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ヒューマン・ライツ・ウォッチ「LGBT差別禁止法導入など改革を」、鈴木亮平さん「同性婚の法制化を急ぐべき」、熊本県知事も同性婚に賛成
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が9日、「首相秘書官更迭のみでなく、LGBT差別禁止法導入など改革を」との声明を発表しました。「政府はLGBTの人びとに対して、法の下の平等な保護は与えていません」と指摘し、「日本政府にさらなる取り組みが求められる一方で、進めようとされている法案の中身は極めて不十分です。次に政府と国会がなすべきは、LGBTの人びとを差別等から守る法律と政策の実現に向け、しっかり改革を進めることです。そうすることによってのみ、国際人権義務に関する日本政府の国際的な立ち位置を改善することができます」と述べる、実に論旨明快で「その通り」と思わせる声明文でした。
同日掲載の北海道新聞の社説では、8日の衆院予算委員会の集中審議での荒井氏差別発言をめぐる論戦で、首相が荒井氏の差別発言を重ねて陳謝する一方、同性婚に関する「社会が変わってしまう」との自身の答弁を撤回しなかったことについて「首相の言う社会や家族観が、婚姻は異性愛者同士で行うべきだとの認識を指すのは明白だろう。同性婚や選択的夫婦別姓を認める潮流が強まる社会の変化を理解していないと言うほかない」「政権が掲げる「多様性を尊重し、包摂的な社会を実現する」との方針はお題目にすぎないのではないか。疑念は深まる一方だ」と述べられています。「現在の法案は「差別の禁止」を明記していないにもかかわらず、保守派の反発は根強く、議論の進展は見通せない」「首相は同法の早期制定を求める質問に「まずは議員立法の動きを尊重し、見守っていきたい」と答えただけだった」
同日の沖縄タイムスの社説では、「すべての国民は法の下に平等であり、性的指向や性自認による差別が許されないのは当たり前のことである。反差別の明記は、差別的言動を断固容認しないとの決意を社会全体に定着させるものだ。疑問を挟む余地はまったくない」としたうえで、「同性婚制度について「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁したことには「議論まで否定するというネガティブなことを申し上げたつもりはない」と釈明。一方で「社会が変わってしまう」との認識は改めなかった。首相のそうした考え方と秘書官の暴言は、底の部分でつながるところがある。政府自らが差別を広げているのではないか」と指摘、「法整備に踏み込まず、性的少数者の人権保障に後ろ向きのままでは、G7議長国として世界を先導する資格はない」と述べられていました。
毎日新聞もこの問題をめぐる何度目かの社説を掲載し、「(LGBT理解増進法制定について)自民党の保守派議員らには「個人の内心にかかわる」「社会を分断する」などと、反対意見が根強い。だが、差別の根絶や権利の保障は、内心の自由とは全く別の問題である」「首相は今後の対応を明言せず、「与野党の議論を見守る」とまるでひとごとのように繰り返すだけだ。「多様性を尊重する」と一般論を語るばかりでは、問題の深刻さを理解しているとは思えない」「LGBTQをはじめ、あらゆる人々の権利が守られる社会の実現に努める。それこそが首相の責務である」と訴えています。
朝日新聞も同様に、社説で「政権の人権意識が厳しく問われている時に、「多様性を認め合う包摂的な社会をめざす」と従来の主張を繰り返すだけでは、本気で差別解消に取り組む意志があるのか、疑われても仕方あるまい。具体的な行動を伴わねば、信頼は回復できない」「掛け声だけでなく、制度や法整備に具体的に取り組むべきである」と訴えています。「(8日の衆院予算委員会の集中審議で)今年の議長として法整備への決意を問われた首相は、議員立法であることを理由に、党の動きを「見守る」と繰り返した。」「この法案は当時、自民党の賛同を得ようと、差別禁止には踏み込まず、理解増進のための施策の推進にとどめた経緯がある。この機会に改めて、差別解消規定を正面から議論する必要がある。党総裁として、首相が指導力を発揮すべき局面だ」
秋田魁新報は、秋田県「パートナーシップ宣誓制度」の第1号宣誓カップルとなった県南部に住む男性が首相秘書官の差別発言にショックを受けたことや、「当事者が自分のことを否定してしまうのではないかと心配。差別がなくなって、誰もが生きやすい世の中になってほしい」と語る声を紹介していました。「結婚も平等であってほしい。法制化されれば、さらに理解が進むはずだ」
それから、蒲島郁夫熊本県知事が9日、定例会見で荒井元秘書官の一連の発言について「責任ある人がそういう風な行動をとることをちょっと理解できない」と述べ、同性婚について「個人の思いを尊重する方に私は考えている」「個人の自由を強制しないということが大事だと思いますので、認めることと同じこと」と語りました。
映画『エゴイスト』に主演した鈴木亮平さんは、神奈川新聞のインタビューで「彼らではなく、差別が根強く残る社会の側に問題がある。この映画をはじめ、自分の性の在り方が当然のものだと感じられる作品が増えていくべきだし、性的マイノリティーの役を当事者が演じる機会ももっと増えていくべきだと思っています」と語りました。
鈴木亮平さんは翌日の『AERA』の記事で、このように語っていました。
「浩輔を演じたことで、自分が思っていた以上にいまの社会がいかに性的マイノリティーにとって生きづらい環境であるかを、あらためて知りました。特に思春期において自分のセクシュアリティーに悩むことは、命や精神的な安定性の問題になる。そこをなんとかするにはまず教育、そして社会の制度も変える必要がある。特に同性婚に関しては法制化を急ぐべきだという立場です。反対意見も注意深く読ませていただきましたが、何にも優先してこれは人権や個人の尊厳の話だと感じました。生きづらい人を多く生んでいる価値観は勇気を持って変えていくべきじゃないか、と。そして誰より僕たち親の世代が子どもたちにそれを伝えていくべきなんじゃないかと。
日本ではゲイであることで命を狙われるような過激な迫害は少ないかもしれませんし、テレビでも当事者の方が活躍しています。一見受け入れられているように見えても、そこには無意識の偏見が横たわっていることを強く感じます。そういう僕も自分の中に根付いた偏見に気づくこともいまだに多いです。そうしたことを意識的に変えていくことで、誰もが過ごしやすい社会に一歩近づけるんじゃないかと思っています」
宮沢氷魚さんに続く、LGBTQ支援のメッセージ。うれしいですね。映画『エゴイスト』は2月10日公開です。みなさんぜひ。
LUSH JAPANも含め、こうした支援の声や取組みが広がりを見せるなか、9日の衆院予算委員会で高市早苗経済安全保障担当相は、LGBT理解増進法案について「自民党内では結論が出ていない。文言について十分な調整が必要な段階だ」と述べ、また、同性婚法制化について婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するとの憲法24条の解釈があり「非常に難しい問題だ」と慎重な考えを示しました。追って、松野官房長官も「同性婚制度を認めることは想定されていない」との見解を示しました。
憲法24条については「Marriage For All Japan」が「憲法が同性婚を禁止してるとは国も言っておらず、その点に何の難しさもありません」と述べている通りです。(同日、公明党の北側副代表も「婚姻は他者から強制されるものではないという趣旨で、同性婚を排除する規定ではないと理解している」と述べています)
高市氏は2021年9月の自民党総裁選に出馬した際、LGBT法連合会の候補者アンケートで「差別の定義が曖昧で、当事者を含め多くの懸念の声があった」として唯一「反対」と回答しています。日刊ゲンダイによると、とある自民党関係者が「彼女は一貫して『伝統的な家族観』を重視し、昨年夏の参院選直前に『同性愛は精神の障害、または依存症』などと差別的な記載のある冊子を配った『神道政治連盟国会議員懇談会』にも所属。安倍元総理のシンパである岩盤保守層の支持を自身につなぎ留めるためにも、法案反対は絶対譲れないでしょう」と語ったそうです。
SNS上では松岡宗嗣さんが「「差別の定義があいまい」も詭弁。差別的取扱いは"合理的な理由のない区別"、各ケースごとに判断。既に男女雇用機会均等法では、雇用における性差別を禁止し、障害者差別解消法では、障害を理由とした差別を禁止している。これらも「差別の定義が曖昧」と反対なのだろうか」と指摘しているのをはじめ、「頑迷固陋」「「差別禁止」は文言調整必要というのは詭弁だ」「自民党がLGBT差別温存法に変質させようとしてるので注意が必要」「統一教会と離れられないってことね」といった声が上がっています。
【追記】
共同通信によると、高市氏は9日の衆院予算委員会で理解増進法について「法整備した場合、かえって性的少数者が不利益を被りかねないとの懸念を一部の当事者から聞いたと発言」したのち、「文言について十分に調整が必要な段階だと考える」と答弁しました。2021年9月の自民党総裁選の際、「厳格な差別解消ルールを作れば、企業は性的少数者の雇用に及び腰になるとの観点から「自分たちは採用されにくくなる」との不安を口にしていた」との声が当事者から寄せられたそうです。
これに対し、SNS上では「一部の当事者だけでなく、たくさんの当事者に話を聞いてもらいたい」「自分の考えに近いごく一部の当事者の声しか聞こえないんでしょうね」「ちょっと何言ってるかわからない。採用差別があるなら差別禁止すればいい話だよね」「当事者の懸念を払拭できるように、企業が同性愛者の採用に及び腰にならないように法整備をするのが政治家の役割なのでは?」といった声が上がっています。
参考記事:
首相秘書官更迭のみでなく、LGBT差別禁止法導入など改革を(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)
https://www.hrw.org/ja/news/2023/02/09/ouster-anti-lgbt-official-japan-should-prompt-reform
<社説>差別発言問題 多様性尊重はお題目か(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/799232/
[社説]LGBT法案 「差別禁止」へ覚悟示せ(沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1100919
社説 LGBTQ差別と首相 深刻さ理解しているのか(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230209/ddm/005/070/094000c
(社説)首相とLGBT 差別解消 行動で示せ(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15551024.html
県内の同性婚当事者、識者からも政治に厳しい目 法制化で「結婚も平等に」(秋田魁新報)
https://www.sakigake.jp/news/article/20230209AK0005/
蒲島・熊本知事、同性婚認めるべきだと発言 「個人の思いを尊重」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR295HDHR29TLVB003.html
映画「エゴイスト」でゲイ役 主演の鈴木亮平「差別残る社会の側に問題ある」(神奈川新聞)
https://news.livedoor.com/article/detail/23681656/
映画「エゴイスト」でゲイの主人公を演じた鈴木亮平「同性婚に関しては法制化を急ぐべきだという立場です」(AERA)
https://dot.asahi.com/aera/2023020900048.html
高市氏「文言調整必要」 LGBT理解増進法巡り(共同通信)
https://www.47news.jp/8920239.html
高市早苗経済安保相、LGBT法案に慎重姿勢「文言に調整必要」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR295WYHR29UTFK00G.html
「憲法は同性婚想定せず」 松野官房長官が見解(共同通信)
https://nordot.app/995964296078311424
公明 北側副代表“同性婚は現在の憲法のもとでも可能”(NHK)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/95583.html
高市早苗大臣はLGBT法案の“障害”に…20年前ノリノリで語った「ジェンダー平等」批判(日刊ゲンダイ)
https://nordot.app/996288736098664448?c=885915556466769920
高市氏、LGBT法に慎重 「当事者も懸念」と発言(共同通信)
https://nordot.app/996376890718552064