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神政連が統一地方選候補にLGBT法への反対を求める公約書を送っていました
全国8万社の神社を包括する神社本庁の政治団体・神道政治連盟(神政連)が、この4月に実施されている統一地方選挙で、LGBT理解増進や選択的夫婦別姓制度の導入に反対することなどを求める公約書(政策協定書)を各自治体の候補者に送っていたことがわかりました。公約書を受け取った自民党県議らが『東洋経済』誌に明かしたものです。
神政連が統一地方選挙の候補者に送っていたのは7項目の公約で、女性天皇につながる「女性宮家」創設への反対や憲法改正、宗教的情緒の涵養、首相や閣僚による靖国神社参拝などが挙げられています。
家族にかかわる政策については「伝統的な家族制度の崩壊につながりかねない選択的夫婦別姓制度の導入に反対し、その対処策として、旧姓の使用拡大に努めます」、「各自治体におけるパートナーシップ制の制定等の動向を注視するとともに、民法で定める法律婚を大事にしてその意義啓発に努めます」などと記されています。
神政連の公約書を受け取った一人で、4月16日実施の埼玉県議会選挙で5期目の当選を果たした自民党の田村琢実埼玉県議は、「神政連から公約書が送られてきたのは今回の選挙が初めて。これまで一度もなかったのに、今回送られてきた理由はわからない」としています。
埼玉県神社庁幹部によると、埼玉県議会が2022年、性の多様性条例を可決する前に実施されたパブリックコメントに際し、神政連埼玉県本部の役員会で「事務局長が役員たちにパブコメで『反対意見を投稿するように』という趣旨の呼びかけをしていた」といいます。
条例制定に中心的な役割を果たした田村県議は、右翼団体の街宣車から「夫婦別姓推進の田村琢実は反保守活動家」などと“口撃”されたそうです。神政連の公約書にも同意しなかったため、推薦候補にはなっていません。
田村県議は「LGBTQの当事者たちは、(現行の)制度によって苦しんでいる。困っている人を助けるのが政治の役割なのだから、条例制定は政治家として当然のこと」「反対する人たちは、単に理解をしていないだけ。LGBTQを認めると国が壊れるという意見があるが、同性婚や夫婦別姓を認めている国が壊れたでしょうか」と語っています。
神政連は昨年6月、自民党の神政連国会議員懇談会の中で、同性愛を「後天的な精神の障害、または依存症」などと記した冊子(「夫婦別姓 同性婚 パートナーシップ LGBT」と題した冊子に掲載された楊尚眞弘前学院大教授の講演録)を配り、非難を浴び、抗議が起こりました(「LGBT差別冊子への抗議署名5万筆が提出されました」)
今回の統一地方選挙で神政連埼玉県本部など地方本部が自民党の公認候補らに送っていた公約書は、2021年10月に実施された衆議院選挙の際、神政連中央本部が自民党の国会議員と交わした公約書と同じ内容です。神政連の資料によると、神政連の公約に賛同・署名をした234人の候補を推薦候補とし、うち202人が当選を果たしました。
『東洋経済』は神政連に対し、「全都道府県の、どのくらいの数の県議候補、市議候補に公約書を送っているのか」を尋ねましたが、「回答は差し控える」との回答だったそうです。
旧統一教会問題については安倍元首相の死去後、多くの国会議員や地方議員が教団のイベントに出席したり祝電を送ったりなどする代わりに国政選挙や地方選挙で強力な支援を受けていたことが発覚しました。
旧統一教会と主張が似通う神政連の公約書は、どれだけの候補者に送られ、どの候補者が「賛同・署名」をして神社界の支援を受けているのかは明らかになっていません。
旧統一教会というカルト教団だけでなく、“由緒ある”日本の全国約8万の神社を統括する神社本庁までもが、LGBTQの権利擁護に反対するよう議員に公約書を送り、政策協定を結んでいたことは、非常にショッキングなニュースです。件の冊子のことだけでもひどいと猛抗議が起こったわけですが、今回の件で完全に「旧統一教会と並び、LGBTQに強力に反対してきた組織だ」ということが明らかになったのです。
日本は欧米と違ってアンチ同性愛の宗教がないから云々という言説は完全に誤りでした。
神社で働くLGBTQの方たちは昨年11月、「神道は明確な教義を持たない多様性ある宗教。神政連が打ち出す“伝統的家族観”の解釈は極めて差別的です」「差別が人間を殺すものだとすれば、死ねと言われている我々にとっては断固拒否すべきものです」「神職が勝手な好みや都合で人々を排除し信仰の妨げとなることはあってはならないことです」「神社関係者すべての方に、差別反対の意思表明をお願いします」といった内容の意見書を発表しています。神道における(八百万の)神とは、自然現象などの信仰や畏怖の対象であり、もともと神道は(一神教と異なり)明確な教義を持たない、多様性ある宗教でした。それがなぜ、旧統一教会のような政界工作を行なってまで、LGBTQの権利擁護を抑制するようになったのか…。本当に解せません。
旧統一教会の動きと並び、神政連がどの程度議員に働きかけを行ない、アンチLGBTQの政策協定を結んできたのかということの実態が解明されてほしいです。(LGBTQ法に反対すると約束して)神政連の推薦をもらって当選した議員は、そのことを明らかにすべきではないでしょうか。
【追記】2023.4.25
田村県議がTBSのインタビューに応じました。「こういったことを、神道を司る神職の団体が送ってくること自体が、もう神道をないがしろにしてるんじゃないかな、という思いが一番強いです。特にですね、選択的夫婦別姓や、LGBTQの問題に関して、理解がすごく足りないな、というふうに感じてます。選択的夫婦別姓を求めてる方も、LGBTQの方も、日本国民なので、この人たちはを何でないがしろにできるのか、非常に私はわからない」
【追記】2023.4.27
テレビ朝日も田村県議にインタビューを行ないました。
「『伝統的な家族制度の崩壊につながりかねない選択的夫婦別氏制度の導入に反対し、各自治体におけるパートナーシップ制等の動向を注視する』。これ、他人の恋愛に口挟んでいるような問題。『あなたの家庭こうじゃなきゃ』と普通は言わない。でもこれは『伝統的な家族じゃなきゃいけない』と言っている」
「(Q.公約書にサインは?)していない」「(Q.理由は?)神職がこういう教義を持って活動することに違和感があったから。こういう新たな思想を普及させたり行わせたりするような団体と認識していなかったので、驚いているとともに神職をつかさどる人が意思表示をすることに違和感」
また、昨年の埼玉県の性の多様性条例の制定の際、県の神社庁から圧力があったことも明かしました。「同僚議員が個別に呼ばれて批判や苦情を言われたことはあった。差別禁止にされると、神社に同性カップルが来た時に断れないじゃないかという苦情」
参考記事:
【独自】神社庁が統一地方選候補に送りつけた「公約書」の中身、LGBT増進法案国会提出に水を差す(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/667833