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参議院議員のガーシー氏が俳優、タレントの性的指向を暴露(アウティング)し、問題視されています
暴露系ユーチューバーとして人気を博し、7月の参院選ではNHK党から出馬し当選したガーシー氏が9月11日に行なったツイキャスで男性俳優と男性タレントの実名を挙げてゲイであると(噂レベルですが)暴露し、問題視されています。
ガーシー氏が9月11日にツイキャスで行った配信で、男性俳優Aと男性タレントBに関して実名を挙げて“ゲイ疑惑”を暴露しました。とあるワイドショー関係者が『FRIDAY』誌に語ったところによると、「その情報元としてゲイの世界では“有名な話”としており、当人サイドに“裏取り”取材した形跡はなく、あくまでウワサとして話していましたね」とのことです。
この暴露に対してTwitterなどでは、「他人のセクシャリティを暴露するのが議員の仕事なの?」「ガーシーのやっている事はアウティングに当たる行為。嘘であっても相手の人権やイメージに関わることだし最低」「下劣すぎ」といった批判の声が上がりました。
同誌が指摘しているように、あくまでウワサ話だとしても、もしこの発言が事実だった場合、AとBが性的指向を明らかにしていないにもかかわらず第三者に暴露するアウティングに該当し、国民の代表である国会議員が著名人の性的指向をアウティングすることには重大な問題があります。
2015年に起こった「一橋大学アウティング事件」では、ゲイであることを同級生に暴露された学生が大学の建物から転落死し(自死と見られ)、遺族が暴露した同級生と大学の責任を追及する民事訴訟を起こし、「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであり、許されない行為であることは明らか」であるとアウティングの違法性に言及する高裁判決が出ています。国立市や三重県など、アウティングを禁止する条例を設けた自治体もあるほか、2020年施行のパワハラ防止法では、SOGIハラとアウティングの禁止が盛り込まれ、今年4月からは中小企業も含めたすべての企業に適用されています。
一般社団法人fair代表理事で、アウティングについての本の著者である松岡宗嗣さんは、ガーシー氏の行為に対して怒りをあらわにし、「そもそも今回の発言はあくまで“噂”であり、事実は誰にもわかりません。『アウティング』と断定することは、ガーシー氏の発言を事実かのように印象付けてしまうため、注意が必要です。ただし、ガーシー氏は参議院議員でもあり、本来市民の権利を守るはずの国会議員が、自らの利益のために、アウティングのような、他者のプライバシーを侵害する行為を率先して行なうことは、極めて悪質で問題だと考えます。権利侵害や差別や偏見の助長という点から、議員としての立場も厳しく問われるべきです」と批判しています。
今回の暴露の中でガーシー氏は「別に僕はゲイのことも否定しないし、バイのことも否定しません。レズ(ビアン)のことも。僕は人それぞれだと思うので。全然いいと思います」などとLGBTQフレンドリーであるかのような発言をしていますが、それについても松岡さんは、「セクシュアリティの暴露をネタとして利用している時点で同性愛蔑視であり、何の弁明にもなっていません。この発言の直後に『週刊誌が取り上げた方がオモロイのかなと思っていた』などとも発言しており、ここからも明らかに差別的な態度が見て取れます」と指摘しています。
某スポーツ紙の記者は、「ガーシー氏はAが所属するプロダクションを敵視し、YouTube開始当初から別の所属俳優を攻撃していました。実際に今回の暴露もこのプロダクションの名前を挙げ、そこに所属するタレントの名前を1人ずつ挙げながら、“待ってました”とばかりに最終的にAの名前を出しました。今回の件は極めてプライバシー性が高い個人情報に関する問題なため、本人も事務所も反論しにくい。それをわかったうえで暴露したのであれば、国会議員として責任を追及されても仕方がありません」と批判しています。
ガーシー氏が所属するNHK党は、ジェンダーや多様性について国会での議論を積極的に求めていくことを公約に掲げています。そこで『FRIDAY』誌は立花孝志党首に「国会議員が芸能人に関するアウティングを行なったとするならば、NHK党及び立花党首は今回の暴露についてはどのように考えるのか?」と尋ね、「当事者(AさんやBさんやその関係者)からNHK党に対してクレームなどの申し出があれば真摯に対応させて頂きます」とメールで回答を得ました。また、「今回、ガーシー議員の暴露がアウティングであるという認識が党ないし立花党首にあるのであれば、党としてガーシー議員になんらかの処分などを下す考えはあるのか?」という質問には、「『一橋大学アウティング事件』について承知しておりません。よって、アウティングという言葉も初めて知りました。おそらくアウティングというのは、刑事罰のある違法行為ではないと思われますので、当事者からの申し出があればNHK党として対応させて頂いた上で、その結果次第で東谷に処分を下す可能性があることは否定致しません。つまり、当事者から申し出が無ければNHK党として何もしない事が確定し、当事者から申し出があれば、その顛末次第では、処分を下す可能性があるという意味です」との回答でした。
これに対し、松岡さんは、「侵害された側が被害を訴えるハードルがどれだけ高いか」「一橋大アウティング事件の高裁判決で、アウティングが「許されない行為」だと述べられたことから、「民事では問題だから本人から申し出あれば対応する」けど「特にアウティングを規制する法律はないから行為は咎めない」というのが、露骨な態度だなと思った」とTwitterでコメントしています。
松岡さんが指摘するように、もしゲイであることが事実であったとしても、被害を訴えるためにはカミングアウトが伴い、それは非常にハードルが高いことですし、事実無根だとしても、「俺はゲイなんかじゃない」的な主張してしまうとLGBTQ差別だと言われかねないですし、世間のゲイに対するネガティブなイメージを利用したこうした”暴露”は本当に卑劣で、噂を流された方たちにとっても僕らにとっても百害あって一利なしです。
立花党首は(アウティングという言葉を初めて知ったというのもどうかと思いますが)「アウティングは刑事罰のある違法行為ではない」と述べていますが、たとえ“噂”レベルで事実に基づかないことであったとしても、性的指向というセンシティブな情報(機微な個人情報)についての噂話はSOGIハラに該当します。全国の企業にはSOGIハラとアウティングの防止策を講じることが措置義務(守らないと労働基準監督署から指導、勧告を受け、それでも改善されなければ企業名が公表される)として課されていて、守らなければ社会的に厳しい制裁を受けることになります…刑事罰ではないにせよ、そのようなハラスメントが国会議員なら許されるという道理もなく、厳しく追及されてしかるべきでしょう。もし噂を流されたご本人が事実を認め、ガーシー氏を訴えた場合、損害賠償ということになるのではないでしょうか。
本来は法律でLGBTQ差別やアウティングの禁止が明文化されるべきで(三重県などはすでに条例を設けています)、国会議員の立場にある方は(しかもガーシー氏は「良識の府」たる参議院の議員です)、アウティングによってプライバシーを侵害されたり命を脅かされる人が出ないよう、国民を守るような立法を志すことが求められているわけですが、そのような方が自ら(著名人であるとはいえ)国民の性的指向を“暴露”してアクセス数を稼ぐという非道がまかり通ってしまってよいのだろうか?と、憤りを覚える方は少なくないはずです。
<参考記事>
ガーシー議員 俳優への「アウティング発言」で立花党首が処分検討(FRIDAY)
https://friday.kodansha.co.jp/article/264656