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内閣府による有識者WGが「ジェンダー統計の観点からの性別欄の基本的な考え方について」を報告、LGBT法連合会からのコメントも
自治体などが申請書類やアンケート用紙から性別欄を廃止する動きについて、内閣府が設けた有識者によるワーキンググループ(WG)が検討を重ね、この9月に「ジェンダー統計の観点からの性別欄の基本的な考え方について」という報告にまとめました。男女別の統計が取りにくくなり、ジェンダー不平等の改善をめざす政策に影響が出る恐れがあるとして、「拙速な対応は慎むべきだ」との提言になっています。これを受けてLGBT法連合会は「トランスジェンダーなどが直面する課題について認識され、議論が一定整理されたことは評価できるが、適切な質問項目や選択肢が示されなかったのは残念である」とのコメントを発表しました。
そもそも自治体で公的文書から不要な性別欄を削除する動きが進んできたのは、トランスジェンダーやノンバイナリーなどのジェンダーマイノリティの方たちが「男性/女性」と記された性別欄への記入を求められることの苦痛に鑑み(ノンバイナリーの方は、そこに自認する性別が書かれていないことで悩むでしょうし、法的性別変更が済んでいないトランスジェンダーの方は、自認する性別を書いてよいのか、不本意である戸籍上の性別を書くべきかと悩み、記入したことによって戸籍性が見た目の性別と異なることから不審に思われたり、トランスジェンダーであることが伝わることで差別的な対応につながることも危惧されます)、書類を点検し、もし性別欄を設ける必然性がないのであれば、削除する対応を行ないましょう、という趣旨です。全国の自治体に広がりを見せています。
民間についても2年前、履歴書に性別欄があることによってトランスジェンダーの方たちが就職活動で不利益を受けている実態に鑑み(面接で戸籍性が見た目の性別と異なることをしつこく聞かれたり、「うちはトイレの対応ができない」と落とされたり、トランスジェンダーであることをカミングアウトして内定を取り消された方もいます)、JIS企画から履歴書の様式がなくなり、コクヨが性別欄のない履歴書を発売するに至りました。厚生労働省が2021年につくった履歴書の様式例も、性別欄は空欄で「記載は任意です」と注意書きを記すかたちになっています。
WGは統計の観点から性別表記のあり方を検討するために設けられ、ジェンダー専門家やLGBTQの支援者などが5月から議論を重ねてきました。
内閣府によると、公立高校の入学願書では46道府県が2021年度までに性別欄を廃止しています。上記の通り、自治体では申請書類やアンケート用紙などから性別欄を廃止する動きが進み、厚労省も履歴書様式で性別の記載を任意とするよう対応済みです。
こうした性別欄の廃止の動きについて、WGは「各種統計調査にも影響すれば、必要な男女別のデータの取得が難しくなる恐れがある」と、性別ごとの統計を取ることが女性の地位向上をめざす上で重視されてきたとして、「EBPM(証拠に基づく政策立案)を実施する観点からも、男女別のデータを確実に取得することが重要だ」との提言をまとめました。
一方、トランスジェンダーなどの性的マイノリティがハラスメントや差別を受ける恐れがあることへの理解や配慮も必要だと指摘し、性別欄の選択肢を、出生時に割り当てられた性別と社会的に自認する性別に分けて尋ねている英国などの事例も紹介し、自治体などが表記の仕方を工夫するよう求めています。
これを受けてLGBT法連合会は、「性別欄のあり方についての議論が一定整理され、トランスジェンダーなどがハラスメントや差別に遭う可能性について認識されたこと、参考となるフローチャートにおいて性別情報を表示することが基本的に不要ではないかという意見が掲載されたことは一定評価できるが、適切な質問項目や選択肢が示されなかったのは残念である」との声明を発表しました。
「報告書では、男女別データの取得が必要であることが合意された一方で、「性別欄が存在することでハラスメントや差別に通じる困難に直面する人たち」についても言及された。加えて、性別欄を設ける際に、「どの時点の何の性別」(出生時の性別、社会生活上の性別など)について聞いているのか明確にする意義や、性別欄を不要とする判断もあり得るケースについても記載されたところである。また、統計調査等において、多様な性への配慮に留まらず、性的マイノリティの実態や課題の把握をすべきだとの意見や、性別情報の表示がアウティングやハラスメント、差別に通じる可能性を避けられないとの意見、各種証明書等での表示は基本的に不要ではないかとの意見も記載された。
当会はワーキング・グループの構成員として参画し、性別欄がトランスジェンダー等にもたらす困難や、性的指向・性自認も含めた包摂的なジェンダー統計のあり方を模索する必要性、どのような性別情報を取得するのかを理由とともに明記し、どの時点のどの性別情報を取得するのか十分に検討し、明確にすべきであると発言してきた。一部内容は報告書に掲載、あるいは意見として記載されたものの、全体として適切な質問項目や選択肢を示すに至らなかったことは残念である。
今後も、性的指向や性自認に関する実態把握を促進するとともに、トランスジェンダー等の困難を十分に踏まえ、漫然と従来通りに男女別データ取得のための性別欄を置くのではなく、より包摂的なジェンダー統計の整備に向け、質問項目や選択肢の検討や改善を進めるべきである。そのために、今回のワーキング・グループの検討を踏まえ、各政府機関がそれぞれの分野におけるジェンダー統計のあり方を更に検討し改善を目指すことが重要である。民間企業や地方自治体も含め、差別をなくすために必要な統計調査によって当事者が追い詰められることは本末転倒であり、今回の報告書に掲載された国内外の先進的な事例を参考とし、適切な調査が各分野で行なわれるよう当会も引き続き働きかけを行なっていく」
「適切な質問項目や選択肢を示してほしかった」というコメントが含意するところは、今回の報告では、海外の先進事例などもたくさん紹介されていますが、よく読むとそれらを参考にしてくださいという「推奨」になっているわけではなく、結局どうすればいいのかという具体的なガイドライン・指針になるようなものが示されなかった(言い換えると、自治体に判断が丸投げされた)ということのようです。
とはいえ、国の会議体で性別欄の問題についてここまで議論が深められたことの意義は、決して小さくないでしょう。特にフローチャート(報告書の10ページめ、参考資料2)は性別情報の取得について検討する際の考え方が視覚的にわかりやすく整理されています。ぜひ企業・団体の皆様もご参考になさってください。
参考記事:
ジェンダー統計の観点からの性別欄の基本的な考え方について(内閣府男女共同参画局)
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/wg-seibetsuran/index.html
【声明】内閣府の「ジェンダー統計の観点からの性別欄の基本的な考え方について」に対する声明(LGBT法連合会)
https://lgbtetc.jp/news/2744/
性別欄の廃止は「拙速」 「男女別データ、ジェンダー政策に必要」 内閣府WG、表記の工夫求める(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15411056.html