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スコットランドが性別変更に際して診断書も不要とする法改正を行ないました

 スコットランド議会は12月22日、法律上の性別変更の手続きを簡易化する法案を86対39の賛成多数で可決しました。この法案では、変更に必要なジェンダー認定証明書(GRC)の申請ができようになる年齢を16歳に引き下げるとともに、申請の際、性別違和の診断書が不要となり、自己申告での変更が可能となります。
 

 英国は2004年に性別変更に関する法律を制定した際、生殖不能要件に関する規定が盛り込まれず、性別適合手術は不要であるものの、医師などの専門家による性別違和の診断書の提出は必須でした(GRCの申請には、18歳以上であること、新たな性別で2年以上暮らしていることなどが条件づけられていました)。スコットランド政府は、このプロセスは押しつけがましく苦痛を伴うため、GRCの申請をためらう人がいると考え、新法案では、対象年齢の引き下げに加え、新たな性別での生活期間を3ヵ月に、16~17歳の場合は6ヵ月に短縮しました。一方で、申請を取りやめられる3ヵ月間の「熟考期間」を設けるほか、GRCのために虚偽の申告をした者には最長2年間の禁錮刑を科すという条項も含められています。同じ手続きを再度行なって性別を戻すことも可能です。

 2012年、アルゼンチンが世界で初めて診断書の提出を不要とし、欧州でもアイルランドやデンマーク、ノルウェー、ポルトガル、スイスなど9ヵ国がこれに続き、自己申告での性別変更手続きを可能にしています(「性別変更をめぐる諸外国の法制度」もご覧ください)。英国ではスコットランドが初めて、診断書の提出を不要としました。スコットランドは2020年、世界で初めて学校教育のカリキュラムにLGBTQの社会的課題について学ぶ授業を導入するなどしているLGBTQ先進国です。
 
 12月22日、議会で可決が発表されると、LGBTQ+Allyの歓声が響きました。一方、法案に反対する女性の権利活動家などは「恥を知れ!」と叫んだそうです。
 法案の支持者は、トランスジェンダーの人々の生活を楽にするための動きは長年遅れていると指摘し、この法案によってトランスジェンダーの人々が「誰もが受けるべき尊厳と認識を持って」生きられるとしています。当事者団体「スコティッシュ・トランス」のヴィク・ヴァレンタイン代表は、トランスジェンダーの人々が就職や結婚といった人生の重要な場面で「自分らしさを反映した」出生証明書を提示することができるようになると語りました。
 他方、J・K・ローリングを含む反対派の人々は、女性専用のサービスやスペース、法的保護に対する潜在的な影響が懸念される、攻撃的な男性が女性刑務所などの女性専用施設に入るために性別を変えようとする場合があるなどと述べ、こうした加害者から女性や少女を守るための保護措置が十分でないと主張しています。
 英政府は法案に懸念を示しており、各政府の決定を国王が個人的に承認する「国王裁可」を食い止めることで、スコットランドでの正式な法制化を阻止する可能性があるとしています。しかし、スコットランド自治政府はこれに強く反発しています。
 
 スコットランド議会での投票に先立ち、ショーナ・ロビソン社会正義担当相は、「トランスジェンダーの人々の権利と女性の権利は競合しない。差別の被害者を敵と思わず、味方だと思って行動することで、みんなのために前進できる」と述べました。
 ニコラ・スタージョン第一首相(スコットランド国民党)も、「この国で平等を縮小するのではなく広げていくことが悪いとは思わない、絶対に」と述べました。
 
 英国政府はスコットランドのこの動きに対し、法的対抗手段も辞さない構えです。 
 ケミ・ベイドノック女性・平等担当相は、「英国政府は現在スコットランド議会の議員に再考を促し、こうした問題に対処できるようにするための規定を検討している」とコメントしました。
 英国の法律では、スコットランドの法律が英国全体の平等法に抵触した場合、政府はその取消しを申請することができます。この権限は、これまで一度も使われたことがないそうです。
 スコットランド政府の報道官はこれに対し、「英国政府によるスコットランド議会の民主的意思を損なうあらゆる試みに、強力に対抗する」と述べました。
 

 『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』で詳細に述べられているように、英国は多くのメディアもトランスジェンダーの権利擁護に対して後ろ向きで(アンチ派の主張のほうを積極的に紹介)、性別変更や医師の診断にも大変な時間がかかるなど、様々な生きづらさに直面し、多くの当事者が苦しんでいます。
 今年3月31日(トランスジェンダー可視化の日)には英国政府がコンバージョンセラピー(転向療法)を禁止する法案を発表したものの、そこにトランスジェンダーのことが含まれておらず(前日にジェイミー・ウォリス議員が勇気あるカミングアウトを果たしたにもかかわらず)、LGBTQコミュニティから非難の声が上がり、国際会議のボイコットが起こりました。

 
 なお、同じ22日、スペインの国会(下院)は、身分証などに記載する法的な性別について、本人の申告に基づいて自由に変更できるようにする法案を採択しました。上院でも可決は確実な情勢で、数週間以内に成立する見通しです。
 スペインではこれまで、法的性別変更を行なうためには、性別違和の診断書と2年間のホルモン治療、裁判所による承認が必要、という条件が課されていました。法案は、これらの要件を撤廃し、16歳以上なら誰でも本人の申告で変更を認めるよう定めています。未成年でも、親の同意など特定の要件を満たせば、最年少で12歳から性別変更が可能になります。法案はさらに、コンバージョンセラピー(転向療法)を禁止することや、職場でのLGBTQへの差別の禁止も盛り込まれ、特に脆弱な状況に置かれているトランスジェンダー女性の社会統合を促す内容となっています。



 
 
参考記事:
スコットランド、性別変更手続きを簡易化 イギリス政府は懸念(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/64073056

性別変更自由化へ 本人の申告のみ、下院で法案可決―スペイン(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022122300756
性別変更、自己申告のみで可能に スペイン下院が法案可決(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3444573

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