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栃木県下野市の石川信夫市議(幸福実現党)がLGBTQについて「LGBT隠して生きて。その方が美しい」などと発言し、県の「パートナーシップ宣誓制度」に反対、多方面から非難の声が上がっています
栃木県下野市の石川信夫市議(65歳、2期目)が6月の市議会一般質問で、LGBTQの人は「できたら静かに隠して生きていただきたい。その方が美しいし、社会に混乱が起きないと思う」などと発言していたことが明らかになり、多方面から非難の声が上がっています。石川市議は幸福実現党の県本部代表で、今年4月の市議選(定数18)で842票を獲得し、11位で当選していました。
栃木県では9月1日から「パートナーシップ宣誓制度」が導入されました。
2日の下野新聞の記事によると、石川市議は質問で、制度導入に反対の意思を示し、「男性どうし、女性どうしで同居しようが一向に構わないが、制度を設けて社会に認めさせることがいいのかどうか、大変疑問に思っている。後世に憂いを残す」「できたら静かに隠して生きていただきたい。その方が美しいし、社会に混乱が起きないと思う」などと主張しました。
下野新聞社の取材に対し、石川市議は「苦しんでいる人がいっぱいいるのは知っている。それでも公的に認める必要はない。問題点に気づいてほしくてあえて言っている」と話しました。
発言をめぐって他の議員から取消しを求める動議は提出されておらず、会議録に記載されています。
同日、ハフポスト日本版も記事を掲載し、議会でのやりとりを詳しく報じました(市議会の議事録がこちらに掲載されています)
石川市議は自らを「差別主義者ではない」と断ったうえで「男性どうしで同居しようが、女性どうしが同居しようが、それは一向に構わないと思います。ただ、こうした制度を設けて社会に認めさせる、こういったことが果たしていいのかどうかということに対しては、大変疑問を持っております」と述べました。そして、LGBTQの人たちについて「静かに隠して生きていっていただきたいなっていうふうに思うんです。そのほうが私は美しいと思いますし、社会に混乱が起きないというふうに思います」と述べた。
これに対し、答弁に立った下野市の広瀬寿雄市長(当時)は、「いまだ多くの性的マイノリティの方々が、その人権を守られ、心から安心して暮らせる状況ではないという現状が見受けられます」として、県のパートナーシップ宣誓制度について「誰もが自分らしく生きることのできる社会の実現を目的とする取組の一つとなる」と答えました。
石川市議は再び質問に立つと、「市長は、人権と言いますけれども、人権の上に神権っていうのがある、神様の権利があるんだっていうことを忘れちゃいけません。差別をしているんじゃない、区別をしたんだと、男女を区別をしたんだということ、これを忘れてはいけない」などと述べました(議事録を見ると、「旧約聖書に、性的に乱れたソドムとゴモラという町が滅ぼされたと載っている」「霊的なことは言っちゃいけないっていうふうに言われますけれども、あの世に帰ってから反省してください。皆さん100%死にますから」といった驚愕の発言がなされています)
そのほかにも石川市議は、「様々な社会問題が起きています。男性が女性トイレに入るとか、お風呂に入るとかっていうふうな問題が起きています」などと、誤った認識に基づくトランスジェンダー差別発言も行なっています。
広瀬市長は、「いろんな人の立ち位置を、立場を、考え方を認めることによって社会が進む」と答えました。
ハフポスト日本版が電話取材したところ、石川市議は、「議会でも言っているように(LGBTQの人たちを)差別するつもりの発言ではない」「制度として認めさせるまでやらなくてもいいんじゃないですかということを言っています。隠してというか、静かに人生を送られたらいいんじゃないか、わざわざ、そういうものを公にしなくてもいいんじゃないですかってことを言ってるんです」と話したそうです。県の「パートナーシップ宣誓制度」などLGBTQの権利擁護に反対するのも「宗教的な背景からだ」と認めています。
幸福の科学は機関誌や書籍で堂々と「LGBTQは地獄で釜茹で」などと書いているアンチLGBTQな教団で、幸福の科学の大川隆法氏の著書『幸福実現党宣言』を立党の指針書としてスタートした幸福実現党は積極的にLGBTQの権利を抑圧する政策を打ち出しており、先日の参院選では「LGBTQの安易な権利拡大に抑止を」という政策を7つの柱の一つに掲げています。2022年3月の公式サイト上の「男女の区別を無視する風潮は国家を衰退させる」という記事では、海外でトランスジェンダーの権利が認められてきている事例を取り上げながらこれをを真っ向から否定し、「LGBTQの行き過ぎた権利拡大は、家族の形を崩し、男女の区別をなくすばかりかそれ以外の多数の人々に不快な状態を強いる「逆差別」を起こしかねません。また「同性パートナーシップ条例」についても、同性婚の法制化に道を開く可能性がある点、極めて慎重でなければなりません」と述べられています。
ハフポスト日本版の記事で松岡宗嗣さんは、「政策へ直接影響する可能性がある議員という立場で『静かに隠して生きていただきたい』と発言することは、まさに性的マイノリティに対する抑圧に加担する行為だと思います」「これは、『あなたたちは公的に認められるべきではなくて、影で生き続けるべき存在だ』と言っているようなものです。差別や偏見を解消するのではなく、むしろそのまま被害を受け続けるべきだ、というような態度で、非常に問題だと思います。議員としての資質が問われるべきです」「昨今、旧統一教会が注目を集めていますが、今回の石川議員の発言も、『宗教』が関係してくるものだと思います。 いつまでも性的マイノリティの権利保障が進まない背景に、こうした強固に差別的な認識を持ったさまざまな宗教団体と政治の繋がりがある、という現状に目が向けられてほしいと思います」とコメントしています。
SNS上では、人権をないがしろにするひどい差別発言だ、恥を知れ、日本の政教分離はどこに行ったのか、なぜ周りの議員は止めないのか、議員辞職勧告に値するのではないか、など、さまざまな批判の声が上がっています。
アライの著名人の方たちからも批判の声が上がっています。
乙武洋匡さんは、「いつから議会は市民の幸福を願い、その実現に向けて動く場所ではなく、特定の人々を糾弾し、彼らを社会の片隅へと追いやる発言が許される場所になってしまったのだろう。心底、悔しい」とツイートしました。
SHELLYさんは、「LGBTQコミュニティに対して差別的で酷いことを言うことが許される世の中ではダメ」とツイートしました。
ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんも、「『隠して生きて…その方が美しい』ってのは彼のそのような考えのことですよね?」と皮肉を込めたコメントを発しています。
それから、5日の「めざまし8」でもこの問題が取り上げられました。番組で石川市議を直撃取材し、発言の真意を聞いたところ「差別をする意図、気持ちは全くないです。私自身はそういったことに関しては寛容であると思っています」とした一方で、パートナーシップ宣誓制度について「『男性の体を持っているけど心は女性なんだよ』と言えば女性のトイレや浴室に入ることが許される社会になってしまう恐れもあるんじゃないか」などと述べました(同性カップルの権利について尋ねているのにこの返し…無知や偏見にも程がありますね)
番組では専門家の意見として若狭勝弁護士にコメントを求め、若狭氏は「表現の自由を制約することになりかねない。決して許されない発言」と批判しました。また、コメンテーターをつとめる(昨年のTRPオンラインイベントにも出演した)モデルの長谷川ミラさんは、「お手洗いの使用などは、確かに引き続き議論が必要な部分ではある。ただ、『静かに隠して暮らしていただきたい』っていうのは…。逆に『あなたが静かに生きて』と言いたい。怒りがふつふつとしてきます。プラス、『私は差別主義者ではない』と前置きすれば何でも言っていいみたいなのもどうなんでしょうか」と語りました。そして、メインキャスターの谷原章介さんは、「この議員の方、ご自身はほんとに差別主義者ではないと信じていらっしゃるんでしょうね」と呆れ顔を見せながら、「『差別ではなくて、区別だ』ということをおっしゃってますけれども、区別された側にとって、正直、差別だろうが区別だろうが、やられた側にとってはあまり意味がないことであって。“言葉遊び”と言いますか、もうちょっと分別を持っていただきたいと思います」と語り、最後に「幸福実現党という党の名前なのであれば、LGBTQ、性的マイノリティの方々の幸福も実現していただきたいと思います」という言葉で締めました(この谷原さんのコメントに、ネット上で賞賛の声が上がっているそうです)
宗教はそもそも人々の幸福のためにあるものでしょう。日本の仏教界もLGBTQ支援に動きはじめており、世界的に見ても「LGBTQの命の神聖さと尊厳」を守る宗派を超えた宗教者国際会議が発足するなど支援の流れが加速していますが、対照的に、神道政治連盟とその会合に招かれたキリスト教原理主義系の教授、旧統一教会、そして幸福の科学など、LGBTQの人権をそこなうような差別的な思想を持つヘイト教団やそうした教義を政治に反映させようとする政治団体などの存在が昨今、明らかになってきています。宗教の教義自体は尊重されなければなりませんが、アンチLGBTQの教義を基本的人権の上に置こうとする政治活動には問題があります(憲法20条で「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」とされています。政教分離は近代国家の原則です)
以前の「LGBTQばかりになれば足立区が滅ぶ」発言などもそうでしたが、少なくとも公人である(市民の税金で賄われている)議員という立場にある人が、憲法で生存権や自由権、幸福追求権を保障された市民である性的マイノリティの存在を認めず、不可視化するような差別発言(ヘイトスピーチ)を行なうことは厳しく追及されてしかるべきです。今後、こうした公人による差別発言が野放しにされないよう、何らかの規制を行なう法律なり条例なりの制定が求められるのではないでしょうか。
【追記】2022.9.6 下野新聞より
下野市議会の石田陽一議長は5日、石川市議に「内容は議会の品位にかかわるもので、気を付けて発言するように」と注意し、石川市議は「気を付けます」と答えたそうです。
市議会は同日、議会運営委員会を開き、石川市議の発言について協議、委員から「誤解を招く表現は慎重に」などの意見が出たそうです。
市議会事務局によると、石川市議の発言に対し同日17時時点でメール13件と電話10件があり、多くが「発言がおかしい」などの内容でした。
参考記事:
「LGBT隠して生きて」下野市議が議会で発言 パートナーシップ制度に反対(下野新聞)
https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/630335
LGBTQ「隠して生きて。そちらの方が美しい」幸福実現党所属の下野市議が発言。「差別するつもりない」と釈明(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/shimotsuke-lgbtq_jp_6312f3b2e4b046aa022a9788
「LGBT隠して」 栃木市議の発言に谷原章介がピシャリ「分別を持っていただきたい」称賛の声(リアルライブ)
https://npn.co.jp/article/detail/200023855
谷原章介 市議のLGBTQ「隠して生きて」発言に「もうちょっと分別を持って頂きたい」(J-CASTニュース)
https://nordot.app/939357947427749888?c=516798125649773665