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G7外相共同声明、LGBTQの権利の促進と保護を主導すると明記
4月16日~18日、G7長野県軽井沢外相会合が開かれ、18日にコミュニケ(共同声明)が発表されました。その「ジェンダー平等」の章で「LGBTQの権利の促進と保護に関するG7の世界的リーダーシップを再確認する」と明記されました。
23 ジェンダー平等
我々は、ジェンダー平等並びにあらゆる多様性を持つ女性及び女児並びにLGBTQIA+の人々の権利の促進と保護に関するG7の継続的な世界的リーダーシップを再確認する。我々は、特に女性及び女児の権利の世界的な後退並びに紛争及び危機が女性及び女児に与える不均衡な影響に強い懸念を表明する。我々は、紛争関連の性的暴力及び技術により促進された性的暴力を含む、性的及びジェンダーに基づく暴力の撤廃にコミットしている。我々は、全ての政治及び和平プロセスにおける女性の完全なエンパワーメント及び完全で、平等で、意義ある参加を確保する重要性を強調する。我々は、ジェンダーに配慮した気候変動対策を
進め、デジタルにおけるジェンダー間の格差を埋め、ケア・エコノミーを強化及び制度化し、並びに教育におけるジェンダー障壁を取り除く重要性を認識する。我々は、国連安保理決議第1325号及びそれに続く決議に従って、世界的なWPS(Women, Peace and Security)のアジェンダを実施することへのコミットメントを再確認する。
(G7外相コミュニケ和文仮訳より)
「あらゆる多様性を持つ女性及び女児」とは、トランスジェンダー女性をも含意した表現だと考えられます。
LGBTQIA+への直接の言及は冒頭の一文だけですが、このように「LGBTQの権利の促進と保護に関するG7の世界的リーダーシップを再確認する」と明記され、これを日本も承認したことの意義は決して小さくないはずです。
日経新聞は「日本はG7で唯一、性的指向や性自認を巡る差別を禁じる法令を定めていない」と指摘し、共同通信は「今年2月の岸田文雄首相の秘書官(当時)による差別発言を受けて対応に乗り出した岸田政権は、共同声明の誠実な履行を求められそうだ」と述べています。
共同声明の誠実な履行とは、LGBTQの権利の促進と保護に率先して携わることを意味しますが、かねてより指摘されている通り、日本はG7で唯一、LGBTQ差別を禁止する法律を持っていませんし、日本のLGBTQ+の法制度の整備状況はOECD加盟国35ヵ国の中でワースト2位であり、「世界的リーダーシップ」には程遠い状況です。G7サミット議長国として最低限、速やかにLGBTQ差別禁止法(や同性婚法など)を制定しなければ辻褄が合わず、共同声明はデタラメだったということになってしまいます。
なお、G7サミットといえば、先日開催されたP7サミットのコミュニケが公開されました。「G7参加国政府は、グローバル・リーダーに相応しく、自国の法律、政策、慣行がLGBTQIA+の人々を守る国際人権基準を満たしていることを確認し、世界中の虐待やハラスメントに対処するため、確固たる行動を取るべきである」「私たちはG7参加国政府に対し、SOGIESC(性的指向、性自認・性別表現、身体の性的特徴)の分野における政治的・財政的支援と保護を促進・強化するよう呼びかける」として、「G7開催国政府に対し、差別禁止法、婚姻平等、生命と身体の自己決定、性別の自己決定などの国際人権基準に沿って、各自のSOGIESCの状態にかかわらず、平等を保証する法律を制定することで、各国がその義務を果たし、リーダーシップを発揮するよう求める」といった11の取組みを求めています。
このP7コミュニケは近々、G7各国政府に提出されるはずです(なお、12日にLGBTQ法の整備を求める5万6千筆の署名が超党派LGBT議連に提出されましたが、こちらも近々、政府に提出されるはずです)
なお、本日、社民党党首の福島瑞穂議員が参議院の法務委員会で、LGBTQの権利擁護に関する質問を行ないました。(参議院インターネット審議中継より)
福島議員は、自民党の性的マイノリティ特命委員会で同性愛は治癒可能だと説く八木秀次麗澤大教授を“有識者”として招いて勉強会をしたことについて(詳細はこちら)、ショックを受けた当事者もいる、コンバージョンセラピーは国際的には拷問に等しいと見なされている、これは極めて問題だ、現在、法務省のHPからLGBTQについての記述が消えているが(詳細はこちら)、間違っても性的指向や性自認は“治療”できるものではない、コンバージョンセラピーは行なってはならないと明記すべきではないかと問いました。これに対し、齋藤法務大臣は「治療で直すべきという見解はとってない」と答弁、法務省の鎌田人権擁護局長は、「治療が必要と言ったことはない。HPの内容は現在、検討しているところ。ご意見を踏まえていく」と答弁しました。
さらに福島議員は、海外メディアでも杉田議員の“生産性”発言や、同性愛は“依存症”だなどとする神政連冊子の問題が報じられ、日本はLGBTQに敵対的だと言われている、G6諸国からも求められているようにLGBTQ差別禁止法を制定すべきではないか、LGBTQ差別禁止は東京都などの条例でも明記され、アイヌ新法や男女共同参画法、障害者差別解消法などでも「差別禁止」と謳われているが、何か問題があったのか、と問いましたが、齋藤法務大臣は「法整備に関しては、あり方について様々な意見があり、議論を注視していく」というこれまで岸田総理が述べてきたのと同様の答弁に終始しました。
最後に福島議員は、海外で同性婚した外国人と日本人の在留資格について、3月に特定活動での在留資格が認められたが、他の場合にも一般化してほしいと要望しましたが、齋藤法務大臣は「今後も在留申請があったら、状況や必要性など具体的な内容を個別に判断していく」と述べるに留めました。
この間、様々なメディアがLGBTQ関連の法整備について報じています。
週プレNEWSは、複数の当事者の方の声を紹介しています。タレント・俳優の一ノ瀬文香さんは、「同性婚の法制化は、同性愛者にとって幸せな選択肢が増えるだけで、同性愛者でない人にとっては何も変化はありません。そして、法の不備を是正することで誰にとっても幸せな社会に変わることは、社会的に幸福度が増して良いことです」「法律の専門家たちに言わせると、民法で使われている『夫婦』の単語を『婚姻の当事者』と置き換えたり、戸籍の届け出書式や記載事項を少し修正したりするだけで同性婚は可能になるそうです。ただ、その整備に躊躇する方々が国会の中にいらっしゃる。もちろん、与党の中にもLGBT問題に詳しく、ある程度理解を示している方もいる。同じ与党の中でも意見は多種多様なんだろうなと想像しています」「国会ではLGBT法の条文の中に、差別を禁止する文言を入れるかどうかで揉めていますね。憲法第14条では性別などを理由に差別を禁止することが明確に書かれているので、セクシュアリティを理由に差別してはいけませんというのは自然なこと。党も派閥も超えて協力していただき、差別を禁止する文言も入れた上で、早く成立させていただきたいです」と語っていました。また、前衆議院議員の尾辻かな子さんは、「私はLGBTの議論の多くは『差別』『人権』の問題だと考えています。ひとりひとりの権利を守るための社会制度の構築こそ政府の役割です。婚姻の選択ができない状況は平等ではありません。現在、同性婚の是非を問う裁判が、全国で6件あります。そのうち『同性婚を認めない』社会のありようについて、札幌地方裁判所では『違憲』、東京地裁では『違憲状態』という判決が出ました。大阪地裁では合憲だったのですが、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものではない、という判決が出ています。この流れでいくと、2、3年後には最高裁で同性婚の是非が争われることになるでしょう。そのとき、『違憲』という判決が出れば、国会は同性婚を立法化するほかないと思います」「前首相秘書官の発言がこれだけ問題になるほど社会は変わってきています。私は今の社会を変えられるし、変えなきゃいけないと思っています」と語りました。
毎日新聞「政治プレミア」で武蔵野美術大の志田陽子教授は、こう述べています。「同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定は違憲とした札幌地裁判決(2021年3月)は、憲法14条(法の下の平等)に違反しているとした。保障されるべき人権がなんであれ、アイデンティティを理由に対象から外されている人がいる場合には、排除に合理的な理由があるかを問い詰めなければならない。同性婚に道が開かれていないことに合理的な理由があるとは考えられない。同性婚が制度化されたことで不利益を受ける人はいない。「国民の感情」つまり、価値観に合わないというのは合理的な理由には入らない。一方、法制度が存在しないことを「違憲状態」とした東京地裁判決(22年11月)は、「(婚姻などに関して)法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」とした憲法24条2項をあげた。両者の合意のみによって成立すべきものを、同性であるという理由によって阻むのは憲法違反だというべきだ」「『人権は少数者のためにこそある』とよく言われる。多数決で決めていいこともあるが、いかに多数であっても人間の尊厳を奪うことはできない。民主主義によっても奪えない「切り札としての人権」の行使は、広がりすぎると意味が薄まってしまうので注意すべきだが、必要な時には行使すべき、憲法の重要な役割の一つだ」
それから、時事通信の記事ですが、LGBT法が成立すれば“『心は女だ』と言うだけで男性も女湯に入れるようになる”といった根拠不明の発言がネット上で飛び交っていることについて、NPO法人東京レインボープライドの監事も務める立石結夏弁護士が「明確な誤りだ」と否定しています。LGBT法ができても社会のルールは変わらない、性別変更は慎重に診断され、治療にはリスクもある、不妊手術を強要する性別変更要件は「残虐」で「差別的」だと、筋道立てて説明したうえで、立石氏は「理解増進法では不十分だと思う。差別禁止法も今ある権利を明確にするものにすぎない。弁護士としては、これらの法律ができてもすぐに訴訟を起こして勝てるとは全く思えない。このような抽象的な法案であるにもかかわらず、差別禁止を躊躇したり、理解したりするのも嫌だというのは、世界に対し日本の後進性を発信し続けることになる」と述べています。
本当に、一日も早く、LGBTQを差別から守り、平等な権利を認める法律が制定されてほしいですね。
参考記事:
LGBT人権、G7が明記 共同声明「世界を主導」(共同通信)
https://nordot.app/1021017491780059136?c=768367547562557440
LGBTの人権「促進と保護を主導」 G7外相声明に明記(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA18B000Y3A410C2000000/
日本は性的マイノリティの法整備が「先進国ワースト2位」!! LGBT理解増進法、"当事者の本音"を聞きまくった!(週プレNEWS)
https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2023/04/14/119053/
同性婚の制度化 憲法は要請している(毎日新聞)
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230414/pol/00m/010/007000c
「心は女」だけでは女湯に入れない LGBT法整備、立石弁護士に聞く【政界Web】(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/v8?id=20230414seikaiweb