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各地の投票所でトランスジェンダーに配慮した取組みが進んでいます

 総務省は今年5月、今回の参院選で、投票所入場券に記載する性別について、トランスジェンダーの方に配慮して数字や記号などを使った表現を検討するよう各都道府県の選挙管理委員会に通知しました。性別表記の具体例を「数字、記号、バーコードなど」と示し、記載事項の必要性や表現を配慮・検討するよう求めたものです。
 自治体側ではすでに「男/女」を明記しない方式が主流となりつつありますが、国は投票者数を戸籍上の男女別に集計するよう自治体に義務付けており、投票所での分類作業が必要になっています。本人確認を名前ではなく生年月日で行なうなどの自治体としての仕組みづくりや、現場の方がトランスジェンダーへの理解を深めていくこと、集計方法に工夫を凝らすことが求められ、実践が進んできています。
 
 
 沖縄タイムスには、「選挙が怖い」と語るトランスジェンダーの方の声が紹介されています。外見のジェンダー(性表現)が戸籍上の性別と異なる方が、本人確認で性自認にそぐわない(外見の性と一致しない)名前を読み上げられることや、目の前で「男/女」ボタンを押されるのは大きな苦痛です。投票に行くこと自体をあきらめる方もいるそうです。当事者は「安心して投票できるよう、配慮を尽くしてほしい」と訴えます。
 出生時に割り当てられた性別は女性で、いまは男性として生きているソウタさん(仮名、39歳)は、30代に入るまで「投票に行きたくても行けなかった」と語ります。地元の投票所に向かうのは、顔見知りにカミングアウトするようで不安でした。「本人確認の際に女性的な名前を呼ばれるのも、とにかく嫌で恐怖。選挙よりも自分を守る方が優先」と、足が遠のきました。31歳のときに性別適合手術を受け、戸籍性も変更してようやく、投票に行けるようになりました。「自分と同じように投票に行けなかったり、ためらったりする当事者はたくさんいる。投票所入場券の性別欄をなくすだけでも、配慮が見えて安心できる」
 トランス男性のユウキさん(仮名、35歳)はホルモン治療中だった20代の頃、女性的な名前と声の低さのギャップに、投票事務に従事する人から「本人ですか?」と強い口調で問われ、「すごく嫌な気分になった」と語ります。大声で名前を呼ばれるのも、その場から逃げ出したくなるほど恥ずかしかったそうです。「本人確認は大事だと思うが、周囲にも聞こえるほどの大きな声で呼ぶのはやめてほしい」といいます。

 入場券に何を書くかは市町村の判断に任されているため、投票入場券の性別の表記は、市町村によって様々です。浦添市は2004年の性同一性障害特例法施行を機に男女表記をやめたそうです。与那原町は今年4月の町長選から数字表記になり、南風原町は「・」という記号の有無で区別しています。
 一方、投票者数は戸籍上の男女別で集計して、県選管や国に報告することが公職選挙法施行規則で決まっているため、担当者が投票用紙を発行する機械の男女ごとのボタンを押しているそうです。ただ、トランスジェンダーの方にとって、目の前で「男」「女」と判断されるのは大きな苦痛ですので、宜野湾市や豊見城市、南城市、石垣市などは、男女ボタンが見えないよう囲いを作ったり、ボタンの表記を記号に変えたりして配慮しています。
 那覇市は長く、入場券に性別を記載しておらず、男女の判断がつかない場合は、対象者が投票した後に名簿で戸籍上の性別を確認し、集計に反映させるそうです。担当者は「運用で工夫できる」と話しています。
 沖縄市と北谷町は、本人確認の際に名前ではなく誕生日を聞くようにしています。「名前を申し出た人にも、誕生日を聞いて徹底している。問題はない」とのことです。


 NHK岐阜放送局のニュースでは、LGBTQ支援団体「ぎふ・ぱすぽーと」の共同代表で、戸籍性は男性で女性として生きている雪齋さんのことが紹介されています。雪齋さんは投票入場券に記載された性別と見た目が異なることから、投票所で本人確認の際、周りに聞こえる大きな声で繰り返し性別を確認され、不快な思いをしたといいます。こうした経験が苦痛で投票をためらう人もいるとして、雪齋さんは仲間とともに、自治体の選挙管理委員会に、投票入場券から性別欄を削除するよう求めてきました。雪齋さんは、性別欄の削除は一定の理解が進んだと歓迎する一方で、「性別が記号に変わっても、投票所でのやりとりで暴露されてしまえば、地域に住むことができなくなる恐れもあり、安心はできない」と述べ、選挙に関わる人たちの性的マイノリティへの理解と支援を求めています。「私たちは特別な存在ではありません。他の人たちと同じようにスムーズに投票できるようになってほしいです」


 静岡新聞の記事によると、静岡県の沼津市は「投票事務従事者には性的少数者がいることを前提に配慮するよう伝えている」、牧之原市は「生年月日を聞くなどして口頭で性別を確認しないようにしている」そうです。昨年から性別表記を見直した下田市の担当者は「性別表記があることで投票行動が失われてはならない」としています。
 浜松TG(トランスジェンダー)研究会の鈴木げん代表は「書類上に男女表記がなくなって入場券から感じる圧力は減った」と表記の見直しに一定の評価をしつつ、投票所での対応については「表記とは別の問題。性別が機微な個人情報だということを職員が丁寧に理解し、ルール化されているかが問われる」と指摘します。鈴木代表は、本人確認の際に「性別や、性別の類推につながる氏名に頼らなくても、混乱が起きないよう確認する方法はある」として、生年月日や住所での確認を提案します。従来のシステムが戸籍の性や見た目の性、社会生活上の性などが全て一致することを前提につくられてきたとして、「(それぞれの性が)違うことを前提にして、時代に応じたあり方を当事者と関わりながら検討してほしい」と語っています。
  
 


参考記事:
投票入場券、消える「男女」記載(共同通信)
https://nordot.app/916260104034205696

投票に行くのが怖いのはなぜ? トランスジェンダーの有権者 苦痛で諦める人も 市町村に求められる配慮とは(沖縄タイムスプラス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/986820

各自治体が投票入場券の性別記載を無くす環境づくり(NHK岐阜)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/k/gifu/20220706/3080009218.html

投票所入場券 性的少数者への配慮進む 「男女」記号や数字に【参院選しずおか】(静岡新聞)
https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1086159.html

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