NEWS
豊島区の条例に救われたゲイの方が「理解増進法では不十分」「差別を禁じ、救済制度のある法律が必要」と訴えています
2020年、性的指向を上司にアウティングされ、職場のある東京都豊島区に人権侵害の救済を申し出たゲイの方が「国レベルで差別を禁じ、救済制度のある法律が必要」と訴える記事が東京新聞に掲載されました。
この方(仮にAさんとします)は2019年に入社する際、自身がゲイであることを会社側にカムアウトしたうえで「同僚には自分のタイミングで伝えたい」と伝えていました。しかし、同年夏、同僚のパート女性が男性を避けるようになり、上司がアウティングしたことが発覚、「一人ぐらい、いいでしょ、と上司から笑いながら言われた」そうです。Aさんは精神疾患を患い、休職に追い込まれました。その後、パートナーの方の励ましもあって、支援団体とつながり、団体交渉を行ないましたが、会社側は非を認めませんでした。そのため、職場のある豊島区に申立てを行ないました。豊島区では2019年、同性パートナーシップ証明制度の導入に合わせて区の男女共同参画推進条例を改正し、性的指向や性自認による差別やアウティングを禁じていました。これに反する人権侵害があったとの申し出があれば、区長付属の苦情処理委員が関係者の調査や指導、是正要請を行なうことになっていました。
Aさんの申立てを受けて豊島区は、この事業者に性的マイノリティに関する研修を実施するように指導し、事業者は謝罪したうえで、解決金を支払うことで男性と和解しました。Aさんは「人権侵害の申立てをしていなかったら、同性愛の自分が悪いと追い詰めていたかもしれない」と語ります。
LGBT法連合会によると、性的指向・性自認による差別を禁止する条例がある自治体は約60に上りますが、私人どうしの間で起きた人権侵害への苦情処理を規定した条例があるのは都内では豊島区のほか港区のみです。
Aさんは「豊島区には条例があり、救済を求めることができたが、多くの場合は泣き寝入り。『理解増進法』では不十分だ」と強調しました。
LGBT理解増進法案は、性的指向・性自認の多様性の理解を進めるため、行政や事業者などに施策づくりや普及啓発などを求める内容で、差別的な取扱いをした事業者への指導・勧告の規定などがなく、実効性に乏しいものです。そのため、「行政の体制整備法にすぎない」「理解増進でなく、差別禁止を」といった声が上がっています。一方、野党が何度も提出してきたLGBT差別解消法案は、行政や事業者に性的指向・性自認による差別的な取扱いをすることを禁止し、実効性のある内容です。
中国新聞は18日の社説で、「人権侵害は理解や思いやりでは解決できず、差別を解消するための法整備が要る。障害者差別解消法や、職場で性別を理由にした差別を禁止した男女雇用機会均等法と同じようにだ」と述べています。そして先日の共同通信の世論調査の結果に触れながら、「認識を改める時ではないか。苦しむ少数者の権利を守る法整備であり、保守系議員やその支持者が好む伝統的な家族観の否定が目的ではない。誰かの権利を損なうものではない」と訴えます。「なお反対というなら、自らの価値観を他人の人権を踏みにじってでも押しつけたいのが本音で、歴代の自民党政権が掲げる「多様な社会」の否定だ」
2017年に日本学術会議が性的マイノリティ差別を解消する法律の制定や「結婚の平等」を提言した際に委員長をつとめていた奈良女子大(現在は追手門学院大)の三成美保教授は、「他の加盟国で差別解消が進むのは、家族の多様化を認めるというジェンダー平等の実現を政策の基本としているからだ。LGBTQの権利保障だけが進んでいるわけではない。日本の場合、ジェンダー平等と切り離しているため、議論が同性婚にも及ばない」と語っています。
三成氏は、各国と差が開いた最大の要因は「日本社会に強い家族主義と、それに基づくジェンダー平等への忌避感だ」と指摘します。「戦後日本で最も長く政権を担ってきた自民党は、幅広い価値観を内包する政党ではあるものの、一部の保守層によって家族の多様化が阻害されてきた。保守派の動きに配慮せざるを得ない政府のあり方が大きな影響を及ぼし、国際社会から後れを取ったと言える」「日本に対する国際的な評価を下げ、経済の発展を損なう結果ももたらした。民間のグローバル企業は女性やLGBTQを登用し、業績を伸ばしている。少数者の権利を保障するというだけの問題ではなく、国や経済全体に関わる課題と位置付けるべきだ」
LGBT理解増進法案の成立に向けた動きについて三成氏は「少なくとも『差別は許されない』と明記した形で成立させ、これから講じる政策の根拠にすることが重要だ。人権課題に関する法律ができれば、人々の意識や社会は変わっていく。将来的には包括的な差別禁止法の制定が待たれる」と述べています。
三成氏が「一部の保守層によって家族の多様化が阻害されてきた」と語ることとも深く関係していると考えられますが、同性婚や差別解消法などの法整備が進まなかった根本要因として、旧統一教会が政治に入り込み、LGBTQ施策に反対するよう影響を与えてきたということも度々指摘されています。
18日夜のTBS「報道特集」では、この問題が追及され、大きな反響を呼んでいます。
統一教会の文鮮明教祖が「一番近い問題は家庭崩壊と青少年のゲイだ」「ホモという現象は偽りの愛であり、それ自体はない」などと語っていること、“家庭を崩壊させる”として、同性パートナーシップ制度や同性婚などに全国各地で反対する活動をしてきたこと(渋谷区での同性パートナーシップ証明制度反対のデモの様子も映っていました)をはじめ、地方の政治に影響を持ち、「草の根で反LGBT運動を展開してきた」ことが明らかにされています。
こちらの記事でもお伝えしたように、昨年1月に富山市議会自民党が議会棟で、旧統一教会の政治団体である国際勝共連合の幹部、青津和代氏を招いて勉強会を開催していました。そこで使われた資料には「同性愛は心理的障害」「親の誤った性役割などが原因で、後天的に同性愛になる」などと書かれていました。その根拠として、科学雑誌に掲載された論文や研究発表が引用されていますが、富山県議で、産婦人科の医師でもある種部恭子氏は「この元の論文読みました」「(青津氏の資料の)結論は嘘ですよね。科学的エビデンスは全くない」と指摘しています。「ミスリードだと思いますね。最後に結論がもう書いてある」『同性パートナーシップ制度の拡大に歯止めをかける』というのが言いたいことなんだろうと。そのために“都合のいいところは抜いてくる”と」「推進派の意図と目的っていうところに“社会革命”とか書いてあるんですよ。そんなこと全然思ってないし」「日本にある制度の中から外れていた人たちに『そういう権限を持たせてあげるといいよね』という話だと思うんですけど。なぜ反対するかわからない」
それから、(ピンクドット沖縄創設者の砂川秀樹さんが署名を立ち上げていた)沖縄県宜野湾市の、性の多様性条例案が自民党によって否決され、のちに「性的指向「性自認」「多様性」の文言が消された状態で可決されたという問題について、当時市議会で議長を務めていた上地安之市議が統一教会の集会でスピーチしたり合同結婚式に出席するなど深いつながりがあったことや、そのことを問う公開質問状を送ったら、なぜか市議ではなく統一教会関連団体の家庭連合から抗議が来た(そのこと自体が両者の癒着を証明している)といったことが報じられていました。
政治学者である中北浩爾一橋大教授は、「統一教会との関係を問うことは20年間の自民党右派の政治の本質を問うことに等しいと思っている」「半ばロッキード事件とかリクルート事件に匹敵する問題だ」「この問題を徹底的に解明していくことが今後の自民長のあり方を考えるうえでものすごく重要」と語っています。
TVerで26日まで配信されていますので、ぜひご覧になってみてください。
参考記事:
「理解増進法では不十分」差別禁止条例に救われた性的少数者の訴え 実効性ある被害救済制度とは(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/231809
【社説】LGBT法案 差別禁止を明確にせよ
https://nordot.app/999454769684938752?c=768367547562557440
LGBTQ法整備、遅れ際立つ日本 三成教授(追手門学院大)に聞く(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/231990
同性愛を「偽りの愛」LGBTを「非常に調子に乗る」と表現…旧統一教会 地方議員に何を? 検証第16弾【報道特集】(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/336312