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フロリダ州の「ゲイと言ってはいけない」法案に各方面から非難の声、高校生の抗議デモも

 米フロリダ州で8日、小学校で性的指向や性自認について議論することを禁止する法案が可決されました。ホワイトハウスは「生徒を攻撃するために作られた」法案だと非難し、高校生たちが抗議デモを行ない、著名人も反対の声を上げています。
  
 
 学校の教室でLGBTQについて話すことを禁止・制限する州法は(ロシアの「同性愛プロパガンダ禁止法」にも通じるものがありますが)「同性愛推進禁止」法とも呼ばれ、アンチ同性愛の運動と密接に関係し、1970年代から1980年代にかけて米国のいくつかの州で導入されていました。その多くはすでに廃止され、現在は、ルイジアナ、ミシシッピ、オクラホマ、テキサスの4つの州で、性教育を異性間の行為に限定するといった州法が存在しています。昨年にはテネシー州とモンタナ州で、性的指向や性自認に関する議論に自分の子どもを参加させないことを親が選べる州法が成立しました。フロリダ州の法案はさらに一歩踏み込んだ内容になっていて、親は、教育者が法律に違反したと考えれば、学校区を直接訴え、損害賠償を求めることが可能になるものです。議論の禁止は理論上、小学校レベルの性教育のコースに適用されますが、「生徒の年齢や発達に照らしてふさわしくない」場合は、LGBTQの話題を避けるよう学区に求めてもいます。
 フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)は2月7日、この法案の文言を引用しながら、学校は「完全に不適切な」話題を避け、代わりに科学や歴史、公民などの授業を行なうべきだと述べ、この法案を支持することを表明していました。
 LGBTQ団体や民主党はこの法案を「Don't Say Gay(ゲイと言ってはいけない)」法案と呼び、LGBTQにスティグマを刻印し、当事者の子どもへのいじめが増える原因になり、LGBTQの若者のメンタルヘルスを害し、法の下での既存の保護を損なうと同時に、フロリダ州の人々をより包括的な学校環境から遠ざけることになると訴え、廃案を求めてきました。
 ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は2月9日の記者会見で「すべての親は、我々の指導者たちが子どもの安全や保護、自由を保証することを望んでいる」と述べました。「今日、フロリダの保守的な政治家たちは、最も支援を必要とする子どもたちに的を絞って攻撃することを目的とした法案を進めることで、こうした基本的価値観を否定したのだ」
 また、バイデン大統領はTwitterで「私はLGBTQ+コミュニティのすべてのメンバー、特にこの憎むべき法案の影響を受けるであろう子どもたちに、ありのままで愛され、受け容れられていると知ってもらいたい。私はあなた方の味方であり、私の政権はあなた方にふさわしい保護と安全のために闘い続けよう」と語りかけましたた。
 米国初のゲイの閣僚であるピート・ブティジェッジ運輸長官も「LGBTQの若者が自殺を考えることにつながる」と危機感をあらわにしました。
 
 『エスクワイア』誌のジャスティン・カークランド記者は、この法案が「子どもたちの命を奪う可能性がある」と述べています。
「今回の法案は年齢に関係なく、すべての公立学校で性的指向について議論することを禁止するものです。そして週末には、『生徒がクィアであることを教師が発見した場合、6週間以内に保護者に報告することを義務づける』という修正案がさらに追加されました。これに賛同した議員たちの誰もが、子どもたちの幸福など微塵も気にしていないことは明らかです。これは子どものための法案ではありません。法案を支持する議員たちは、若者やその家族のことなど考えていません。彼らが気にかけているのは『中間選挙』と、(この法案によって、教師に告げ口された子どもたちが自殺へと追いやられる可能性があることに無関心な)『支持層』だけなのです。候補者たちは、有権者が投票所に足を運ぶまでの間、敬虔なキリスト教徒としての姿をアピールできればそれでいいと思っているのでしょう」
「もし議員たちが、本当に若者のことを気にかけていたら、子どもがカミングアウトする最初の相手が教師であるケースが多いことを理解できるはずです。多くの子どもたちが、家では自分らしくいられないと感じているのですから」
「自分がゲイだと気づいたのは12歳頃のことで、当時サウスドイル中学校の地下でタイピングを教えていた若い教師、エリン・コリンズ先生に救われました。春休み明け最初の月曜日の朝8時、私は彼女の机の前で泣きながら、『自分はゲイで、死んでしまいたい』と告げたのですが、『そんなことはこの世から去る理由にはならない』とその先生が教えてくれました。家でも教会でもサッカーの練習でも経験したことのない方法で、私は先生に支えてもらったのです。彼女が両親に告げ口するようなことは決してありませんでしたし、私が両親にカミングアウトできたのはその10年後のことです。先生のおかげで私はまだ生きていて、20年経った今、私たちの会話を紹介することができているのです」
「テキサス州や私の育ったテネシー州でも、今回追加されたような法案が検討されたことがあるため(実現することはありませんでした)、もし当時先生が私の両親に話さなければならなかったとしたら、どうなっていただろう?と考えてしまいます。私は大人になってからようやく家族にカミングアウトできましたが、子ども時代にカミングアウトを強要されていたら、かなりひどい状況になっていたことは明らかです。LGBTQ+の子どもたちには、虐待や育児放棄の脅威、さらに、恐ろしい転向療法(フロリダではまだ合法です)という選択肢がつきまとっているのです」
「子どもたちは自分たちの力で、困難かつ混乱した期間を乗り越えなければならないのです。この法案が通過すれば、彼らは自分の住む州が性的指向について口を閉ざすべきだと考えているだけでなく、罰せられるべきだと考えていることを知りながら、この期間を乗り越えなければいけなくなります。教師や学校スタッフという安心につながるはずの人たちが、最も必要な期間に奪われてしまうことになるのです」
「この法案は自分は何も奪われていないのに、奪われたと感じてしまう大人たちを慰めるためのものに過ぎません。彼らは今、『子どものセクシュアリティは自分たちのコントロール下にあり、"意識高い系の暴徒"や"左翼メディア"によって、子どもたちがゲイやトランスジェンダーへと変えられてしまう』と信じているわけです。2022年にもなってまだ、こんなことを言わなければならないなんて信じられません。ですが、これは目を背けてはいけない問題であり、大きな間違いです」
「この法案は、子どもたちの生死にかかわる問題と言えるのです。ですが残念ながら、この人たちは子どもたちの生死など気にならないタイプであると推測できます。むしろ、子どもたちが性や人種について学ぶはずだった教科書のページを切り取って、それを政治的利益のために燃やす発火材にするつもりなのです」
 本当に素晴らしい文章です。ジャスティン・カークランドの正鵠を射る言葉は、これまでLGBTQ差別発言をしてきた日本の議員などにも当てはまるものだと言えそうです。
 
 感動的なことに、3月7日、フロリダ州オレンジ郡の高校の生徒500人以上が授業をボイコットして「ゲイと言ってはいけない」法案に抗議しました。2人の生徒が抗議行動を主導し、生徒たちは「ゲイと言おう」「トランスジェンダーの子たちを守ろう」と声を上げました。フロリダ州ではその前の週にも、各地の高校で同様の抗議運動があったそうです。
 主催者の生徒はCNNのインタビューに対し、「この運動が続くことを当局に知らせたかった。法案が可決すれば至る所でデモが起きるだろう」「主権は私たちにある」と語りました。この生徒は先週、州上院歳出委員会でも反対意見を述べたそうです(スゴいですね)

 セレブも続々と反対の声を上げています。
 歌手のショーン・メンデスは、フロリダ州のLGBTQ団体「Equality Florida」の「ゲイと言ってはいけない法案に関する本日の上院での討論を前に、フロリダ州内の学生や信仰指導者がLGBTQの議員とともに国会議事堂の階段で集会を行なっています。今日こそ、冷静な立法府の判断が必要です。今日こそ、ゲイと言ってはいけない法案に歯止めをかける日です」という投稿を引用リツイートし、法案に反対する姿勢を見せました。
 歌手のアリアナ・グランデは「Equality Florida」がニュースをシェアした投稿の下に「マジで最低」とキャプションをつけてインスタグラム・ストーリーズに投稿しました。
 俳優のジョージ・タケイは「あるフロリダの議員が立ち上がって、“ゲイ”は永久的なものではない、と言った。私は84年以上ゲイをやっているので、彼女が何を言いたいのかよくわからないが、虹や咲き乱れる花など、自然の最も美しい創造物の多くは永遠には続かない。ただ、感動を与えるには十分な時間だ」とツイートしています。
 
 若い世代から絶大な支持を集めているポップ・スターで昨年カミングアウトしたジョジョ・シワは、自身のコンサートで、「どうやって話し始めようか考えてたんだけど…今晩、会場にいる誰かがTwitterで『ねえ、ジョジョ。今晩あなたのコンサートに行くんだけど、あなたはゲイだって言わないで』って書いてたのを読んで、言わなくちゃって思った。アドバイスに従って、そう言わないことにする。その代わり、別のことをしようと思う」と言って、最高の笑顔でレインボーフラッグを掲げ、観衆に振って見せました。
 続けて彼女は、こう語りました。「私はジョジョ。世界に私の人生の半分をシェアしてきた。ゲイであることは私の一部。そしてみんなに伝えたいのは、あなたが何者かってことは、何よりも大切なこと」「それはあなたの髪の毛かもしれない、肌の色かもしれない、誰を愛するかってことかもしれない」「でもおぼえててほしいのは、あなたが他の人と違うところは、あなたを特別な存在にしているってこと。ゲイであることはちっともヘンじゃない。このレインボーフラッグは、愛と平等、そして自分自身でいることの象徴」「今日はみんなに、このことを持って帰ってほしい。明日目覚めたとき、もっと自分にPRIDEを持てるようになってほしい、もっと自分自身を愛せるようになってほしい。そして他の人をもっと祝福できるようになってほしい」

 最後に、Twitterで紹介されていた、人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』に出演したケイト・マッキノンのリアクションが最高だったのでご紹介します(ケイト・マッキノンはレズビアンであることをカミングアウトしているコメディエンヌ/女優です)。以下のTwitter投稿のスレッドを順番にご覧ください。


 
参考記事:
学校で“性的指向や性自認の議論禁止”可決 フロリダ州(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/international/810442a2d21a44c393488ba0d8518488
小学校での「性的指向の議論禁止」法案、フロリダ州で可決の見通し 米政府は非難(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/60328090
学校での「性的指向の議論禁止」州法案 米で物議(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1155Z0R10C22A2000000/
高校生らが授業ボイコット、「ゲイと言ってはいけない」法案に抗議 米フロリダ州(CNN)
https://www.cnn.co.jp/usa/35184589.html
フロリダ州の「ゲイと言ってはいけない」法案は、子どもたちの命を奪う可能性がある(Esquire)
https://www.esquire.com/jp/news/a39272313/florida-dont-say-gay-bill/
Watch JoJo Siwa’s Perfect Response to Being Told Not to Say She's Gay(Out)
https://www.out.com/celebs/2022/3/07/watch-jojo-siwas-perfect-response-being-told-not-say-shes-gay
ショーン・メンデス、「性的指向の議論を禁止する法案」に反対を表明(フロントロウ)
https://front-row.jp/_ct/17524039
アリアナ・グランデ、教育現場でLGBTQ+について教えることを制限する法案可決を非難(Billboard Japan)
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/109739

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