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4月1日、広報すぎなみに「性の多様性尊重条例」施行を祝う区長コメントが掲載され、市民団体のお祝い街宣も行なわれました
4月1日、東京都杉並区で「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」が施行され、同日付の『広報すぎなみ』の裏表紙に「誰もが自らを肯定し、希望を持って生きていけるように」と題した岸本聡子区長の言葉が掲載されました。また、同日、「杉並から差別をなくす会」の方々が阿佐ヶ谷駅前で条例の制定とパートナーシップ制度実現をお祝いする街宣を行ないました。
2015年に渋谷区・世田谷区で同性パートナーシップ証明制度がスタートし、その後も2018〜2019年に中野区、府中市、江戸川区、豊島区で、2020年には文京区、港区、小金井市、国分寺市で、といった具合に都内の市や区で次々に制度が認められていくなか、世田谷区や中野区に隣接する杉並区は、区議会では2015年3月にはすでに制度導入を提案する質問があったそうですが、2016年には区議会の一般質問で小林区議から「レズ、ゲイ、バイは性的嗜好であり、現時点では障害であるかどうかが医学的にはっきりしていません。そもそも地方自治体が現段階で性的嗜好、すなわち個人的趣味の分野にまで多くの時間と予算を費やすことは、本当に必要なのでしょうか」という差別的な発言もあり、2019年には「LGBTに関する施策の促進を求める陳情」と同時に「パートナーシップ制度の慎重な対応を求める陳情」も出されるなど、制度に反対する人々の動きもあって、導入に向けた検討が進んでいませんでした。昨年3月にようやく制度創設を求める陳情が区議会で採択され、また、新たに区長に選ばれた岸本聡子区長が9月12日の所信表明演説で「制度の創設に関する陳情が区議会で採択されたことも踏まえ、区民や当事者の方たちからのご意見をうかがいながら、杉並区版パートナーシップ制度の年度内の条例化を目指して準備を進めていきたいと考えています」と述べ、条例による制度の整備が進むことになりました。
そして今年3月15日の区議会本会議で「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」が賛成多数で可決され、4月1日から施行、「杉並区パートナーシップ制度」は4月24日からスタートすることになりました。
4月1日付の『広報すぎなみ』では、裏表紙に岸本聡子区長が「誰もが自らを肯定し、希望を持って生きていけるように」と題した文章を寄せました。
「3月15日の区議会本会議で「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」が可決されました。
同性を好きになる方や異性も同性も好きになる方、身体の性と心の性に違和感を持つ方など、性的マイノリティーの方々の生活上の不自由さや不安を軽減し、自分らしく生きるためには、区民一人一人が性の多様性について理解することが不可欠です。そのため、性的指向や性自認を内心にとどめることを希望する方の平穏な生活の確保に配慮しつつ、全ての区民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する地域社会の実現に向けて取り組むために、この条例を制定いたしました。
条例可決に至る過程では、国の法整備を待つべきではないか、都が4年11月からパートナーシップ宣誓制度を開始したのだから区の制度は不要ではないか、といったご意見がありました。しかし、待ちの姿勢で自ら動こうとしないのでは、女性・障害者差別等の歴史的経緯をみても、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を助長することにつながりかねません。すでに世界の多くの国や自治体が性的マイノリティーへの差別をなくしたり、同性婚を認めたりする法律や制度を、時には激しい議論を生みながらも作ってきたのです。
区は、住民に最も身近な自治体として、条例により明確に性的マイノリティーに対する偏見をなくすための取り組みを“自ら”進めていくべきと考えております。
区としては、区民・事業者に条例の趣旨が正しく理解され、適切な行動につながるよう、啓発活動にしっかり取り組んでいく考えです。また当事者の協力を得て、地域社会の中で全ての区民が対等・平等な人間関係をつくり、相互理解を深めるための努力をしていく所存です。
4月からは、この条例に基づき、「杉並区パートナーシップ制度」がスタートします(下記参照)。これまで生きづらさを感じてきた性的マイノリティーのカップルを地域社会が祝福し、支えるための制度として運用するとともに、ここを出発点として、多様なご意見等を把握しながら制度を育ててまいります。誰もが自らを肯定し、希望を持って生きていけるように皆さんのご理解とご協力をお願いいたします」
4月1日には(「杉並区パートナーシップ制度」を含む)性の多様性尊重条例の施行を祝い、「杉並から差別をなくす会」の方々が阿佐ケ谷駅前でお祝いの街宣を開催し、現職の区議や、区議候補の方、関口健太郎都議、石川大我参議院議員などが駆けつけ、スピーチしました。
4期務めるベテランの奥山たえこ区議は、「条例に反対するメールがたくさん来た。性自認を認めると男が女だと言って女湯に入ってくると言う。どうもおかしいと思って調べてみました。当事者の人たちは銭湯や温泉に入ることを諦めているどころか、トイレにすら入れない苦しい生活。このような人たちを守らなくてはいけません」と熱く語りました。
ひわき岳区議は、「4月1日は私が好きだったレスリー・チャンの命日です。彼も性的マイノリティだったと言われています。『ブエノスアイレス』という映画も同性愛を描いた作品でした」という素敵なスピーチをしてくれました(4月1日がレスリー・チャンの命日であることを憶えてくれている議員さんがいること自体も感激ですし、まさに4月1日にその話を聞くなんて思いもよらず…うれしい驚きでした)
2015年に区議会で初めて同性パートナーシップ証明制度の提案をしてくださった富田たく区議は「今日この施行の日を祝えることを本当にうれしく思います」と語りました。
そのほか、今度の区議選に出る予定だという小池めぐみさん(LGBTQは13人に1人とか、自殺念慮の率の高さなど、実にLGBTQのことをよく理解し、日頃から考えているということが伝わってくるお話でした)、山名かなこさん、安田マリさん、てらだはるかさん、杉並区選出の関口健太郎都議らもスピーチし、最後に石川大我参議院議員もゲストとして登壇し、お祝いの言葉を述べました(もうすぐ行なわれる区議選では議席を争うライバルになるはずの皆さんがこうして超党派で共に街宣を行なうのはとても珍しいこと、とも述べられていて、「なるほど、確かに」と思いました。LGBTQを支援する条例の成立を党派を超えて祝ってくださっている「有り難さ」をひしひしと感じました)
この記事はここで終わってしまってもよいのですが…無視できない深刻な実情もあるということをお伝えしなくてはなりません。
「杉並から差別をなくす会」が立ち上げられた背景には、杉並区の深刻なトランスヘイトの実態があります。
性の多様性尊重条例(パートナーシップ制度を含む)に関する区民向け説明会が昨年末に2回、開催されたのですが、その際、区役所前で「男が心は女だと言って女装して女風呂に入ってくるようになる」などとするトランスヘイト街宣が展開されました(区民向け説明会の場でも、「典型的なトランス差別であり、当事者の区民の生活や命を脅かすもの」「あのようなヘイトスピーチをやめさせることはできないのか」といった声が上がりました)。実はトランスヘイト街宣はその前から行なわれていて(今も続けられています)、これをなんとかしたいと、市民の有志や上記の議員の方たちなどが「杉並から差別をなくす会」を立ち上げ、ヘイト街宣に対してカウンターを行なったり、チラシを作ったり、性の多様性尊重条例に賛同する街宣を行なったり(賛同者が3日間で126人も集まりました)、さまざまなかたちでLGBTQを支援する活動を展開しました。
3月6日の予算特別委員会での審議では、トランスヘイトの問題について複数の区議の方が質問し、条例制定によってトランスジェンダーによる性犯罪が増えるわけではないこと、犯罪を抑止し取り締まる法の運用も変わるわけではないことが確認され、区の担当の方が「トランスジェンダーの人たちについて、属性をもって犯罪と結びつけることは合理性に欠ける」「「性自認」は性のあり方の一形態と捉えており、尊重されるべきもの。条文に載せて尊重する」「差別的言動が現在区内で行なわれていることを受け止め、条例の主旨に沿って、性の多様性が尊重される地域社会の実現に向けてきちんと区民の理解、協力が得られるように、啓発に取り組んでいく」と答弁し、最後に区長も「性の多様性を尊重する条例が制定されたあとは、組織横断的に差別に対する取組みを今後益々充実させていく」と語りました。区長は議会での条例の成立後、「区民に心配や誤解があるので条例をきっかけに解消していきたい」とも語りました。
同会は現在、川崎市のような実効性のあるヘイトスピーチ禁止条例の制定を求める陳情を計画していて、街宣では署名集めも行なわれていました(オンライン署名も始まるかもしれませんので、その際はお知らせいたします)
世の中にはトランスジェンダーじゃない方の画像を使ってまでトランスジェンダーを攻撃するなど、差別を楽しんでいるのではないかと疑われるようなひどいヘイターがウヨウヨいて、杉並区では実際に街頭でヘイトスピーチが行なわれるという深刻な状況がありましたが、こうして強力なアライの方たちが団結してこれに抗し(地元のゲイの方の中にもカウンターに参加している人がいるということもお伝えしておきます)、区長さんや区の方とも話し合いながら、ヘイトの解消に向けて具体的な取組みを進めようとしています。SNSが怖くて見れない…と絶望しかけている当事者の方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、この杉並区のアライの皆さんの活躍のことを知っていただき、「世の中捨てたもんじゃない」と感じていただければ幸いです。
(後藤純一)