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埼玉県で性的マイノリティに関する包括的な施策を盛り込んだ条例が可決・成立しました
埼玉県議会で7月7日、「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」が賛成多数で可決、成立しました。8日にも施行となります。
条例はLGBTQ差別の禁止やアウティングの禁止、カミングアウトの自由を明記し、「パートナーシップ・ファミリーシップに関する制度」の整備などLGBTQ施策を実施するよう県に求め、事業者に対しては「性の多様性に配慮した取組み」や県の施策への協力を促す内容です。
埼玉県の大野知事は、「多様性が尊重される時代において、ただちに対応すべき人権問題だと考えている。性的マイノリティの方々が希望を持って活躍できるよう、市町村や関係団体と連携しながら真摯に取り組みたい」と語りました。
埼玉県が2020年度に18~64歳の県民1万5千人を対象に実施した調査(5606人回答)によると、3.3%が性別違和を感じていたり、性的指向が同性に向く性的マイノリティで、「性的マイノリティでないものとしてふるまわなければならない」「偏見に基づく差別的な言動を見聞きする」といった悩みが多く寄せられました。また、「自死の可能性を考えた」などと回答した人は65.8%にも上り、性的マジョリティの26.8%を大きく上回りました(詳細はこちら)
こうした深刻な実態が明らかになったことを受けて、自民党県議団が昨年夏からプロジェクトチームを立ち上げ、当事者団体と勉強会を開きながら、条例案をまとめました。中心となった渡辺大県議によると、勉強会で当事者からは「毎日死ぬことを考えて生活をしていた」「性的マイノリティであることを職場で伝えたら、離職の勧告を受けた」といった声を聞き、社会の無理解をなくしていくことが必要だと考えたといいます。
条例案は「性のあり方が男女という二つの枠組みではなく連続的かつ多様」という認識に立ち、性の多様性が尊重され、すべての人が安心して生活できるような理解増進や暮らしやすい環境づくりに取り組むことを基本理念に定めました。さらに性的指向・性自認を理由とする不当な差別を禁じるほか、カミングアウトを強制したり禁止してはならない、アウティングをしてはならないと明記するものです。県は基本理念に則り、LGBTQ施策を実施し、市町村や団体とも連携すること、「パートナーシップ・ファミリーシップに関する制度」や相談体制を整備すること、県民や事業者も性の多様性への理解を深め、施策を実施することなどを求める内容です(当事者支援団体「レインボーさいたまの会」が要望してきた性的マイノリティに関する包括的な施策が盛り込まれているそうです)。いずれも罰則はありません。
一方、自民党本部では昨年、超党派で合意した同趣旨の法案を、党内の意見をまとめきれず(審議の過程で「道徳的に許されない」「種の保存に背く」などの差別発言を撒き散らし)国会提出を見送った経緯があります。条例案をまとめるにあたり、県議団内でも「時期尚早だ」という意見もあったほか、県民からは「伝統的な家族が壊れてしまう」「トランスジェンダーの女性のふりをして男性が女性の浴場に入ってくるなど、犯罪が増えることにつながるのではないか」といった反対意見もたくさん寄せられたそうです。条例案は6月17日の県議会に提出されましたが、自民党会派の一部議員は採決を棄権したそうです。また、一部メディアでは、「性自認の論理は「性の無政府主義だ」」といった無理解・偏見・トランスフォビアに基づく(先日の神政連の冊子と同じくらいひどいと批判されるような)言説も展開されました。
そうした強い向かい風を受けながらも、本日、無事に「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」が賛成多数で可決・成立しました。
レインボーさいたまの会の加藤岳代表は、「制度で人の意識が変わることがある。当事者は家族にさえも理解されないこともあるが、公的な制度ができることで家族や周りの人にも理解してもらう特効薬になればいい」と語りました。
埼玉県内では7月1日現在で36の市町が同性パートナーシップ証明制度を導入しており(レインボーさいたまの会によると、全国最多です)、うち10自治体ではその子どもも家族として認めるなどファミリーシップ制度を定めています。今回の条例の成立で、今後、県としての「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」の導入も進んでいきそうです。
参考記事:
性の多様性知って 自民が条例案提出へ 6月県議会(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASQ6871KJQ62UTNB00C.html
埼玉県議会 性の多様性を尊重した社会づくり推進条例を可決(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20220707/1000081958.html
LGBT条例が成立 埼玉県議会(産経新聞)
https://www.sankei.com/article/20220707-AXUMTKBVRBPSFJSCZ4MANRFU4U/