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米ディズニーが「ゲイと言ってはいけない」法案への反対を表明しました
米ウォルト・ディズニーは10日、「ゲイと言ってはいけない」法への反対を表明しました。ボブ・チャペックCEOは、これまで企業としての立場を明言していませんでしたが、同法を推進する共和党議員に多額の献金を行なっていたことや、ピクサー従業員がディズニーから同性愛要素の検閲を受けていたことなどが明らかになり、社内外から非難を浴びていました。
ディズニーがこれまで同法への態度をはっきりさせてこなかったことに対し、内部から批判が高まったことを受け、ボブ・チャペックCEOは7日、従業員向けに釈明メールを送信しました。ディズニーは伝統的に性的マイノリティをサポートしてきたと強調したうえで、「(企業の声明は)どちらか一方(の政治勢力)によって武器にされ、さらなる分断と炎上を招きがちだ」などと説明するものでした。
このメールの送信の直後、アニメーターでディズニーの人気シリーズ「アウルハウス」の原案としても知られるダナ・テラスが異例の顔出しで「私はディズニーの体裁を取り繕うのにほとほと疲れた」とツイートし、抗議しました。スレッドの一部が削除されてしまっているのですが、こちらによると、「これはLGBTQ+の子どもに対して『お前は存在しない、存在するに値しない、最早それについて話すこともするな、静かにしろ』と強く伝える法案です。で、全社員にボブ・チャペックからメールが来たんだけど『ディズニーは会社として変わったりはしないし資金援助も辞めないけど、まあはい、うるさいから同情の言葉でも受け取ってください』というもので、それに続けて『インスパイアリングな物語や、私たちがサポートする多様性に富んだ組織を通して、世界に長期的な変化をもたらすことができると信じています』って書いてあって、そうだね、クィアの子どもたちの意思を無視して危険に追いやる共和党員たちはなんて多様性に富んだ組織なんでしょう! 正直言ってこの話題について話すのは辛いです。"こういうこと"のせいで自らのクィア性について20代半ばまで辛い時期を過ごしてきました。自分は"こういうこと"のせいで存在してはいけないと思ってたし、誰も自分に対し、存在していいという選択肢があることさえも教えてくれなかったから。…あー、生活のために稼がなきゃいけないのは当たり前だけど、この会社で働かなければならないことがあまりにも自分にとって腹立たしくて、生活のためだったり大切な人のサポートのために道徳的ジレンマが生まれるのも本当に嫌で仕方ないけど… とにかく、3月13日にチャリティ配信をするって話をしてこの動画を終わりにしようと思います! このチャリティはクィアの子どもを『実際に』サポートしてる組織に向けたもので、自分たちは誰かを黙らせるためにキラキラした言葉を使って話を終わりにしたりはしません。それじゃありがとう! 配信で会えますように!じゃあね!」というものでした。この投稿には10万もの「いいね」がついています。
アニメ作家のベンジャミン・シーモンは、「僕は子どもの頃からゲイで学校の先生に何度も助けられた。「ゲイと言ってはいけない」法案は多くの子どもたちを傷つける。ディズニーは素晴らしい会社だ。だから声明を出してほしい。法案を支持する政治家への寄付をやめてほしい。ディズニー、ゲイと言って」とツイートしました。
その後、ピクサー従業員が関係者向けの声明で、親会社ディズニーによる同性愛要素の検閲を告発し、チャペックCEOのメールを「空虚」であると批判しました。
声明では2021年から販売されている「レインボー ミッキー」グッズに触れつつ、性的マイノリティの権利が危ぶまれる状況下で適切な支援をしないにもかかわらず、このようなグッズで儲ける企業に所属するのは「最悪の気分だ」と、痛烈に非難。さらに、ディズニーの社風はコンテンツ(アニメーション作品)が物語っているとして、ピクサー側のクリエイティブ・チームや経営陣双方から抗議があっても、ディズニーの意向で同性愛を好意的に描くシーンがカットされてきたと訴えています。声明はピクサーの「LGBTQIA+従業員、及び関係者」名義になっており、全文は米『Variety』誌上で確認できます。
チャペックCEOは3月9日の年次総会で、これまで表立って立場を表明してこなかった理由について「法整備に携わる関係者と水面下で意見交換した方が効果的に働きかけられると信じていたため」だと説明し、こうした動きがうまくいかなかったと認めたうえで、社内経営陣のLGBTQメンバーと共に、フロリダ州知事と面会予定であると明かしました。
また、同法案への反対署名をすると共に、LGBTQコミュニティの支援団体に500万ドル(約5億8000万円)の寄付をすると約束。これを受けて、寄付先の一つとして挙げられた米国最大のLGBTQ団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」は、ディズニーが同法に対して意味のある行動を取るまでは寄付金を受け取らないと表明しました。
こうした社内外の厳しい批判を受けて、チャペックCEOは10日の株主総会で「当初から法案に反対していたが、舞台裏で(賛成・反対の)両方の議員に直接働きかけるほうが効果的と考えて公に立場を示さずにいた」「より良い結果を得られると期待したが、数週間の努力にもかかわらず最終的に失敗した」と述べ、この日の朝、フロリダ州のデサンティス知事に電話し、法案が成立すればLGBTQの子どもや家族を「不当に標的にするために利用されかねない」と懸念を伝えたことを明らかにしました。デサンティス知事は、近くチャペック氏やディズニーのLGBTQの従業員らと面会することに同意したそうです。
フロリダ州オーランドに「ディズニーワールド」を置くディズニーは、同州で約8万人の従業員を抱える一大雇用主です。州知事に(電話で)意見を言えるくらいの影響力を持っているだけに、同州のLGBTQの子どもたちの命にもかかわるような非道な法案の成立を食い止めるうえで、ディズニーの動向は非常に重要な意味を持っていました。社内の勇気ある従業員の告発や、HRCの(札束に屈しない)毅然とした態度が奏功し、チャペックCEOもようやく旗色を鮮明にし、反対を表明することになったのでしょう。声を上げること、PRIDEを示すことが世界を変えるうえでいかに大切かということを物語っています。
ディズニーはこれまで、それこそオーランドの「ディズニーワールド」でも90年代から「GAY DAY」を開催し、2019年には初の公式プライドイベントをディズニーランド・パリで開催、2018年にはレインボーカラーのミッキー・イヤーを発売するなど、LGBTQのために「夢と魔法」を届けてくれました。日本でも、2012年に初めて同性結婚式をOKしたり、昨年にはディズニーストアがプライドコレクションを発売して売上を団体に寄付するなどしてきました。
ディズニーは、(他社に比べるとゲイのキャラクターが登場するのが遅かったとも言われていますが)映画『美女と野獣』のル・フウや『エターナルズ』のファストスのようなゲイのキャラクターを登場させ、ピクサー作品『2分の1の魔法』でもレズビアンのキャラクターを登場させてきました。ディズニー・チャンネルでもドラマ『アンディ・マック』や『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』『スター・ウォーズ レジスタンス』などにクィアのキャラクターが登場。そしてディズニープラスではゲイを主人公とした『Out』(邦題『殻を破る』)というピクサーの短編アニメや、性の多様性をテーマにした『ジェンダー革命』『心をつむいで』などの作品も配信されています。
今回、ピクサーに対して同性愛シーンを描かないよう検閲していたことが明らかになったのは本当にショッキングでしたが、きっとこれを機に検閲もなくなり、今後もっとLGBTQが当たり前のように描かれていくことを期待します。
【追記】2022.3.14
ボブ・チャペックCEOが11日に送信した社内メールの中で、LGBTQの従業員に謝罪したうえ、法案を支持した議員に対する寄付を全て一時停止し、政治献金に関する仕組みを変更することを発表しました。
「これはフロリダ州の法案に関する問題ではなく、基本的人権に対するまた別の挑戦であることは明らかです」
「『平等な権利のための闘い』に勝利するべく、私を強い味方として必要としてくれていたにもかかわらず、皆さんを失望させてしまいました。まことに申し訳ございません」
「私たちは、私たちの価値観をより良く反映させるべく、政治献金の新しい枠組みについて見直しを行なっています。この見直しが完了するまでの間、フロリダ州におけるすべての政治献金を一時停止します」
「LGBTQ+のコミュニティがあるからこそ、私たちは限りなく良く、強い会社であると心から信じています」
「今回の件では、期待はずれだと思わせてしまったかもしれません。しかし、私はあなた方の頼れる味方です」
今後さらなる発表を行なう予定だそうです。
参考記事:
米ディズニー「性自認の議論禁止」法案に反対 批判受け(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1001Y0Q2A310C2000000/
ピクサー従業員、親会社ディズニーによる同性愛シーン検閲を告発 LGBTQ+支援団体もディズニーからの寄付を拒否(ねとらぼ)
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2203/10/news158.html
ディズニーCEO、フロリダ州の「ゲイと言うな法案」に反対宣言(Forbes Japan)
https://forbesjapan.com/articles/detail/46294
ディズニー社CEOボブ・チャペック、LGBTQ+従業員への謝罪と政治献金の枠組み見直しを発表 「Don’t Say Gay(ゲイと言ってはいけない)」法案の批判の声を受け謝罪(TVGroove)
https://www.tvgroove.com/?p=88803