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【同性パートナーシップ証明制度】新潟県三条市、栃木県佐野市、福井県越前市、北海道帯広市などでの制度導入の動きについてお伝えします
新潟県三条市は23日、「パートナーシップ宣誓制度」を9月から導入することを発表しました。カップルの子どもも家族として認めるファミリーシップ制度も同時にスタートします。新潟県で2例目です(ファミリーシップ制度は県内初です)。市営住宅での同居や病院での緊急時の面会などのほか、委任状なしで世帯員の住民票を取得できる、障がいのあるパートナーのために使う軽自動車の軽自動車税の減免申請ができるなどの行政サービスを受けられるそうです。また、住民票の続柄を「同居人」ではなく「縁故者」とでき、お子さんは「縁故者の〇〇」と表記できるようになるそうです。そして、市の職員が制度を利用した場合は、扶養手当支給や、結婚休暇取得を認めるそうです(職員への扶養手当の支給は鳥取県や三重県伊賀市、東京都国立市など、一部の自治体で認められていますが、全国的にはまだまだで、北海道では訴訟も行なわれています。三条市は先進的と言えます)
三条市を拠点とする団体「PRIDE LINK」が7月27日に制度導入を求める要望書と2300筆余りの署名を市に提出したことが直接のきっかけになって導入に踏み切ったそうです。
滝沢亮市長は24日、レインボーブラッグを飾った会場で記者会見を開き、「全国的にこういう取組みをしているところがあるのは把握していました。母校の三条高校で藤田明美加茂市長と行った講演で、当時の2年生から三条市はそうした取組みをしないのかと質問があって、その生徒の「多くの人の前で質問する勇気」に感心し、地方でも待ったなしの課題だと思いました」と語りました。また、「制度を導入すること自体が我々、私含め、市職員でもさらに学びを深めていかなければならないきっかけかと思いますし、現状であったり、今後の我々の考えについてお伝えしていくのが宿題です」と述べました。今後は10月に性的マイノリティへの理解の促進を図るフォーラムを開くほか、三条市役所としても職場として取り組み、市職員向けの研修を継続し、同性パートナーがいる市職員への結婚休暇などの福利厚生の適用についても制度見直しを行なうそうです。
「PRIDE LINK」の羽賀風真代表は、「実現するという発表を聞いて、このスピード感と、やってきたことが無駄ではなかったということに喜びを感じてます」と語りました。「いろいろな人に、家族の形が多様であることとジェンダーが多様であることを知ってもらえたらいいのかなと思ってます」
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栃木県佐野市も9月から「パートナーシップ宣誓制度」を開始します。栃木県としても9月に開始することになっています。県内では鹿沼市、栃木市、日光市、野木町が先行して制度を導入しています。
法的効力はなく、婚姻関係にある配偶者のような権利は得られませんが、市営住宅の入居や市営墓地の承継、若者等移住定住促進奨励金の交付などの行政サービスが適用されます。また、市内の病院での面会など、民間サービスでも証明書が利用できるよう働きかけを行なっていくそうです。
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福井県越前市は、今年10月に県内で初めて「パートナーシップ宣誓制度」を導入するそうです。市営住宅への入居や、税の証明書や災害時の罹災証明書などの受け取りに際し、法律上の夫婦とほぼ同じ扱いを受けられるということです。
市民協働課の緒方祐主事は、「制度が導入されることで、性的マイノリティの方が市内で安心して暮らせるとともに、性の多様性に関する理解が広がるきっかけになればうれしい」と話しています。
なお越前市での制度導入にあたり、仁愛大(越前市)の学生が「宣誓受領証」などのデザインを考案したそうです。素敵ですね。
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北海道帯広市は、12月1日から「パートナーシップ制度」の運用を始めることを、22日の市議会厚生委員会で報告しました。
帯広市の制度の特徴は、 証明制度と登録制度のいずれかから選択できるということです。
制度導入にあたり、有識者や市民からの意見を集める懇話会が設けられ、議論が深められました。その結果、「証明制度」は当事者が公正証書などの形式で契約を締結して行政が確認したことを証明するもので、二者の権利義務関係が明確であるため、企業などの理解や協力が得られやすい一方、書類作成に手間や費用がかかる、「宣誓」「登録」「届出」の3種類の制度は、契約書が不要である一方、二者の法的な関係が不明確なため、民間サービスの対象とならない場合がある、といった状況を踏まえ、利用者のニーズに柔軟に対応できるよう、このような選択制の導入が提言されました。登録制度は、婚姻届に類似していてわかりやすいほか、虚偽や不正が判明した際に登録を抹消できるなどの利点があるといいます。このようにして、全国的に見ても珍しい、「証明」「登録」を選択できる制度となりました。(北海道新聞「カップルの関係「証明」「登録」選択可能に 帯広市がパートナー制度素案」より)(制度の素案の全文はこちらに掲載されています。 PDFです)
市営住宅への入居や手続きについて配偶者と同等に取り扱うなど、関連する行政サービスは準備が整ったものから段階的に適用していくそうです。
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今年4月から「パートナーシップ宣誓制度」を導入した埼玉県上里町は8月17日、LGBTQ(性的マイノリティ)の置かれた現状と社会的課題を知る講座を開きました。制度を周知するねらいもありました。講座には、町の職員や町議、住民らが参加し、レインボーさいたまの会(川越市)の加藤岳代表が講師を務め、加藤さんは、当事者が差別やいじめを受けていたり、同性カップルが税制や社会保障の制度を使えなかったりする現状を説明、両親など身近な人に受け入れられず、家族を頼りにくい状況もあると指摘しました。町職員から「行政職員として意識すべきことは何か」と問われると、加藤さんは「同性カップルが受けられるサービス、受けられないサービスを整理して周知してはどうか」と提案しました。
制度を整備するだけでなく、こうして自治体の職員や市民にそもそもなぜこうした制度が必要なのかということを理解していただくためのフォローアップの場を設けることは、とても意味のある取組みだと言えるでしょう。
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山口県萩市では8月18日、性的マイノリティの支援団体「レインボー山口」の方が同性パートナーシップ証明制度を実現するよう市に要請しました。山口県で同制度を導入しているのは宇部市のみで、なかなか広がりを見せていない状況がありますが、同性カップルが安心して暮らすことができ、差別や偏見のない社会の実現を目指して、制度の実施を求めました。
萩市の中野忠信市民部長へ要請書を手渡したレインボー山口の鈴木朋絵事務局長は、「性的マイノリティの方だけでなく、いろんなマイノリティの側に立つ人が過ごしやすく暮らしやすくなる町にしてほしいと思ってます」と語りました。
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立正大学社会福祉学部教授で自治体問題研究所の濵畑芳和理事が月刊『住民と自治』2022年4月号に寄稿した「パートナーシップ制度は「無縁社会」克服の鍵となるか」という記事がたいへん興味深かったので、ご紹介します。
濵畑氏は、(男女間の)婚姻制度が、一律に民法上の扶養義務を課され、法的関係が堅固すぎるために、時代にそぐわないものになっているのではないか、そこまでの堅固さを求めない人々の選択肢があってしかるべきではないかと述べています。その一方で、「社会保障・社会福祉の世界では「自助・共助・公助」論が公然と主張され、地域住民同士の助け合いに過度に期待する「地域共生社会」の実現が目指されるなど、国家責任に基づく生存権保障が後景に退いて久しい」と指摘し、「仮にこうした政策動向を少子高齢化や人口減少等の影響からやむを得ないものと考えるにしても、親密な人と人とのつながりの証しを望む人々に対して国が背を向け妨害するのは自家撞着であり、理解に苦しむ」として、「パートナーシップ制度を同性間の婚姻制度の代替として留め置くのではなく、同性婚を正面から認めるとともに、パートナーシップ制度は男女を問わず人と人との親密な関係性を証明するものとして再定義してはどうか」と提案しています。「親密な人と人とがゆるくつながる制度の構築は、つながりを求める人々に安心感を与え、「無縁社会」を克服する鍵になるのではと想像するのですが、みなさんはどう思いますか」
フランスで結婚できない同性カップルのために設けられたPACS(連帯市民協約)の制度が、実は結婚という拘束の強い制度の利用には踏み込めずにいる異性カップルにも大いに利用されたという話を思い出しましたが、濵畑氏の提案は、恋愛関係ですらない、地域社会で共に暮らし、支え合っていこうとする方たちがその親密な関係を証明し、病院で面会できたりするという制度として利用できるよね、というもので、同性婚が認められた後の、この制度の未来が見えてきたように感じられます。
参考記事:
三条市でパートナーシップ制度導入決定 『一緒に暮らす子どもや養子を家族と認めるファミリーシップ』は新潟県内初(TBS / 新潟放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/133546
三条市、「パートナーシップ制度」でLGBTsカップルを公認(新潟日報)
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/103290?
三条市がパートナーシップ制度導入 高校生の質問に背中を押され署名提出が引き金に(kenoh.com)
http://www.kenoh.com/2022/08/24_partnership.html
パートナーシップ制度導入 佐野市も9月から/栃木(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20220819/ddl/k09/040/084000c
越前市が県内初の「パートナーシップ制度」導入へ(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/fukui/20220824/3050012277.html
仁愛大生が受領証デザイン 越前市導入予定パートナーシップ制度(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/517693
帯広のパートナーシップ制度、12月から導入(十勝毎日新聞)
https://kachimai.jp/article/index.php?no=569150
LGBTQ講座 上里で46人参加 パートナー制度周知/埼玉(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20220818/ddl/k11/040/137000c
「同性パートナーシップ制度導入を」萩市に要望(テレビ山口)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/128953
パートナーシップ制度は「無縁社会」克服の鍵となるか(自治体問題研究所)
https://www.jichiken.jp/chokugen/0016/