NEWS
同性愛者と自認しただけで“犯罪者”になるウガンダの法案に、国際社会から非難の声
大阪地裁がウガンダから逃れてきた同性愛女性を難民と認定というニュースでもお伝えしたように、同性間の性行為に対して最高で終身刑が科され、同性愛の”普及”や同性愛行為の“扇動”“共謀”に関与しただけで最高10年の禁錮刑を科すような法案が議会に提出されていると報じられていたウガンダですが、それよりさらに恐ろしい、同性愛者だと自認しただけで“犯罪者”とされ、性交渉を繰り返した場合には死刑に処されるような法案が21日、ウガンダ国会で可決されました。
この法案では、同性愛者が性交渉をくり返したり、HIVを持つ同性と性交渉を持ったりした“重度の同性愛”には「加重罪」が適用され、死刑にされる可能性もあります。「未遂罪」は14年以下の禁錮刑とされています。
法案の成立には大統領の署名が必要で、今後はムセベニ大統領の判断が焦点となります。
国際社会からは非難が相次いでいます。
トゥルク国連人権高等弁務官も「この種の法案としては、おそらく世界最悪だ」とする声明を発しました。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「人々がありのままでいること自体を犯罪とみなし、現状以上にプライバシーの権利や言論、結社の自由を侵害する」と批判しています。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、「この非常に抑圧的な法律はLGBTI の人たちに対する差別、憎悪、偏見を制度化するものにほかならない。ウガンダ政府は同国の憲法だけでなく、アフリカ憲章にも謳われている平等と非差別の原則に沿った法律や政策を制定し、LGBTIの人たちを保護すべき」とのコメントを発しています。
ウガンダではもともと(他の多くのアフリカの国々と同様、英国植民地時代のソドミー法が残っていて)同性間の性行為は違法でしたが、2010年、現地のタブロイド紙が「同性愛者手配リスト」として約100人の氏名や住所、顔写真を公表し、「絞首刑にしろ」などと書き立てて反同性愛感情を煽るというひどい事件があり、2011年にはそのリストに名前が載っていたゲイの活動家、デヴィッド・カト氏が自宅で撲殺されました(オバマ大統領がその死を悼む声明を発表しています)。同年、ゲイを死刑にすることができる法律が制定されそうだと報じられましたが、国際社会が動き、ムセベニ大統領は法案への署名をとりやめました。
しかし2013年、この法案の死刑の条項を終身刑に修正した法案が国会で採択され、ムセベニ大統領は署名する意向を示し、再び国際社会から非難を浴びました(この時の法案も、同性間の性行為のうち一方がHIVに感染している場合や「連続犯」、未成年者との性行為を重罪とするものでした)。2014年、ウガンダの憲法裁判所によってこの恐ろしい法案が無効とされ、パレードも行なわれました(よかったですね)
このように、同性愛者を死刑にできる法案は過去にも国会で採択されたことがあり、国際社会の非難を受けてムセベニ大統領が承認を思いとどまってきたという流れがあります。ですから、今回も、この恐ろしい法案の承認をやめるよう世界中で声を上げ続けることに意味があります。おそらく近いうちに国際的な団体が署名を立ち上げるでしょうから、ぜひ賛同を。
また、冒頭のレズビアンの方のように、ウガンダから日本に逃れて来る方もいらっしゃるでしょうから、国が難民として受け入れ、強制送還などしないよう求めていくことも大切です。
【追記】2023.3.27
署名が立ち上がりました。「アンチ同性愛法を不成立に」との趣旨です。英語ですが、名前とメールアドレスを入力するだけの簡単なものですので、こちらからぜひ。
90年代に動くゲイとレズビアンの会(OCCUR)で性的マイノリティの人権問題や国内外のエイズ問題などに取り組み、現在はNPO法人アフリカ日本協議会で活躍している稲場雅紀氏が2014年、「「魂のジェノサイド」――ウガンダ「反同性愛法案」とその起源」という記事をシノドスに寄稿しています。稲場氏は、ウガンダの反同性愛法案が、植民地時代の名残であるソドミー法にさらに上乗せされた自国民が選び取った法であることを踏まえたうえで、なぜウガンダでこのような苛烈な同性愛者弾圧が行なわれてきたのかということを、米国のキリスト教保守派による継続的なロビー活動の存在を指摘しながら、「米国のキリスト教右派勢力とウガンダの「伝統的家族の価値を守る」保守派勢力のいわば「合作」とでもいうべきもの」だと説明し、「欧米のキリスト教保守派と各国の国内の宗教右派・伝統主義者が「反同性愛」で連携を強化している状況」だとして、その背景にある、近現代におけるサハラ以南アフリカと欧米との関係史をひもときながら、「この<現象>は、これら「国際社会」が作り出したグローバルな政治的・経済的なシステムの歴史的変遷の帰結として生じているものであるといえる。それに対して、「国際社会」は、ウガンダの「反同性愛法案」という、いわば<現象>に対して、「人権」を旗印に対峙するにとどまっている。もちろん「対処療法」は必要だが、それだけでは十分ではない」と指摘しています。
一つ希望が持てるのは、オバマ政権の取組みとして2011年12月に「グローバル平等基金」が設立され、アフリカを含む世界のLGBTの人権運動を支援するとともに、この基金や各国においた米国大使館をベースに、人権運動と各国政府などの連携を促進する活動が行われ、アフリカにおけるLGBTの状況を具体的に改善するうえで一定の役割を果たしたというお話です(逆に、植民地支配の際にソドミー法を持ち込んでおきながら、同性愛嫌悪を世界化したことの責任を取ることなく、「同性愛者を迫害する国への財政支援を停止する」とマラウィ政府を脅迫した英国の対応が批判されています)
「<今・ここ>の暴力に対して、国際社会は明確な「ノー」を言う必要がある。その一方で、歴史的に構築されてきたこの問題に対して、中長期的に、その歴史的負債を解消していくプロセスも必要だ。国際社会には、アフリカにおける同性愛者の迫害の問題を単に「アフリカ」の責任に帰するのでなく、自らに内在する歴史的責任として向き合い、解決に向けて現地のLGBTの運動を積極的に支援していくことが求められている」と結ばれるこの論考、本当に素晴らしいのでぜひみなさんに読んでいただきたいです。
参考記事:
ウガンダ議会、性的少数者に禁錮刑科す法案を可決(CNN)
https://news.livedoor.com/article/detail/23914489/
ウガンダ、性的少数者を処罰へ 議会が法案可決、最高で死刑も(共同通信)
https://nordot.app/1011439770666057728
ウガンダで反LGBTQ法案可決 禁錮刑も可 大統領判断が焦点(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230322/k00/00m/030/324000c
同性愛者自認だけで「犯罪者」に ウガンダで「世界最悪」の法案可決(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR3R3CX9R3RUHBI00K.html