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トランスジェンダー国会が初開催され、当事者や有識者が法整備による生きづらさの解消を訴えました

 10月12日(水)、参議院議員会館の会議室でトランスジェンダー国会が初開催され、会場に入りきれないほど大勢の方たちが詰めかけました。当事者や有識者の方たちが、トランスジェンダーがおかれている現状やリアルな声を伝え、法整備の必要性を国会議員に訴えました。

 
 レインボー国会マリフォー国会に続くLGBTQの院内集会として初開催されたトランスジェンダー国会。当事者や有識者の方たちが、トランスジェンダーが直面している困難や社会的課題、法整備の必要性を国会議員の方たちに訴える場として設けられました。
 10月12日(水)11時、参議院議員会館の会議室には国会議員の方が約20名(代理出席を含めると約30名)、メディア関係者がざっと見たところ10〜20名、LGBTQ+Allyの一般の参加者の方たちが40〜50名ほども詰めかけ、会場に入りきれないくらいになっていました。そんな熱気のなか、主催団体「Transgender Japan」の浅沼智也さんが挨拶し、「コロナ禍での経済的困窮に加え、トランスジェンダーに対する誤った情報に基づく差別的な言説も増えています。トランスジェンダーが生きやすい社会になるよう、当事者の声を聞いてほしい」と語りました。
 
 国会議員の方々の挨拶に続き(重度障がい者であるれいわ新選組の木村英子議員も「マイノリティが生きやすい社会に」と語っていました。社民党党首の福島瑞穂議員は唯一、刑務所に収監されたトランスジェンダーが直面する困難にも言及していました)、LGBT法連合会の五十嵐ゆりさんがベースとなるようなお話をしました。日本学術会議が2020年に性同一性障害特例法の廃止と「性別記載変更法」の制定(医学モデルから人権モデルへ)を提言したこと、LGBT法連合会でも当事者が直面する社会的困難のリストを作成しており、就職活動で内定が決まったがトランスジェンダーであることをカムアウトしたところ取り消された、ハローワークで「あなたに紹介できる仕事はない」と言われた、性暴力に遭った、といった枚挙にいとまがないほどたくさんの事例があること、また、性同一性障害特例法改正への意見調査を当事者に実施しており、手術要件、子なし要件、非婚要件いずれも95%〜100%で撤廃に賛成という結果が出ていることなどを紹介しました。
 
 続いて、司会も務めた国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の土井香苗さんのお話。同団体では2019年、約50名のトランスジェンダーにヒアリングし、その結果をまとめた報告書を作成しています。当事者の子どもたちが、将来手術を受けなければ未来がないと恐怖を感じていること、性同一性障害特例法が今は実態に合わないものになっていること、健康上の被害、海外でのヘイトクライムのことなどを紹介し、「法律の制定は議員にしかできません」として差別禁止法の制定や特例法の改正を訴えました。

 続いて、静岡大・笹沼弘志教授(憲法学)が登壇し、特例法と憲法の関係について語りました。笹沼氏は2019年の手術要件をめぐる最高裁判断における「憲法違反の疑い」との補足意見や、2021年の子なし要件をめぐる最高裁判断における宇賀克也裁判官の違憲だとする見解などにも触れながら、「生物学な性別によって男女が決まるなどということは憲法には書いていない。性別二元論はフィクションだ」として、国が性別の自己決定権を認めないのは憲法13条(幸福追求権)に違反していると訴えました。また、トランスジェンダーは特権を求めているのではなく、制度的に作られている障壁(シスジェンダーによる特権)をなくし、自認する性で生きるという人間としての基本的な権利を求めているのだと強調しました。

 浜松TG研究会の鈴木げんさんは、卵巣摘出を望んでいないトランス男性として、戸籍が女性なのは不便で、病院などで身分証と見た目との違いを追及される困難を避けて人里離れた山間部に住んでいる、何よりも死亡届に”女”と書かれるのが苦痛である、本来は自分で決められるはずなのに若いトランスの子たちは手術前提の人生設計を余儀なくされている、といったリアルな声を届けてくれました。げんさんは手術を受けなくても戸籍の性別を変更できるよう裁判も起こしています。

 大阪公立大学の東優子教授(ジェンダー/性科学)は、ご自身がその翻訳にも携わっているWPATH(世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会)の活動を紹介。トランスジェンダーや多様なジェンダーの人々の健康のためのケア基準である「SOC(Standard of care)」の最新版がこの9月に公開され、ノンバイナリーなど多様性に注目したTGD(トランスジェンダー・アンド・ジェンダーダイバース・ピープル」という新たな呼び名が提唱されたそうです。また、性同一性障害特例法の5つの要件は「ただちに改正が必要」であり、特に断種の強制は人権侵害である、国際的コンセンサスから逸脱している、といった内容の書簡を日本政府(法務大臣と厚生労働大臣)に対して送っているそうです。「ハードルが高い、厳しいから緩めよう、ではなく、なんびとも差別されてはいけないからです」という言葉が印象的でした。

 映画『Coming Out Story』でもフィーチャーされていた京都の高校の先生、土肥いつきさんは、自らが主催する「トランスジェンダー生徒交流会」で小学生やその保護者から寄せられたリアルな声を紹介しました。周囲がダメだというから「大きくなるまでは男の子のフリをして生きようと思った」という小学校1年のトランス女子、自認する性別で学校に通えないので「小学校に行きたくない」という児童、性別を常に突きつけられて困っているという声、トランスジェンダーであることでいじめにあい、他の自治体への引越しを余儀なくされたケース、スイミングスクールに通いたいけど更衣室の問題で利用できないつらさ。小学校4年のトランスジェンダーの子を持つ親御さんが、第二次性徴抑制剤によって我が子の苦痛を軽減してあげたいと思ったものの、保険適用外であるため、毎月2〜3万円もかかるので苦しいという声もありました。「背後にもっとたくさんの思いがあると思います。この交流会ではみんな笑顔ですが、どこでも笑顔で生きられる社会にしていきたい」と土肥さんは語りました。

 それから、青山学院大学のエリン・マクレディ教授のビデオメッセージが上映されました。彼女は長年日本で暮らし、20年前に女性と結婚し、母国で性別変更したトランス女性で、日本で性別変更か婚姻解消かを迫られ、葛藤の末、裁判を起こしています。エリンさんは現在、仕事の関係でベルリンにいて、裁判はあまり進んでいないそうですが、もしうまくいけば非婚要件が撤廃されることにつながるでしょう、と語りました。

 GID学会理事長の中塚幹也岡山大教授もオンラインで登壇し、ICD-11の発効を受けて、今後は性同一性障害ではなく性別不合(予定)として、GID学会と共同で新たなガイドラインが策定される予定であるということ(医療モデルから生活モデルへ)、一方で医療へのアクセスを保証することも大事で、手術への保険適用は認められたもののホルモン治療は自費で、混合診療を認めないという国の方針であるため実質的に保険適用で手術を受けることができない現状は問題であるということ、GID学会では子なし要件や手術要件の撤廃を求めていることなどを語りました。
 
 杉山文野さんは、500名の当事者へのアンケートの結果を紹介しながら、特例法の子なし要件について、子どものせいで自分らしくあれない方もいて家庭不和の原因にもなっている、自分もパパとして子育てをしているが戸籍上養母なのでかえって混乱させてしまうということ、子どもにとって親は親であり、子の福祉の観点からも撤廃が必要だと述べました。また、手術要件についても、自分が体さえ切れば戸籍性を変えられる…という強迫観念に苛まれて手術を受けてしまう人も少なくないということ、パートナーの親御さんに手術を受けて戸籍性を変えたら結婚を認めると言われた(手術かパートナーかを迫られた)経験、自殺未遂した方のこと、リスクを冒して自費で手術を受けることの不条理、当事者だけでなく周りの人たちをも苦しめていることなどを挙げながら、早急に制度の見直しを、と訴えました。 
 
 ありえないデモ呼びかけ人の頼(たのみ)さんは、男女以外の性別を排除しないでほしい、戸籍も性別を特定しない書き方が認められてほしい、といったノンバイナリーの方たちの声を中心に、当事者のリアルな声を紹介してくださいました。
 
 最後に、主催団体「Transgender Japan」の畑野とまとさんが、多くの方々が集まってくれたことに感謝しながら、「日本は優生保護法などで過去にも失敗してきました。科学的な見地から人権国家を目指してほしいです」と語りました。

 
 

関連のメディア報道:
“トランスジェンダー国会”戸籍上の性別変えるため体にメスを…「生殖機能失わないと性別変更できない」性同一性障害の特例法 見直し求め訴え(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/177304
「トランスジェンダー国会」初開催 当事者が国会議員に訴えた、法整備が進まない生きづらさ(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/207795
「当事者の声を聞いて」トランスジェンダー国会が初開催(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20221012-00319254

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