める規範に過度に適応しようとするから苦しくなってしまうんですね」
 経産省トランス女性裁判の最高裁判決が出たあとは、グループ内でも性別移行中の方がどちらのトイレを利用すればいいか、議論になったそうです。中高生たちは「友達に『戸籍も変わっていないのに男子トイレに入るのはダメだ』って言われて悩んでる」「学校ではひたすらトイレを我慢。最近は多目的トイレができたのでそこを使ってます。教室から遠くて行きづらいけど、ないよりはあったほうがいい」など、トイレ利用の困っていることを打ち明けました。

 全国で10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)のための居場所を提供している「にじーず」の代表、遠藤まめたさんは、「若いLGBTは家族にカムアウトできない子が多く、特にトランスは学校に行っていない子も多い。不登校や通信制の学校に通う子は、ふだん同世代の子と顔を合わせる機会がないので、この日を楽しみにしています」と語ります。
 オープンデーに集まった若者たちはゲームやおしゃべりをしてのんびり過ごし、後半はみんなでテーマトークをします。内容は「カミングアウト」「いつ気付いたか」などSOGIに関することから「理想の休日の過ごし方」「100万円あったら何に使う」まで様々です。学校での悩みもよく聞かれます。
 「にじーず」が2021年に行なった制服選択制についてのアンケートでは、「女子生徒はスラックスを選べるが男子はスカートを選べない」「式典のときは法律上の性別による制服着用を求められる」「周知が足りず、制服を選択できるのを知らない生徒がいる」「在学途中で制服を変更したくても高価で買い替えられないことがある」「制服選択制を求めて生徒が声をあげても、なかなか取り合ってもらえない」「制服を着ると死にたくなる。学校に行けなくなった」といった声が寄せられたそうです。
 制服以外でも学校での「男女分け」に悩む方は多く、「男女別のトイレしかないので誰もいない授業中に行かせてもらっている」「一人で着替えたいと言ったが認められず登校できなくなった」「模試のとき性別を空欄にしたらみんなの前で注意された」という方もいるそうです。
 以前、「にじーず」の高校生らで「先生にお願いしたいことリスト」を作成した際は、「くん・さん付けをやめてほしい」「『そこの女子』などと呼ばないで」「不要な性別欄をなくして」「修学旅行では理由を聞かず個室入浴可にしてほしい」などの要望が上がりました。
 教員がアウティングしてしまうこともしばしばあり、誰にも言わないという前提で生徒が話したのに、教員がよかれと思い保護者や他の教員に勝手に話してしまうことがあるそうです。 
 認定NPO法人ReBitが2022年に行なった孤独感に関する調査データによると、12~19歳のLGBTQで孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた割合は29.4%に上り、全国調査と比べ8.6倍も高くなっています。
「LGBTだと言えないことに加え、不登校やひきこもり、通信制の学校に通う子が多いことも関係すると思います。行きたくて通信制に行っていればよいですが『制服がないのが通信制だけだから』ということも多い。『本当は自分も部活をやってみたかった』などの思いを抱えていることもあり、孤独感は複合的なところがあります」と遠藤さんは語ります。

 
 『沖縄タイムス』は、トランスジェンダーの方にトイレ利用についてアンケートを実施したうえで(約8割が「困った」と回答)、当事者に取材し、識者にも話を聞いて、具体的な提案にもつなげています。
 県内のトランス女性(40代)は、性別適合手術を受け、戸籍上の性別も女性に変更していますが、それでも、なるべく多目的トイレを使用するそうです。「戸籍の性別を女性に変更した当事者であっても、公共施設などでは多目的(だれでも)トイレを使用したり、罪悪感を抱きながら女性トイレを利用していたりする当事者は少なくありません」。この方は、以前勤めていた職場で、男性として入職し、トランスであることをカムアウトして性別変更を行ないましたが、トイレは他の職員が使わない特定の場所の利用に限定され、更衣室は物置をあてがわれたと言います。
 出生時に割り当てられた性別が男性で、ノンバイナリー(Xジェンダー)を自認している沖縄市在住のみーちゃん(30代)は、タレント活動や講演なども行なうような方ですが、いまだにトイレでは「キモいって普通に言われる」そうです。「体は男性なので女性用は使えない。一方で男性用に入ると、びっくりされたり、侮蔑的な目で見られたりします」。大型の公共施設やショッピングセンターでは多機能トイレが利用できますが、小規模な店などには備えられていないことが多く、建物に入ると、どこにどんなトイレがあるのか目を配り、男女別のトイレしかない場合は、誰もいないタイミングをじっと見計らって男性用トイレに入るか、用を足したくなる前にその場を離れるそうです。「常に人に嫌な思いをさせたくないというアンテナが張っている感じ。1回1回は小さな我慢でも、積み重なるときついですよ」 
 上記のアンケートの自由記述では、県内の20代のトランス女性から「男性トイレの利用が苦痛だった」と、別の40代のトランス女性からは「戸籍の性は女性だが、就職活動の際に職場では男性用トイレの使用しか認められず、何度も就職を断念した」との声が寄せられました。そのほか、「真に性別違和で悩んでいる人は周りの目を気にしている。犯罪者と一緒にされたくない」「トランスジェンダーを過度に恐れるプロパガンダが逆に『こうすれば犯罪ができる』という誤ったメッセージになる」「トイレは排泄行為だけでなく、一息ついたりコミュニケーションを取ったりする場所。望むトイレを使いたかった」といった声も上がりました。

 琉球大大学院の矢野恵美教授は「私の周囲にはトランスの方が多くいますが、みんな本当にトイレに苦労しています。今でこそ『だれでもトイレ』の設置が進んできていますが、琉球大学でも古い建物では整備されていない所もまだまだあります。(当事者の)学生の中には、大学でトイレには行かないという人もたくさんいました」と明かしたうえで、トランスの方が利用しやすいトイレとしてオールジェンダーの個室トイレの設置を勧めています。「認知は広まってはいますが、多機能の『だれでもトイレ』だと、車いす利用の方たちに気をつかって使用しにくいこともあります」「ジェンダーレストイレは、トランスジェンダーだけでなく、いろいろな人にとって使い勝手が良いことが魅力です。一つ一つが個室になっていて、願わくばその中に手洗い場があるとよいです。北欧ではほとんどのトイレがそのようになっています」

「サンエー」は沖縄で有名なスーパーの一つですが、2019年に開業したサンエー浦添西海岸パルコシティ内にある13ヵ所の多機能トイレは、車いす利用者や子ども連れ、オストメイトのピクトグラムに加えてレインボーカラーも表示され、トランスジェンダーの方が安心して使えるように配慮されています。開業を前にトランス女性の採用を検討していたテナントからの要望を受け、対応したそうです。(なお、沖縄県内で最も早くからLGBTQ支援に取り組んできたホテルパームロイヤルNAHAは、2016年にオールジェンダートイレを設置しています。こうした取組みがもっと広がるといいですね)
 
 
 なお、オールジェンダートイレ設置の取組みとして、小樽商科大のことが北海道新聞で取り上げられていました。
 小樽商科大は、改修工事を実施する同大4号館の1階男女別トイレの右側のスペースに来年2月、多目的トイレとオールジェンダートイレを設置することにしました。同大によると、道内の大学でオールジェンダートイレの整備は珍しいそうです。
 同大では昨年度、学内外向けにLGBTQに関するセミナーを開催するなど、多様性尊重に向けた取組みが進められています。片桐由喜副学長は「多様な性自認を持つ人が暮らしやすい世の中にしていこうと設置を提案した。今後社会に出る学生も多様性について意識するようになる」と語っています。


 

参考記事:
心を病むトランスジェンダーの子どもが増加 社会が求める男女区分に過度に適応しようと苦しむ(AERA)
https://dot.asahi.com/articles/-/199270
トランスジェンダーの子どもの孤独感、全国調査の8.6倍 学校がつらく不登校や通信制選ぶ10代に居場所必要(AERA)
https://dot.asahi.com/articles/-/199396

男性トイレでは冷視され、女性用に入るわけにもいかず…「我慢が積み重なるときつい」 性的少数者が望む解決策は(沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1206137
【詳報㊦】どう考える? 性的マイノリティーのトイレ問題 識者に聞いた(沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1207194

小樽商大に性別フリートイレ 来年2月、学生に多様性意識促す(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/895499/

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