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トランス女性へのセクハラ・SOGIハラに関してピクシブ社が訴えを全面的に認め、全額を賠償へ

 今年5月、イラストコミュニケーションサービス「pixiv」を運営するピクシブ株式会社に勤めるトランス女性社員(30代の方)が、上司からひどいセクハラを受け続けたとして、男性上司および同社に対し、損害賠償を求める訴訟を起こしていましたが、その第1回口頭弁論が9月8日、東京地裁で行なわれ、ピクシブ社は訴えを「認諾」し、SOGIハラとセクハラがあったことの責任を全面的に認めて謝罪し、全額を支払う方針を示しました。
 
 
 訴状によると、デザイナーとしてピクシブに入社したトランス女性のAさんが、歓迎会で同社執行役員の男性上司から腰に手を回され、性自認やこれまでの性的経験などについて聞かれ、わいせつな言葉もかけられたほか、別の機会には「キャバ嬢にしか見えない」「ハプニングバー通いしてそうな顔だ」などと言われました。その後、男性上司からセクハラについての謝罪がありましたが、「男だから平気だと思った」「これからはお前を一人の女性として見る」などと言われるなど、トランスジェンダーへの理解を欠く内容でした。謝罪後も、手を握られたうえで性的な質問をする、Aさんの陰部に顔を押し当てるなどのセクハラが続き、堪えられなくなったAさんが会社のセクハラ窓口となっている弁護士に被害を相談、会社は、Aさんからの相談・申告を受け、(1)2人の執務フロアを分離する、(2)男性上司を飲み会に一切参加させない、(3)同じ事業部に配属しない、という措置を約束し、男性上司は懲戒処分として執行役員を解任されましたが、約束した措置が徹底されず(同じ事業部に居続け)、Aさんは精神疾患を患い、休職しました。そして今年5月、セクハラならびにSOGIハラを受けたとして男性上司とピクシブに対し、あわせて慰謝料約555万円の賠償を求め、提訴しました。

 9月8日に東京地裁で行なわれた第1回口頭弁論で、ピクシブ社は「原告の請求内容に対し、全面的に責任を認め、認諾した」と表明し、同社代理人は請求額をすみやかに支払う意向を示しました。同社との訴訟はこれで終結します。一方、男性上司は、自身の行為と損害との因果関係および一部事実関係を争うなどとして請求棄却を求めました。訴訟自体は今後も継続します。
 
 原告代理人の仲岡しゅん弁護士によると、同社はハラスメント予防や原告と約束した措置が不十分だったなどとして会社の使用者としての責任を認め、「原告の人格や心を傷つける許されざる事態」について謝罪の意向を示し、請求を認諾したそうです。
 原告のトランス女性も、同社が請求を認諾したことについて「非を認めたことについては前向きに捉えている」と語りました。「SNSでは、私の思いを代弁してくれるような投稿が多く、とても感謝しています」「声を上げなければ現状はなかなか変わらないと思うものの、ハードルも高いと感じています。この訴訟が、今苦しい思いをしている方の力になれればと思っています」

 ピクシブ社は同日、「弊社は原告の請求内容に対し、全面的に責任を認め、認諾いたしました」「今後同様の事案の発生を招かないよう、徹底したハラスメント予防を行い、健全な組織づくりに努めてまいります」「遅きに失したとはいえ、ピクシブ社では本件訴訟を通じて、セクシュアルハラスメント対策、そしてLGBTをはじめとする多様な人々との共生に向けた取り組みについて、大きな改善が見られたものと、私どもは前向きに受け止めております」「本件について適切な報道をしてくださった報道陣の皆様、またピクシブ社内で原告を支えてくださった同僚の仲間たち、そして何より、ピクシブ社に適切な対応を行なうよう多くの声を上げてくださったpixivユーザーの皆様方、お一人お一人のおかげであると、私どもは深く感謝しております」との声明を発表しています。

 また、今回の口頭弁論に先立ち、ピクシブ社は6月、「被害者である弊社従業員に対しまして、ハラスメント被害が起こってしまったことについて深く謝罪いたします」と謝罪し、ハラスメントの防止対策の不徹底、性的マイノリティへの不十分な理解がハラスメント発生の重大な要因だったとして、具体的な取組みを進めるとともに、失った信頼の回復に長い時間をかけて努めていくとの声明を発し、さらに8月には、「ハラスメント撲滅宣言」「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を発し、「ハラスメントがない健全な職場環境と基本的人権を尊重し、多様性(ダイバーシティ)が尊重され包摂(インクルージョン)される職場環境の実現を目指して参ります」と述べていました。
 この2つの宣言の内容が、具体的で実効性のある、他社にとっても参考になるようなものでしたので、少し詳しくご紹介します。
 
 「ハラスメント撲滅宣言」では、宣言内で示された方針が取締役、社員、嘱託、アルバイトやパートタイマーなどの雇用者を含む、同社で働くすべての人間に適用されることを明記し、また、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、妊娠や育児休業に関するハラスメント、性的指向や性自認に関するハラスメントの定義を明文化して、どのような行為や言動がハラスメントに当たるのかを明確にしました。そのうえで、処分を厳格にすること、人事評価にハラスメントに関する項目を追加すること、社内外の相談窓口を充実させること、ハラスメントの当事者や関係者のプライバシーと秘密を厳守すること、再発防止措置の実施、ハラスメント防止に関する取組みの周知徹底や研修等の実施など、ハラスメントの撲滅に向けた総合的な取組みを行なうとしています。
 なお、「性的指向や性自認に関するハラスメント」は、以下のように定義されており、アウティングも含まれています。
「性的指向や性自認に関するハラスメントとは、性的指向や性自認を理由として、相手方の人格を否定、差別するような言動により、他の役職員に不利益を与えたり、就業環境を害したりすることをいいます。 相手方の性的指向や性自認に関する侮辱的な言動を行うことや、役職員の性的指向、性自認、病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、当該役職員の了解を得ずに他の役職員に暴露することを含みます」

 さらに、「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」では、「性別、性的指向、性自認、年齢、国籍、人種、言語、文化、宗教、障がいの有無、働き方、価値観など多様な背景を持つ役職員が活躍・成長できる職場環境を実現します。ひとりひとりの人権を尊重し、差別や偏見のない環境づくりを推進します」というダイバーシティの尊重と、「会社のすべての活動において、役職員の多様な視点を尊重し、様々な属性や背景を理由に不当に排除されることなく参加できる職場環境を実現します。役職員のみならず、ともに活動するすべての人が尊重され、またこの宣言の考え方を共有するコミュニティの一員であるとの意識を啓発します」というインクルージョンの推進が謳われています。
 推進にあたっては、社内の多様なメンバーで構成される「D&Iチーム」を各部に配置し、全社的な推進体制を築いた上で、同社で働くすべての職員が社内の推進活動に提言できる体制を築き、「この体制は常に見直し続け、よりよい環境づくりのためにアップデートをし続けます」としています。
 具体的な取組みとして、「外部専門家によるセミナーの開催やサポートを通じたLGBTQ+の理解の推進、言語学習支援や学びの場の設置」「管理職のジェンダー不均衡の是正や多様なライフプランとキャリアプランを支援する取り組みなどの職場環境の整備」などが挙げられています。
 
 
 男性上司によるセクハラ・SOGIハラは本当にひどいもので、被害に遭った方は本当にお気の毒ですが、ピクシブ社が(何か問題が起こっても自社の責任を認めず、体質の改善もなされないままの会社とは対照的に)これをうやむやにせず、全面的に責任を認め、謝罪し、賠償金も全額支払い、かつ、ハラスメントの再発を防ぐために社内で徹底した施策を実施しようとする姿勢を見せたことは、評価に値します。近年まれに見る潔い対応ではないでしょうか。
 今回の裁判は、職場でのトランス女性(をはじめとするLGBTQ)へのセクハラやSOGIハラは、これほどまでに大問題になり、裁判沙汰にもなり、会社に大きな損害を与えうるのだということ、社内でセクハラやSGOハラを防止するための施策を講じることの必要性がより広く認知されるきっかけになったのではないでしょうか。勇気を出して声を上げてくださった原告の方に拍手を贈ります。
 
 
参考記事:
ピクシブ、「ハラスメント撲滅宣言」を発表。トランスジェンダー女性の社員が5月に提訴(CINRA)
https://www.cinra.net/article/202208-briefing-pixiv_iktaycl
トランスジェンダー社員へのSOGIハラ問題、ピクシブ社がハラスメント撲滅を宣言「健全な職場環境と基本的人権を尊重」(KAI-YOU)
https://kai-you.net/article/84594

ピクシブ側、セクハラ認める 性自認否定訴訟―東京地裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022090800890
性的指向を否定、会社側が「認諾」 賠償全額支払いへ(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20220909/ddm/012/040/066000c
「陰部に顔を押し当てられた」ピクシブ社、SOGIハラ認め全額賠償の意向。「深く傷つけてしまったことをお詫び」(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6319874ce4b0ed021deec5e6
ピクシブ社、セクハラ訴訟で「請求の認諾」、全額支払う意向 男性上司は棄却求める(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_18/n_14978/


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