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尼崎市が、幹部が市職員に性的指向を伏せるよう指導したのをSOGIハラと認定、今後職員研修などで人権に対する感度を上げる取組みを進めると発表しました
昨年12月、兵庫県尼崎市の幹部が、バイセクシュアル男性職員(Aさん)に対し「性的指向を市民に明かすこと(カミングアウト)は公務員として不適切」と指導し、男性が「社会の無理解を行政が容認した形でショックだった」として依願退職していたと報じられました(詳細はこちら)。これに対し、尼崎市は庁内にワーキングチームを設置して検証を行ない、SOGIハラであると認定、性の多様性についての理解不足などが原因だったとし、今回の事例を教材にして職員研修を実施し、人権に対する感度を上げる取組みを進めると発表しました。
ワーキングチームは稲村和美市長ら市幹部3人で、弁護士や当事者団体など6人がアドバイザーとして参加。9回会合を開き、関係職員にもヒアリングを行ないました。
検証結果によると、2019年11月、Aさんが対応していた市内の動物愛護団体員から保健所幹部宛に「職員に性的指向を明かされて困惑し、不愉快だ」と訴える文書が届きました。名前は伏せられていたもののAさんと特定できる形で書かれていました。翌月、幹部ら上司3人がAさんと面談。Aさんは「市民の1人から『彼女は? 結婚は?』と結婚観をしつこく聞かれ、話を終わらせたくて男性のパートナーがいると正直に答えたことがある」と説明しました。幹部は「社会全体が成熟しているわけではない。個人的なことは言うべきではない」と指導しました。「私だったら白血病だったり借金があったりしても、相手にどう思われるかわからない私的なことは市民に言わない」とも言ったそうです。また、Aさんが性的指向を知らせていない上司を同意なく面談に同席させ、性的指向をアウティングしました。Aさんは3ヵ月後、依願退職しました。
職場で性的指向・性自認(SOGI)についてカミングアウトするのを止めたり、カミングアウトを強制したりすることについて、厚生労働省は「不適切」と示しています。市の検証では、幹部の指導はカミングアウトを禁止する行為で、病気や借金と同列にとらえたのは性的マイノリティを傷つける不適切な例示だったと指摘しました。さらに、市は、幹部の指導内容だけでなく、発端となった団体側の発言自体も人権問題だと認識し、「性的指向と勤務態度は別」と伝え、理解を促す必要があったとの認識を示しました。
3月30日の市長定例会見で、今年1月から座長として検証作業をしてきた稲村和美市長は、「勉強不足を痛感した。『差別するつもりはなかった』というなかでの不適切発言で、意識していない多数派の特権性の課題を認識した。私も含め職員は自分が差別しないだけでなく、差別をなくす役割がある。市民への説明力もつけていきたい」と語りました。
幹部は「カミングアウト自体を否定するつもりはなかった」と話したそうで、稲村市長は「ハラスメントへの意識の浸透と、職員自身の人権を守る意識が必要」と強調し、処分はせず、今後、Aさんの同意を得て今回の事例に基づいたアンケート調査や研修を行なうほか、職員全員に対して自身の性について相談できる外部窓口を設置するとしています。
尼崎市は2020年1月から(兵庫県で3番目に)「パートナーシップ宣誓制度」を導入しているほか、昨年3月に職員用に「性の多様性への理解を深めるサポートブック」を作成しています。
今回の事件は制度導入や職員への啓発の前に起きたことではありますが、起こったことに対して市側がきちんと(LGBTQ団体も交えて)検証し、何が問題だったかをしっかり認識し、このように結果を公表し、再発防止につながるような施策も示しているのは、たいへん的確な対応だと言えます。以前、どこかの市の職員が当事者の市民に対して「(うちはLGBTは受け入れないから)よその市に引っ越してはどうか」と答えたという事例もありましたし、今後もどこかで何か問題が起こるでしょうが、そうした場合、たとえ幹部でもうやむやにせず、ぜひ今回の尼崎市のように適切な検証がなされることを願います。企業でもモデルケースとして参考にできるような理想的な対応だったのではないでしょうか。
参考記事:
「バイセクシャル」公表めぐり職員退職 指導した幹部職員は性の多様性への理解不足 尼崎市が検証結果公表(関テレ)
https://www.ktv.jp/news/articles/bff3c80c_7e0a_45b6_a83f_b64ac2a93083.html
尼崎市幹部のSOGIハラ認定 男性職員へ性的指向伏せるよう指導(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASQ412T7CQ30PIHB002.html
カミングアウト巡り職員退職 幹部の「私的な悩み」との表現、「極めて不適切」 尼崎市検証結果(神戸新聞)
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202203/0015178747.shtml