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上司からミスジェンダリングなどの侮辱を受けたトランス女性社員がうつ病を発症し、SOGIハラとして労災認定を受けました
トランス女性の40代会社員が、勤務先の職場で性自認についての侮辱を受け、うつ病を発症したとして、神奈川県内の労働基準監督署から「SOGIハラ」に該当するとして労災認定されていたことが9日、明らかになりました。女性が加入する労働組合「プレカリアートユニオン」が明らかにしました。認定は6月30日付です。
この方(仮にAさんとします)は戸籍上の性別は男性ですが、性自認は女性です。2006年に神奈川県内の大手製造会社に就職し、2017年に職場でトランスジェンダーであることをカムアウトしました。Aさんが情報開示請求で入手した労災認定をめぐる調査書によると、会社側はAさんを女性として扱い、敬称を「さん」とするよう従業員に周知したそうです。その後、指導役だった上司との関係が悪化し、2018年4月、別の管理職を交えた話し合いの場で、Aさんが上司から「彼」と呼ばれたことに抗議すると、上司は「戸籍上の性別変更をしてから言いなさい」と発言しました。「女性らしく見られたいなら、こまやかな心遣いが必要」とも言われたそうです。この席で、上司はAさんのことを何度も「彼」と呼び、数日後の話し合いでも「くん」の敬称で5回呼んだといいます(このような、本人が自認する性を尊重せずにわざと違う性別のほうの代名詞などで呼んだりする行為をミスジェンダリングといい、当事者を苦しめる悪質な侮辱行為と見なされています)
Aさんはその後、体調を崩し、医療機関で睡眠障害やうつ病と診断され、2018年12月から休職しました。
労基署はこうした上司の発言を「性自認に関する侮辱的な言動。本人の人格を否定する精神的攻撃で、 執拗に行なわれた」と指摘し、Aさんに強い心理的な負荷がかかり、うつ病を発症したとして、労災認定しました。Aさんは2021年9月に復職しています。
読売新聞の取材に対してAさんは、性別違和に苦しみ、髪を伸ばしはじめたところ、上司から「髪を切れば」と言われ、苦痛になっていったということも明かしました。Aさんは「上司から暴言があったときは、存在をわかってもらえないことがつらく、その場で泣くほどだった。性自認は自分でコントロールできるものではなく、職場の理解が不可欠だ」と訴えました。
会社員の労災申請の代理人を務めた小野山静弁護士は、「長時間労働など他の要因がなく、SOGIハラのみで労災を認定した判断は評価できる」「職場での差別に悩む多くのLGBTQにとっての希望につながる」「今回の認定により、SOGIハラを含むハラスメント対策がさらに進むことを願う」と話しました。
会社員が勤める大手製造会社は「労災が認定されたことは重く受け止めている。同様の問題が起きないよう再発防止に取り組む」とコメントしています。
なお、こちらのニュースで、大阪府のトランス女性従業員が職場で侮辱を受け、働き続けることができなくなり、SOGIハラに該当するとして初の労災認定を受けたとお伝えしていましたが、これとほぼ同時期にAさんは神奈川の労基署に労災申請を行なっていました。今回、晴れて申請が認められて、本当によかったです。
トランスジェンダーに対する理解のない方、差別的言動をしてしまう方がいらっしゃるような職場では、今後も同様の問題が起こり得ます。労災の認定だけでなく、もし訴訟となれば、こちらのケースのように、損害賠償を支払わなくてはいけなくなります。
SOGIハラはすでに「パワハラ防止法」に盛り込まれ、あらゆる企業に適用されています。性的指向・性自認に関する侮辱や差別的言動、アウティングなどが起こらないよう防止策を講じることが措置義務となっています(つまり、全社的にLGBTQについて理解し、差別的言動やアウティングが起こらないようにするための研修などの施策を実施することが必須となっています)。すべての企業にとっての喫緊の課題であるということをご承知おきください。
参考記事:
トランスジェンダー社員に上司「戸籍の性別変更を」…「SOGIハラ」でうつ病、労災認定(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221108-OYT1T50284/
勤務先で「ソジハラ」労災認定 トランスジェンダーの40代うつ病に(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20221109/k00/00m/040/081000c