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LGBT法連合会がトランス女性をめぐるデマに抗議する声明を発表し、記者会見を開きました
LGBT法連合会は16日、都内で記者会見を行ない、「性的指向や性自認を尊重する(差別を禁止する)法整備が進むと、男性が“心は女性だ”などと言って女湯に入ってきても差別を理由に止められなくなる」などといった事実無根の言説が流布され、トランスジェンダーに対する中傷が相次いでいることに対し、「デマが当事者の生活を脅かしている」「人々の不安をあおる議論は、性自認による差別と憎悪を助長するもので断じて容認できない」と抗議する声明を出しました。
会見では、2000年代の東京プライドパレードの理事などを務め、2003年の性同一性障害特例法の成立にも尽力し、現在LGBT法連合会の顧問を務めている野宮亜紀さん「Rainbow Tokyo 北区」代表で、プライドハウス東京や「結婚の自由をすべての人に」の活動にも携わっている時枝穂さんのようなトランス女性も登壇し(とても勇気の要ることです。彼女たちが自ら表に出て、このように語らなければいけないこと、胸が痛みます)、自身の体験を語ったり、「以前仲間外れにされたことがあり職場でカミングアウトしていない、家族の絶縁状態で、ネット上の友人以外にいないが、ネットでは安心できる場所がなくなり、絶望している」「中学・高校で凄惨ないじめに遭い、社会に出て働きたいが、怖くて生きていいけない」「性暴力の被害に遭ったが、警察でどんな対応をされるか怖くて、届け出ることができなかった」といった当事者の声を紹介しました。時枝さんは沈痛な面持ちで「本当に人目を気にしながら、社会の中で自分がどういうふうに性別が見えているんだろうかと気にしながら暮らしています」「この日本で生きてていいのかと苦しみました」「当事者はただ普通に暮らせていけたらと願っています」と語っていました。
立石結夏弁護士は、「トランスのジェンダーの方の中にも性別適合手術を受けた方もいれば、そうでない方も様々いる」「すでに社会の中でトランスジェンダーの方が暮らしているが、現状で公衆浴場やトイレについてもめ事になるケースは非常に少ない」
としたうえで、女湯云々の話について、公衆浴場関連法で身体の特徴に基づく性別のゾーニングは7歳以上から義務づけられているが、トランスジェンダーの方については事業者が誰にどのようなサービスをするかは事業者の判断に委ねられている、個々の事情に応じてだが、一見して自認性と身体の特徴が異なる場合は当然に入浴できるわけではなく調整が必要になるため、“女性だ”と言って男性が入ってくるのは誤りだ、トランスのフリをして女湯に入ってきて“心が女性”と言えばまかり通るはずがない、極めて非現実的だ、大多数の当事者はそういう判断をしていると説明しました(時枝さんも公衆浴場に行くことはあきらめていると語っていました)
そして、LGBTを差別から守るための法案は「現行法を変えるわけではなく、ただ(パワハラ防止法など)現行法で認められたマイノリティの権利を明確にしているに過ぎない」と強調しました。
また、性暴力、性犯罪に関しては、何らかの関係がある人からの加害が非常に多く、法務省の性犯罪検討会でも全く面識のない人からの性犯罪はたったの2件しか報告がない(性犯罪のほとんどは、シスジェンダー異性愛男性が身内や知り合いに対して行なっている)、他の課題が山積しているなか、このようなデマは、現実の社会問題になっていないのに、人々に偏見を植え付け、社会の分断を招くものだとも述べました。
東京レインボープライド共同代表の杉山文野さんは、性別移行した人としての自身の経験を語り、「高校時代、多くの同級生が痴漢の被害に遭っていたが、周囲からはスカートを短くしているのが悪いなどと言われ、傷つく人が多かった」「20代半ばから性別移行したが、“相手に嫌がられても無理やり触るべきだ”などと言う男たちもいて、愕然とした」「トランスヘイトはトランスジェンダー自身の問題ではなく、ジェンダー不平等の問題。いつまでたっても男女不平等な日本社会の問題」「トランス女性はダブルマイノリティ。掛け算的に生きづらさがつのる」「まるで加害者であるかのように扱われ、暴力的な言葉に身近な友人が傷ついているのは看過できない」「ただ、必ずしもLGBTQ法案に反対するすべての人を責めるつもりはない、性加害に傷ついてきた方々がいるのも承知している」「本来は、ともに声を上げられるはず。ぜひデマに踊らされず、リアルな現状を知って、行動を」「トランスジェンダーもシスジェンダーの方も、すべての人が安全に暮らせる社会を願っている」と語りました。
まとめとして、LGBT法連合会の声明が発表され、神谷事務局長は「すでに全国約60の自治体でLGBT差別を禁止する条例が成立しているが、公衆浴場の利用ルールが変わったり、社会が混乱したという事由は報告されてない」「こうしたデマが流布され、信じてしまう人がいることからも、やはり、差別禁止法が必要」「これまで積み上げられてきた冷静な議論に基づき、考えてほしい」と述べました。
LGBT法連合会の声明文を以下にお伝えします。
トランスジェンダー女性に対するデマへの毅然とした対応についての声明
LGBT法連合理事一同
ここ数年間、トランスジェンダー女性を公共空間での性暴力と関連づけ、性暴力加害者であるかのように危険視、中傷するデマが後を絶たない。当会は、かねてからこのようなデマは、トランスジェンダー女性に対する差別を助長するものであると指摘してきた。しかるに、昨今、法整備の機運が盛り上がる中で、このようなデマが、極めて広範囲にわたって流布されるようになってきたことは看過できない。当会は、このようなデマに毅然と対処することをまずもって表明するとともに、デマが当事者の生活を文字通り脅かしている実態を踏まえ、想像に基づく観念的、抽象的な議論を排し、これまでに司法の場などで積み上げられてきた、冷静な法的整理を踏まえた議論が必要であることを強調する。
デマの中には、性的指向・性自認に関連する法整備が進むと公衆浴場等の利用ルールが変わるなどと吹聴し、社会に混乱をもたらすかのように主張、不安を煽るものも散見される。しかし、全国約60の自治体では、すでに性的指向・性自認による差別を禁止する条例が施行されている。こうした自治体で、公衆浴場等の利用ルールが変わった、あるいは社会が混乱したという事実は報告されていない。にもかかわらず、こうした事実を無視し、徒に人びとの不安を煽る議論は、社会に分断をもたらし、性自認による差別と憎悪を助長するものであり、断じて容認することはできない。
そもそも、性的指向・性自認に関する困難は、その大部分が社会における家父長的なジェンダー規範と密接に結びつくものである。その意味で、性的マイノリティは、構造的に家父長的なジェンダー規範による被害を受けやすい立場にあり、このような知見はジェンダー研究をはじめとした学術分野において、確立されたものであると受け止めている。責任ある立場に就いている人びとが、このような基本的な知見を無視し、ジェンダーに関する暴力の「加害者」であるかのように煽り立てる言説は到底許されるものではない。こうした行為は自らに課せられた責任の放棄に等しいことを厳しく指摘する。
当会は、差別を禁止する法制度の確立に向け、デマに怯まず、些かも歩みを止めることなく、決然と進むことを改めてここに表明する。同時に、デマに傷つく当事者をはじめ、人権尊重とジェンダー平等を求める広範な人々と連帯し、総力をあげて社会・生活状況の改善に取り組みを進めることを決意する。
参考記事:
LGBTの当事者団体「SNSなどで実態と異なる言説 冷静な議論を」(NHK政治マガジン)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/97013.html
「『心は女』で女湯に」差別的発言にトランスジェンダー当事者らが抗議(テレビ新潟)
https://www.teny.co.jp/nnn/news910qwxc1okjilr55l2.html
性的少数者巡るデマやめて 支援団体が抗議声明(共同通信)
https://www.47news.jp/9067473.html
LGBT支援団体が抗議声明 SNS中傷「容認できない」(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023031601143
トランスジェンダー巡り広がるデマ 当事者が冷静な議論を呼びかけ(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230316/k00/00m/040/209000c
「『心が女』なら女湯入れる」は誤り トランスジェンダー当事者訴え(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR3J5D7NR3JUTIL00G.html
トランス女性の入浴めぐるデマ、差別助長のヘイト投稿で「傷つき、外出も怖い」 当事者らが声明(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_23/n_15769/