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「見るのも嫌」発言の荒井勝喜首相秘書官が更迭されるも、これで「幕引き」とせずさらなる追及をとの声
総理大臣秘書官である荒井勝喜氏が3日夜(20時半過ぎ)、首相官邸でオフレコを前提にした記者団の取材に対し、「僕だって見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言しました。毎日新聞によって23時頃に報道がなされました。
毎日新聞はオフレコを前提にした取材の内容を報道した経緯について、このように説明しています。「首相秘書官へのオフレコ取材は平日はほぼ定例化している」「3日の取材では、岸田首相が1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化について「社会が変わっていく問題だ」と答弁したことについて記者から質問があり、荒井氏は首相答弁の意図などを解説した。その中で「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと発言した。現場にいた毎日新聞政治部の記者は、一連の発言を首相官邸キャップを通じて東京本社政治部に報告した」「本社編集編成局で協議した結果、荒井氏の発言は同性婚制度の賛否にとどまらず、性的少数者を傷つける差別的な内容であり、岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断した。ただし、荒井氏を実名で報じることは、オフレコという取材対象と記者の約束を破ることになるため、毎日新聞は荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、3日午後11時前に記事をニュースサイトに掲載した」
荒井勝喜首相秘書官と記者団のやりとり要旨は以下の通りです。
記者団:国会で同性婚制度について聞いた際、岸田文雄首相は「社会が変わっていく」と答弁した。
荒井氏:社会の在り方が変わる。でも反対している人は結構いる。秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ。
記者団:世論調査では若手の方が賛成を示す数は増えている。
荒井氏:それは何も影響が分かっていないからではないか。同性婚導入となると、いろいろ社会のありようが変わってしまう。国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる。
記者団:悪影響は思いつかないが。
荒井氏:隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ。人権は尊重しますけどね。選択的夫婦別姓よりは同性婚の方がインパクトが大きい。
これに対し、SNS上で「なぜこんなことを言われなければならないのか」といった悲しみの声や、「直球の差別」「アウトでしょう」「即辞任!」などの怒りの声が続々と上がりました。
深夜には荒井秘書官が「誤解を与えるような表現で大変申し訳ない。撤回する」と述べたことが報じられました。再度オンレコで記者団の取材に応じたかたちです。発言は以下の通りです。
荒井氏:誤解を与えるような表現で大変申し訳ない。撤回する。完全にプライベートな意見だ。ただこういうポストにある人間が言うのは望ましくない。
記者団:社会に与える影響は。
荒井氏:正直、プラスマイナスは分からない。反対の方もそれなりにいるのは事実だ。
記者団:同性婚には反対か賛成か。
荒井氏:反対も賛成もない。差別意識はない。
記者団:世間への影響は。
荒井氏:首相に申し訳ない。首相がそういうことを考えているわけでもないのに、私個人の意見で迷惑をかけた。
記者団:性的少数者にメッセージはないか。
荒井氏:申し訳ないと思う。おわびする。ちゃんとそういう人たちが浮かばれるように努力していくことで報いる。
複数のメディアが「首相には申し訳ない」との見出しで報じたこともあり、「謝る先が違うだろう」との声が多数、上がりました。(朝方には「謝罪・撤回(トレンドトピック:性的少数者、記者団の取材)」がTwitterのトレンドに入るくらいでした)
一夜明けて、岸田首相は「岸田政権は持続可能で多様性を認め合う包摂的な社会を目指すということを申し上げてきた。今回の荒井秘書官の発言はそうした政権の方針とは全く相いれない。至急、具体的な対応を考える」と述べ、荒井秘書官を更迭する考えを明らかにしました。
SNS上では、「荒井秘書官の発言があまりにも酷くて絶句」「狭い世界にいて感覚が世間とずれているのでは」「トカゲの尻尾切りの感も否めないけど、(更迭は)やらないよりマシ」などの声が上がりました。矛先は任命した岸田首相にも向かい、「荒井秘書官といい、息子さんといい、岸田内閣の秘書官って問題ばっかり」「じゃあ『同性婚で社会が変わってしまう』と言ったあなたも更迭だね」など、厳しい声が相次ぎました。
共同通信の取材によると、4日朝、新橋駅前を通行していた方たちも「多様性が重視される時代の発言とは思えない」「性的少数者が身近にいるが、周りは自然に受け入れている」と苦言を呈していました。
日本文学研究者で東大名誉教授のロバート・キャンベルさんもTwitterで「暗い朝ゴミ出しの帰りに会うなんて俺も嫌だよ、秘書官。言った者の違いは、俺の家庭は国勢調査にカウントされず、変えられない属性ゆえクビになっても文句は言えず、法的保障上は存在しないという事、等々。『誤解を与えるような表現』じゃなくて人々の尊厳と安寧を脅かす暴言」と厳しく批判しました。
憲法学者の木村草太東京都立大学教授は、岸田首相が「言語道断」と話し、更迭の方針を示したことに言及し、「では現内閣が、同性婚法案を国会に提出しようとしない理由は、荒井氏の発言とどう違うのだろうか?」と矛盾を指摘しました。
一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんはYahoo!の記事で「そもそもの「人権」に対する基本的な認識が誤っている」と批判しました。
「NHKの報道によると、経済産業省出身の荒井首相秘書官は「岸田首相のスピーチライター」を務めており、同氏は「『普通の感覚』を大事にしている」のだという。岸田首相をはじめ政権中枢にとっては、このような差別思想が「普通の感覚」なのだろうか」
「荒井氏も「社会に与える影響が大きい。マイナスだ」などと発言しているようだが、すでに「同性婚」への賛成割合は全体でも約6割を超え、2-30代では約8割を占めている。この点からも、いかに政治と世論がかけ離れているかがわかる」
「さらに問題なのは、同性婚をめぐり「秘書官室もみんな反対する」と述べている点だ」「荒井氏は当然辞任すべきだが、このような差別認識や言動が横行しているとすれば、秘書官全体を変えるべきではないだろうか。さらに、岸田首相の任命責任も追及されるべきだろう」
事態を重く見たLGBT法連合会も迅速に声明を発表し、「当該秘書以外の首相の「秘書官室全員」がそのような認識であるとすれば、極めて深刻な状況であり、G7議長国として国際的に日本の立場が問われる発言であると指摘せざるを得ない。当該秘書官が発言を撤回した今後も、秘書官室の全メンバーはもとより、首相の見解が問われて然るべきである」「(2019年の性的マイノリティについての全国意識調査の結果を引用しながら)秘書官の発言は、社会の多くの人が適切と考える認識とも大きく乖離するものである」「こうした時代錯誤の認識こそが性的マイノリティの自死未遂率の高さや「異次元の少子化対策」や仕事と育児の両立等の諸課題に対して十分に対応できないことの原因である」と指摘しました。
さらに、「今年は日本がG7サミットの議長国となる年であり、各国から性的マイノリティ当事者である要人や、関係スタッフも多く来日する。当事者を「見るのも嫌だ」との認識を首相の秘書官、秘書官室全員が持っているとすれば、G7各国からどのように見られるかは明白である。仮にそのように各国のサミット参加者を眼差しているとすれば、G7から放逐されても文句の言えない大きな国際問題であり、首相はもとより、他の秘書官室メンバーの認識を、改めて確認する必要があるのではないだろうか」「今回の発言のような認識を日本の政策意思決定層が持ってしまうのは、ひとえに社会における法規範の遅れに大きく起因していると考えることから、当会は改めて性的指向・性自認(SOGI)による差別を禁止する法の必要性を確信する。G7サミットに向けて、岸田首相は、2022エルマウ・サミットの首脳コミュニケで国際的に確約したことを実現するため、差別禁止法をこの国会で制定すべきである」と述べ、LGBTQ差別禁止法の制定を求めています。
荒井氏は経済産業省から出向している国家公務員です。政治任用の首相秘書官として広報を担当し、演説の執筆やメディア対応など、首相のスポークスマン的役割を担ってきました(首相秘書官はいわば「官邸の心臓部」であり、荒井氏は首相のスピーチライターを務める重要人物です)。だからこそ、「見るのも嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」という荒井氏の発言は、岸田政権の人権感覚が国際的に疑われることにもつながりかねない、とこちらの記事でも指摘されています。
「“生産性”がない」発言の杉田水脈衆院議員を総務政務官に起用したことも激しく非難され、12月末、杉田氏は事実上、更迭されることになりました。今月1日の衆院予算委員会では首相自身が、同性婚を認めると「家族観や価値観、社会が変わってしまう」と答弁し、これに対しても「本来すべての人に認められるべき権利」「当事者への想像力も、人権への配慮もない」など各方面から批判の声が上がっていました。そのさなか、首相のスポークスマン的役割を担ってきた秘書官が、首相を擁護するために記者団に説明をするなかで、今回の差別発言が飛び出しました。
4日朝、記者団に任命者としての責任をどう考えるかを問われた岸田首相は、荒井氏の発言こそ厳しく断じたものの、自身の任命責任には触れませんでした。
共同通信は「首相側近の差別発言により、政権中枢に人権軽視の発想が存在することが明るみに出た事実は深刻で、内閣支持率が低迷する政権に打撃となるのは必至の情勢だ」と述べています。
立憲民主党の泉健太代表はTwitterで「ひどい発言で、当然更迭すべきだ。首相官邸内の人権感覚も問われる」と批判しました。
同党元幹事長の福山哲夫参院議員も「オフレコとはいえ、とんでもない発言だ。首相官邸の秘書官みんながこんな人権感覚だとしたら大問題だ。『人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる』ー尊重するという意味がわかっているのか。即刻、更迭に値する」と厳しく批判しました。
同党の尾辻かな子前衆院議員も「首相秘書官『人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる』今年開催されるG7広島サミットで、この発言をできるのか? G7では、イタリア以外は同性婚、イタリアもシビルパートナー。国を捨てる選択を各国の国民がしたのか?」と指摘し、更迭報道についても「当然です」としたうえで「こちらについても、首相秘書官全員が言ったのか調査を」と述べ、発言の検証を求めました。
同党の米山隆一衆院議員も「何と差別的な…。これが自民党、こういう政党の政権では時代に合わせて世の中を変える事は不可能です。政権交代をと思います」とコメントしました。
そして、ゲイであることをカムアウトして活動している同党の石川大我参院議員は、「我慢の限界だ。これまでで最大の抗議の準備をしよう」「(首相秘書官室全員が同じ考えなら)荒井秘書官、首相秘書官室全員の懲戒免職を求める」「こんな謝罪で許されるわけがない。週明けからの最大限の抗議活動を考えている。予算委員会もある。岸田総理に最大限近づける立場を活かし、異次元の抗議を行なう」と述べています。
共産党の小池晃書記局長は共同通信の取材に対し、「差別意識と偏見に満ちた発言であり、首相の任命責任が問われる。個人の暴言にとどまる問題ではない」とコメントしました。
フォトジャーナリストの安田菜津紀氏は、こちらの記事で、「秘書官更迭は「幕引き」ではありません。「LGBTは生産性がない」と発言した杉田水脈議員をなぜ総務政務官に任命したのか? 自民党議員たちが参加した「神道政治連盟国会議員懇談会」で配られた差別表現のある冊子については? 旧統一教会の支援を受けた井上義行議員はじめ、党内の差別問題は? このような問題をあやふやにしたままでは、また同じことが繰り返されるでしょう。今回の発言は本当に「個人」の問題なのでしょうか?「差別禁止」ではなくLGBT「理解増進」法案に留まり、それさえも通らない「土壌」は何でしょうか? その根本にも切り込む必要があるはずです」と訴えています。
本当にその通りですよね。もう二度とこんな差別発言で傷つく人が出ないよう、根本に切り込み、問題が解決されることを願います。
参考記事:
首相秘書官、性的少数者や同性婚巡り差別発言(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230203/k00/00m/010/329000c
オフレコ取材報道の経緯 性的少数者傷つける発言「重大な問題」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230204/k00/00m/010/203000c
岸田首相の秘書官、性的少数者は「見るのも嫌だ」発言撤回「誤解与えるような表現で申し訳ない」(日刊スポーツ)
https://www.nikkansports.com/general/news/202302030001560.html
性的少数者「見るのも嫌」 首相秘書官、撤回し謝罪 荒井勝喜氏(共同通信)
https://www.47news.jp/8898594.html
首相秘書官がLGBTQ差別発言を謝罪・撤回 「首相には申し訳ない」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230204/k00/00m/010/002000c
首相に申し訳ないと荒井秘書官(共同通信)
https://nordot.app/994262212048158720
荒井総理大臣秘書官 同性婚「見るのも嫌だ」発言 撤回し謝罪(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230204/k10013970451000.html
岸田首相 荒井秘書官「言語道断」更迭の意向 同性婚「見るのも嫌だ」発言で(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/481225
秘書官更迭へ 性的少数者への差別発言で 岸田総理(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000286209.html
差別発言の荒井首相秘書官、きょうにも更迭…岸田首相「言語道断だ」視察に同行させず(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20230204-OYT1T50107/
荒井首相秘書官を更迭へ 性的少数者への差別発言に首相「言語道断」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR242GYMR23UTFK01Y.html
荒井秘書官、LGBTは「嫌」 岸田首相「言語道断」、更迭へ―政権打撃(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023020400005
首相秘書官発言に「世間とずれ」 街角、SNSで批判相次ぐ(共同通信)
https://www.47news.jp/8899586.html
ロバート・キャンベル氏 首相秘書官の差別発言に憤り「人々の尊厳と安寧を脅かす暴言」(スポニチアネックス)
https://www.sponichi.co.jp/society/news/2023/02/04/kiji/20230204s00042000157000c.html
憲法学者の木村草太教授、秘書官の差別的発言を「言語道断」と発言した岸田首相の矛盾を指摘(中日スポーツ)
https://www.chunichi.co.jp/article/630239
「LGBT見るのも嫌だ」荒井首相秘書官が差別発言。首相や秘書官全員も同じ考えか?(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20230204-00335617
首相、差別発言の秘書官更迭へ 性的少数者巡り、野党は責任追及(共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/229290
更迭の秘書官は、首相のスポークスマン 擁護中に飛び出した差別発言(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR244DW4R24UTFK003.html
「この人権感覚は大問題」「何と差別的な…」 LGBT差別発言の荒井勝喜秘書官に批判殺到(日刊スポーツ)
https://news.goo.ne.jp/article/nikkansports/nation/f-so-tp0-230204-202302040000217.html
同性愛公表の石川大我参院議員「首相秘書官室全員の懲戒免職を」 荒井秘書官の差別発言に怒り(日刊スポーツ)
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202302040000256.html
更迭は「幕引き」ではない なぜ差別は繰り返されるのか?(Dialogue for People)
https://d4p.world/news/19913/