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【カタールW杯】レインボーのシャツでLGBTQ支援を示していた米記者グラント・ウォール氏が試合中に急逝…弟さんがゲイの方だったそうです
12月9日、カタールW杯の準々決勝が行なわれいるさなか、米国の著名なサッカージャーナリストであるグラント・ウォール氏が倒れ、近くの病院に緊急搬送されたものの、亡くなりました。グラント・ウォール氏は大会2日目にレインボーが描かれたシャツを着て会場に入ろうとして警備員に拘束されていました。弟のエリックさんは、「兄がW杯でレインボーのシャツを着用したのはゲイである私のためです。兄はいたって健康でした」「彼は僕に死の脅迫を受けたと話していました。兄はただ死んだとは思えない。誰かに殺されたのだと思います。どうか助けてください」と涙ながらに訴えました。
『マイアミ・ヘラルド』紙でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせたウォール氏は、プリンストン大学を卒業後に五輪やサッカーの主要大会でレポーターを務め、2009年にはデヴィッド・ベッカムのノンフィクション『ベッカム・エクスペリメント』を執筆し、ベストセラーとなっていました。1996年から2021年にかけて『Sports Illustrated』誌のライターを、2012年から2019年にかけて「Fox Sports」の特派員も務め、今は米放送局「CBS Sports」で活躍していました。今回のカタールW杯はウォール氏にとって、男女通じて8度目のW杯取材でした。
現地12月9日に行なわれたオランダ対アルゼンチンの準々決勝のさなか、ウォール氏が倒れ、近くの病院に緊急搬送されたものの、息を引き取りました。『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると死因は心臓発作だそうです。ドイツ通信社の記者によると、ウォール氏は即座に救命措置を受けており、またW杯組織委員会によると、ハマド総合病院へと向かう途中でも蘇生が試みられたものの、夜に他界したそうです。
ウォール氏自身は今月5日から自身のWebサイトで体調不良を訴えていました。
グラント・ウォール氏はLGBTQのアライ(支援者)で、大会2日目である11月21日のアメリカ代表vsウェールズ代表戦に虹の模様が描かれたシャツを着て会場に入ろうとしましたが、警備員に「シャツを着替えろ。許されない行為だ」と止められました。警備員に約25分ほど拘束され、その後、シャツを脱ぐことなくメディアセンターに到着し、「不必要な試練だった」「Go gays」と自身のTwitterに投稿しました。この件は日本にもニュースとして伝えられました。
12月8日には、会場の建設現場で亡くなっていた出稼ぎ労働者に対するW杯主催者の無関心さについての記事を発表していたそうです。
異国の地での訃報を耳にしたご家族は悲しみに暮れています。
妻で、疫学者として知られ、COVID-19の専門家でもあるセリーヌ・ガウンダー氏は、「衝撃に打ちひしがれています」とツイートしました。
弟のエリックさんは自身のInstgramで「兄がW杯でレインボーのシャツを着用したのはゲイである私のためです。兄はいたって健康でした」「彼は僕に死の脅迫を受けたと話していました。兄はただ死んだとは思えない。誰かに殺されたのだと思います。どうか助けてください」と涙ながらに訴えました。「兄は、私が知るなかで最も誠実な人物の一人でした。とりわけ、その権利が脅かされているような人々に特別な関心を寄せてきました」
ただ、ウォール氏は亡くなる前日に自身のポッドキャスト番組で「私の体はついに壊れてしまった。3週間の睡眠不足、ストレス、そして仕事の多さがそうさせるのだろう。この10日間、風邪気味だったのが、アメリカ対オランダ戦の夜にはもっとひどいものになり、胸の上部に新たな圧力と不快感が生じたのを感じた。新型コロナ陽性ではなく(ここで定期的に検査している)、今日診療所に行ったら、おそらく気管支炎だろうと言われた。抗生物質と強力な咳止めシロップを処方され、数時間後にはすでに少し良くなっている。でも、やっぱりダメだ」と語っています。カタール当局は、激務がたたって気管支炎を患い、心臓発作で亡くなったのだというふうに処理するでしょうし、多くの人々もそのように考えることでしょう。しかし、エリックさんの言うようにウォール氏は脅迫を受けていたわけですから、その死に事件性がなかったかどうか、きちんと捜査が行なわれるべきではないでしょうか。
米国サッカー連盟(USSF)は、「グラントはサッカーを自身のライフワークにしていた。彼と彼の素晴らしい文章がもはやわれわれと共にないことに打ちのめされている」「米サッカーファミリー全体が、心を痛めている」と追悼しました。
国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は、「彼のサッカーに対する愛は計り知れないものであり、国際的な試合を追いかけるすべての人々が彼の記事を懐かしがることになるでしょう」と追悼のコメントを発表しました。ウォール氏は先月、国際スポーツ記者協会とFIFAが共催したジャーナリスト・オン・ザ・ポディウムで表彰されたばかりでした。
カタールW杯「伝送と遺産の最高委員会」は、米国大使館および行政と連絡を取りながら、遺族の意向に沿うようなかたちで遺体の搬送手続きを確実に進めると述べています。
人権問題に揺れるカタールW杯で、アライとしての姿勢を崩さず、虹色のTシャツでLGBTQ支援の意志を真っ直ぐに示して見せてくれたグラント・ウォール氏に敬意を表します。突然亡くなってしまったことに哀悼の意を表し、謹んでお悔やみ申し上げます。
参考記事:
Journalist and LGBTQ+ advocate dies at Qatar World Cup. His brother says he was killed(PinkNews)
https://www.thepinknews.com/2022/12/10/grant-wahl-dies-aged-48-qatar-world-cup/
サッカー記者、W杯取材中に死亡 米ウォール氏、死因不明(共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/219217
米サッカー記者が死亡 取材中に倒れる―W杯サッカー(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022121000508
サッカー=米国の著名記者、W杯カタール大会取材中に急死(ロイター)
https://www.reuters.com/article/sport-idJPKBN2SV00O
米国人スポーツ記者、W杯準々決勝の取材中に死去(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3442775
虹色シャツで拘束された米記者が試合中に死去。前日に不調も弟は「兄は殺された」と涙の訴え【W杯】(THE DIGEST)
https://thedigestweb.com/football/detail/id=62706
W杯オランダ対アルゼンチンで悲劇…取材していた米著名記者が48歳で急逝(GOAL)
https://www.goal.com/jp/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/US-journalist-dies-while-Worldcup-20221210/blte9119f586f5cad72
米の著名サッカー記者、カタールワールドカップの取材中に急逝…FIFA会長らが追悼(サッカーキング)
https://times.abema.tv/fifaworldcup/articles/-/10058138
カタールW杯で物議醸した米国人記者、試合中に心臓発作で急逝(フースバルJP)
https://fussball.jp/international/2022/12/223201.html