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トランス女性が凍結精子によってもうけた2人の子の認知について東京高裁が、一審判決を覆し、性別変更前に生まれた長女のみ親子関係を認定しました
今年2月、トランス女性が性別変更以前の自身の凍結精子によって女性パートナーとの間にもうけた子どもの認知の権利を求めた裁判で、東京家裁が訴えを却下、というニュースをお伝えしていましたが、性別変更したトランス女性とそのパートナーの女性が、凍結精子を用いて生まれた2人の子どもの認知を求めていた裁判の控訴審で8月19日、東京高裁(木納敏和裁判長)は、女性らの訴えを退けた一審・東京家裁判決を覆し、子2人のうち性別変更前に出生した長女について「自分が生まれた時には男性で、生物学的にも親子関係がある『父』に対して、認知を求める権利がある。認知は、子どもの福祉のために重要な権利で、親の性別変更という自分とは関係のない事情で失われるわけではない」として、法的な親子関係を認める判決を言い渡しました。一方、次女については「性別変更後に生まれたため、女性を『父』とは認められない」として、一審に続いて訴えを退けました。
判決後に開かれた会見で、性別変更したAさんは、「正直驚いた。このような判決が出るとは考えてなかった。長女については嬉しいが、次女の認知が認められなかったのは残念」と語り、次女に関する請求部分については上告し、最高裁の判断を仰ぐ考えを示しました。
この裁判は、AさんのパートナーであるBさんが2人の子どもを代理した原告としてAさんを被告とする「認知の訴え」を起こしているもので、利害が完全に一致しているカップルが原告と被告になっています。
一審・東京家裁は2022年2月、女性が父親として子を認知することはできないことと、母子関係は懐胎・分娩によって生じるので、懐胎・分娩していない者には親子関係が生じていないことなどを理由に「親子関係は認めない」との判決を下していました。
東京高裁は、認知請求権を定める民法787条にいう「子」は、「母と父との間の性交渉に由来して出生した、父との間に生物学的な父子関係を有する者」と解釈。もっとも、生殖補助医療により出産した場合にまで、「子の生物学的な父子関係を有する男性に対する認知請求権の行使を否定すべき理由はない」との判断を示しました。同条の「父」は、生殖機能を有する生物学的な意味での男性だとしたうえで、性同一性障害特例法による性別変更前後で民法の解釈は変更されないとし、Aさんが性別変更前に出生した長女については「父」であるAさんに対する認知請求を認めました。一方、性別変更後に出生した次女については、Aさんとの生物学的な父子関係は認められるものの、出生時にはAさんの法律上の性別が「女性」だったことから、同条の「父」とはいえず、認知請求は認められないと結論づけました。なお、「母」であるAさんに対する認知請求も否定しています。
判決後に開かれた会見でAさんは、「たとえば、レズビアンの母親どうしだったら、(子から見て)『2人の母』でおかしくないと思いますし、『2人の父』『2人の母』も今後は認められていくべきだと個人的には思います。ただ、今回については、認知できることを第一に考えていましたし、私自身はたしかに生物学的には『父』ですので、(『母』として認知できるという形には)強いこだわりがあるわけではありません」と語りました。
そして、高裁判決が、出生が性別変更の前か後かで判断を分けた点について「おかしい」と話し、最高裁へ上告する意向を示しまた。
「性別変更の手続き(のタイミング)を変えれば、次女の認知も認められたということなのでしょうか。長女の認知を認めたことというのは、子の福祉の観点から、子どものことを考えての判断なのではないでしょうか。その観点から考えれば、次女の認知も認めるべきだと思っています。セクシュアルマイノリティの子だといろいろ言われたりするかもしれませんが、そういうことがないようにしてあげたい。『Aさんの子どもだから…』ということがないように、自分の子どもにできる限りのことをしてあげたいと思っています」
原告らの代理人を務める仲岡しゅん弁護士は、「一審判決は2人の認知請求いずれも認めませんでしたので、今回、長女の認知請求が認められたという点についてはポジティブに考えています」と語りました。
一方、次女の認知請求を認めなかったことについては、「性別変更前に生まれたら認知ができて、後に生まれたら認知ができないというのは、姉妹間の公平性に反するのでしょうか。常識的に考えて、長女にはお父さんがいて、次女にはお父さんがいないという状態は、かなりいびつなのではないでしょうか。姉妹間の不平等は是正していかなければいけないと思います」と述べました。
そして「長女については上告しない方針」であることを明かし、次女の認知をめぐる請求についてのみ上告すると話しました。長女に関する請求部分は、このまま高裁判決で確定する見通しです。
高裁の判断について、家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は「父が女性になる前の子だった姉については親子関係を認めてよいとした高裁の判断は、子の身分関係をなるべく安定させたい考えの表れで一定の評価はできる。ただ、生活を共にし、血縁関係があるにもかかわらず、姉妹で判断が分かれた点は問題だ。現行の家族法は、男女という二分論で設計されているため、多様化する現代の家族の実情に追いついていない。子の幸せや、責任を持って子を育てる環境が整っているかを基準として親子を定義していくべきで、法改正が必要だ」と指摘しています。
参考記事:
性別変更前に生まれた長女のみ親子関係認める判決 東京高裁(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220819/k10013778641000.html
性別変更の女性の凍結精子で出生、長女のみ“法的親子関係”認める判決 「子どものこと考え…二女もちろん認められるべき」上告の方針(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/c305a324f07a459f987630d8ba0d6688
「性別変更前」のみ認める 精子凍結「親子関係」(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/405573
性別変更前に生まれた子だけ認知 凍結精子出産巡り東京高裁(共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/196898
性別変更前、長女と「親子関係」 凍結精子出産で、次女は認めず 東京高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022081900793
凍結精子で授かった2児 女性への性別変更前は「親子」 東京高裁(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20220819/k00/00m/040/267000c
性別変更した女性、長女の「父」と認定 東京高裁 次女は認められず(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASQ8M5W0WQ8MUTIL00Y.html
性別変更した女性、自身の凍結精子で生まれた子の認知訴訟 長女は父として認定、次女は認められず 東京高裁(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_18/n_14887/