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文科省の生徒指導提要改訂版に「性的マイノリティに関する課題と対応」が盛り込まれ、教職員のLGBTQへの理解促進の必要性が明記されました
文部科学省が12月6日、12年ぶりに改訂を行なった「生徒指導提要」の改訂版を公表し、新たに性的マイノリティの児童・生徒に関する課題と対応についてまとめた節が追加されたことがわかりました。
「生徒指導提要」は、小学校から高校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について時代の変化に即して網羅的にまとめ、教職員間や学校間で共通理解を図り、組織的・体系的な取組みを進められるようまとめた学校・教職員向けの基本書で、2010年に作成され、今回12年ぶりに改定が行なわれたものです。
生徒指導提要(改訂版)は、第I部と第II部で構成されており、第I部は、生徒指導の基本的な進め方として、生徒指導の定義・目的、生徒指導と教育課程の関係性、生徒指導を支える組織体制について解説、第II部は、生徒指導上の各課題ごとに章立てて解説しています。第II部第12章「性に関する課題」に今回、「性的マイノリティに関する課題と対応」という節が追加され、性的マイノリティの児童・生徒への無理解・偏見等をなくすよう教職員の理解促進の必要性が明記されました。
この節の内容をダイジェストでお伝えします。
初めに、“性同一性障害”に関する児童について「個別の事案に応じ、児童生徒の心情等に配慮した対応を行うことが求められています」とされ、LGBTや性的指向・性自認(SOGI)について解説されています(「LGBTのほかにも、身体的性、性的指向、性自認等の様々な次元の要素の組み合わせによって、多様な性的指向・性自認を持つ人々が存在します」と述べられています)
1項「性的マイノリティに関する理解と学校における対応」では、「性的マイノリティに関する大きな課題は、当事者が社会の中で偏見の目にさらされるなどの差別を受けてきたことです。少数派であるがために正常と思われず、場合によっては職場を追われることさえあります。このような性的指向などを理由とする差別的取扱いについては、現在では不当なことであるという認識が広がっていますが、いまだに偏見や差別が起きているのが現状です」と述べられ、いじめ防止対策推進法に基づく「いじめの防止等のための基本的な方針」に、「(LGBTQについての)教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知する」ことが盛り込まれていると説明、さらに「生徒指導の観点からも、児童生徒に対して日常の教育活動を通じて人権意識の醸成を図ることが大切」だとして、(1)いかなる理由でもいじめや差別を許さない適切な生徒指導・人権教育等を推進すること、(2)性的マイノリティとされる児童生徒には、自身のそうした状態を秘匿しておきたい場合があることなどを踏まえつつ、学校においては、日頃から児童生徒が相談しやすい環境を整えていくこと、(3)当該児童生徒の支援は、最初に相談を受けた者だけで抱え込むことなく、組織的に取り組むことが重要、(4)学校生活での各場面における支援の取組みの例(表で例示)という具体的な対応策が説明されています。
2項「性的マイノリティに関する学校外における連携・協働」では、当事者である児童生徒の保護者との関係、教育委員会等による支援、医療機関との連携、その他の留意点について述べられています。
(生徒指導提要(改訂版)の全文がこちらに掲載されています。全300ページのPDFですのでご注意ください)
生徒指導提要(改訂版)は、「複雑化するひとりひとりの背景、問題に寄り添い「個性の発見とよさや可能性の伸長、社会的資質・能力の発達」に資するものとなっており、子どもたちの命を守ることを最重要に、すべての子どもたちに対して学校が安心して楽しく通える魅力ある環境となるよう、学校関係者が一丸となって取り組むための指針を示すもの」で、性的マイノリティだけでなく、発達障害や精神疾患を持つ児童・生徒、支援を要する家庭状況、外国人の児童・生徒など、多様な背景を持つ児童・生徒への理解や対応策についても記されています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチがLGBT生徒へのインタビュー調査でいじめや排除の実態を明らかにしたり、書籍『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり』にも多くの事例が挙げられていたり、これまで、学校教育の現場で、先生がいじめる生徒と一緒になって「お前が男らしくないのが悪い」などと言ってしまったり、教職員の理解や支援的スタンスの欠如がいじめやSOGIハラを助長するケースが指摘されてきました。今回の生徒指導提要の改定で、教職員の理解促進の必要性が明記され、具体的にどう対応していけばよいかということについての指針も示されたのは、大きな意義があると言えます。学校でのLGBTQ児童・生徒へのいじめやSOGIハラがなくなっていくことを願います。
なお、現行の学習指導要領は「思春期になると、だれもが、遅かれ早かれ異性に惹かれる」という誤った(同性愛を無いものとした)記述のままになっており、2016年にこれを変えるよう求める運動も起こったのですが、残念ながら聞き入れていただけませんでした…ので、2026年の学習指導要領改定のタイミングで再び、性の多様性について授業で教えられるよう、求めていきましょう。今回の生徒指導提要の改定は、その前段階の重要な布石としての意義もあると言えそうです。
【追記】
LGBT法連合会が16日、声明を発表し、「性の多様性に関する課題と対応」という項目が新設されたこと自体は評価できるものの、その内容は、2015,2016年の文科省通知「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」の整理にとどまり、それ以降の医学的進歩や社会の動き、学校の取組みの進展が反映されておらず遺憾であるとしています。「アウティング」や「カミングアウト」といった学校現場における重要語句についての言及がないことなども指摘されています。詳細はこちらをご覧ください。
参考記事:
文科省、生徒指導提要を改訂(日本教育新聞)
https://www.kyoiku-press.com/post-251936/
生徒指導提要(改訂版)公表…多様化・複雑化する課題に対応(リシード)
https://reseed.resemom.jp/article/2022/12/07/5187.html