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インドネシアで婚外の性交渉が犯罪化され、同性間性交渉も禁止に

 インドネシア国会は12月6日、国内での結婚相手以外との性交渉を犯罪とする刑法改正案を可決しました。改正された法律は3年後に施行される予定で、婚外交渉をした場合、最長で1年の禁錮刑となります(インドネシアでは同性婚は認められていませんから、必然的に同性どうしの性交渉も違法となります)。この法律は、インドネシアに住む外国人や外国人観光客などにも適用されます。
 

 今回の刑法改正案は2019年にも提出されましたが、全国的な激しい抗議デモに発展し(「抱き合う権利のために街に出る」というプラカードが掲げられたそうです)、大統領は国民のフィードバックをさらに集めるために先送りを余儀なくされていました。しかし3年が経って、法案が再び国会に提出され、成立してしまいました。
 一連の改正案では、婚外交渉のほか、結婚していない男女の同居も禁じ(こちらは最長で禁錮6ヵ月が科せられます)、人工妊娠中絶に対する刑罰も強化され、不倫も禁錮刑になる可能性があります。ブルームバーグによると、LGBTQの権利を制限する規定も盛り込まれているそうです。
 インドネシア司法省報道官は、違反を報告できるのは両親、配偶者、子などで、法改正の影響は限られると主張していますが、外国人観光客などにも適用される以上、日本から旅行や出張で訪れたLGBTQが、宿泊先のホテルをはじめ、様々な場所で不自由な思いをしたり、場合によっては逮捕される可能性があります(例えば、未婚の男女の同居も禁止されますので、異性カップルに見えるトランスジェンダーとそのパートナーなども、未婚であれば、同じホテルの部屋に泊まれないでしょう。同性どうしの性交渉が見つかった場合、警察に突き出されるかもしれません)
 
 国内では人権に対する「大惨事」であり、観光や投資にも影響が出る可能性があるとして非難する声が上がっています。6日、首都ジャカルタの議会前では、主に若者のグループが抗議デモを行ないました。同日、ジョグジャカルタでも抗議デモが行なわれました(ジョグジャカルタはかつて、LGBTQの人の人権を保障し、差別や弾圧をなくすために全ての国家が遵守すべき国際法規の基準となる「ジョグジャカルタ原則」が採択された街です)。改正法は今後、法廷で争われると見込まれます。
 インドネシアの観光業界団体の幹部は、経済と観光が新型コロナウイルス禍から回復し始めているさなかに「完全に水を差す」ものだと述べています。
 ソン・キム駐インドネシア米国大使は、「インドネシアの投資環境に悪影響を与えかねないと懸念している」「外国からの投資や観光・旅行の減少につながる可能性が十分にある」と批判しました。
 人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのエレイン・ピアソン・アジア代表も「近代的なイスラム民主主義を掲げる国における大失態だ」としています。

 
 米大使館は12月2日、LGBTQの権利などについて協議する米国の特使ジェシカ・スターンさんのジャカルタ訪問日程がキャンセルされたことを明らかにしました。スターン特使は11月28日にフィリピンを訪問し政府関係者や民間の人権団体などとLGBTQに関する権利擁護について意見交換し、その後ベトナムを訪問し、12月7日にインドネシアを訪れて関係者と同様の協議を行なう予定でしたが、12月1日にインドネシアで最も権威があるとされる「インドネシア・ウラマ(イスラム教指導者)協会(MUI)」がスターン特使のインドネシア訪問に「私たちの国の文化的及び宗教的価値観を損なうことを計画している」と断固反対を表明し、事態が急転、このままでは特使の訪問中に不測の事態が発生することもありうるとの判断から、米側が訪問キャンセルを判断したものとみられています。MUIのアンワル・アッバス副議長はメディアに対して「同性愛行為は危険である」としたうえで「この行動が容認されれば男性と男性、女性と女性との結婚となり、それは繁殖することがない。ひいては人類の滅亡に繋がる可能性がある」とまで述べました(どこかの国の議員とそっくりな発言ですね…)。MUIは複数あるインドネシアのイスラム教団体で最も権威のある組織とされ、現職のマアルフ・アミン副大統領がMUI議長経験者でもあり、異論を唱えることが難しいそうです。
 インドネシア外務省はスターン特使の訪問に関して「日程の詳細を把握していない」とし、同性愛に関してはコメントを拒否しているそうです。

 今年5月には首都ジャカルタにある英国大使館がIDAHOBITに合わせてレインボーフラッグを掲揚したところ、猛烈な抗議活動が起こり、外務省も英大使館幹部を呼びだして抗議するという事態も起きています。外務省のトゥク・ファイザシャ報道官は、「LGBTの旗を掲げ、公開することは、英国大使館がインドネシアの文化を軽視していることを意味する。全ての外国公館はインドネシアの宗教的、文化的規範を尊重すべきだ」と述べたそうです。(じゃかるた新聞「LGBT旗の掲揚で 英国大使を抗議 外務省」より)
 
 インドネシアは世界最大のイスラム教国ですが、多民族・多宗教国家としてもともと多様性に寛容で、同性間性交渉も違法とされていませんでした。しかし、トルコのような世俗化(政教分離)が達成されていたわけでもなく、近年のイスラム強硬派の台頭の影響を受け、LGBTQに対する弾圧が強まってきました。
 これまで同性間性交渉は違法ではなかったものの、スマトラ北部のアチェ州という州だけが国内で唯一、シャリア(イスラム法)※が施行されていて、愛し合った男性二人が公開鞭打ち刑に処されるなどしていました。さすがにこれは残酷だとしてジョコ・ウィドド大統領も廃止を呼びかけていましたが、アチェ州民の強い支持で残存しています(大統領の意向を無視してまで鞭打ちを強く支持する州民…ただ同性と愛し合ったというだけでなぜそこまで憎まれなければいけないのでしょうか…)
 その他の州でも、同性愛者の集会、パーティ、討論会などにイスラム強硬派の集団が押し掛けて妨害したり、警察も取締りの対象として介入することが常態化し、首都ジャカルタで(同性間の性行為そのものは合法であるはずなのに)ゲイサウナが摘発され、そこにいた人々がたくさん逮捕されるという事案が度々発生してきました(外国人も含まれます)。女装した男性に消防の放水ホースで水を浴びせたり、一昨年にはトランス女性が焼き殺されるという痛ましい事件も起こりました…。 
 2016年には、LGBTQの法的保護を求めてジョグジャカルタで行なわれた平和的なパレードを警察が暴力的に弾圧し、人権団体が非難しました。
 BBC の報道によると、ウィドド大統領は、「寛容さやリベラルな価値観よりも、経済発展のレガシーに関心があり、イスラム強硬派が望むものを与えることに躊躇がない」とされています。今回の刑法改正で大統領への侮辱も禁止対象になり、大統領の強権化(独裁志向)も懸念されています。

※シャリアは、イスラム教の聖典コーランと預言者ムハンマドの言行録「ハディース」を基に作られたイスラム教の法律。シャリアをどのように現代社会に適用するかについては、世界中の保守派ムスリム(イスラム教徒)と進歩派ムスリムの間で論争の的となっています。不倫やレイプ、同性愛、窃盗、殺人などに対して鞭打ちや石打ち、死刑などの厳格な刑罰を科します。サウジアラビア、アフガニスタン、スーダン、パキスタン、ナイジェリアの一部、カタールなどでも適用されています(どこまで厳密に適用するかは、国によって異なります)(AFP「イスラム世界におけるシャリア、その解釈と適用」より)
 
 
 施行は3年後ですが、法律ができたことによって、社会的にLGBTQへのヘイトクライムや弾圧が公然と行なわれ、容認される可能性もあります。外国人だから安心というわけでもありません。
 もし御社で今後、社員の方のインドネシアへの出張・派遣を予定されている場合、十分ご注意ください。

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