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Xジェンダーの方が女性向けのメンズ仕立てスーツのブランドを設立しました
FTX(Xジェンダー)と自認する田中史緒里さんが、「成人式や結婚式で女性が着れるメンズスーツが存在しない」「大切な日だからこそ、心から自分らしいと思えるファッションで過ごしたい」という思いから、オーダースーツのアパレルブランド「keuzes(クーゼス)」を設立したことが報じられています。
田中史緒里さんは高校2年生の頃に「成人式で振袖は着たくない…」と考えていました。レディーススーツはシルエットが強調されるイメージがあり、女性が着れるメンズスーツについてネットで調べてみて、紳士服販売チェーンの「洋服の青山」や「AOKI」に行けば買えることを知りましたが、当時、茨城の田舎に住んでいた田中さんは、「もし知り合いに会ったら…」「メンズスーツが欲しいと言ったら、店員にどう思われるのだろうか…」とためらってしまい、成人式に出席すること自体をあきらめたといいます。
20歳の頃に友人が結婚式に招待してくれて、そこでまたスーツを探さなくてはいけないタイミングがきました。しかたなく、セットアップのような洋服を買って参加しましたが、これからも服装で悩まなくてはいけないのか…という複雑な気持ちになり、その結婚式の後、同じ悩みを持つ友人に相談されたことをきっかけに「クーゼス」の立ち上げを決めました。
「今でも自分自身と向き合い、100%自分を理解できているかと言われると難しい部分もあります」と語る田中さん。幼少期から違和を感じることはあったものの向き合うことをしてこなかった、自身のジェンダーアイデンティティを受け入れられるようになったのは上京した18歳の時だったといいます。初めて就職した会社に当事者の方が数名いて、その同僚との出会いが転機になったそうです。
田中さんは過去にアパレル業界で働いた経験もなく、全くの未経験だったにもかかわらず、スーツ選びに悩む友人が周りに何人もいたことから、「自分で始めたほうが早いのでは?」と思い、2020年12月、25歳のときに「クーゼス」を設立。ひとりひとりのスタイルや希望に合わせてカスタマイズした、女性体型に合うメンズ仕立てのオーダースーツを展開しはじめました。
「事業を始める前は、メンズのスーツをただ小さくすればいいだけだと思っていたので、正直簡単だと思っていました。でも、スーツを作るには特殊技術が必要で、一般的なアパレルの生産工場では製造できない。さらにスーツ工場はメンズとレディースで分かれているという状況。女性に向けたメンズスーツは技術的に実現できないことを知り、現実の厳しさを痛感しました。でも、諦めずに片っ端からスーツ工場に電話をかけた結果、1社だけ『どうしてやりたいの?』と耳を傾けてくれた担当者が。どうしてこのスーツが必要なのか理由を説明すると、唯一その工場がこちらの想いに寄り添って考えてくれました」
「クーゼス」は店舗を持たず、代表の田中さん自ら全国の顧客の元へ足を運ぶスタイルで採寸を行なっているそうです。
「クーゼスがなければ出会えなかった同じ悩みを持つ人たちと話せる機会なので、顧客とスタッフという関係で終わらせたくない。毎回友達になって帰ってくるつもりで、自分のことも積極的に話すように心がけています。採寸には、親御さんが付き添う場合もあるし、お客さんの実家で行なうことも。なかには自分の子どもしか当事者を見たことがなく、戸惑いがあったと言うご家族もいらっしゃいましたが、お話ししていくうちに考え方が変わったと言ってもらえることも。スーツだけではなく、その方の人生に関われる喜びも徐々に増えています。性別で着用するスーツが違う、という考えがまだあるなかで、少しずつお客さんと一緒に服装に対する考え方を変えていっているな、という感覚があります」
仕事着としてスーツを注文してくれたお客様の中には、職場の男性に「女性なのになんでメンズスーツを着ているの?」と言われた方もいるそうです。普段着であればボーイッシュな服を着ていても友人や家族から何か言われることもありませんが、成人式や結婚式、就活や職場となると、服装マナーが性別で分けられているという現実があります。しかし、田中さんの取組みによって今後、自分らしい服装ができる方、周囲でそれを受け入れてくれる方が増えていき、世間の服装マナー自体が変化していく可能性を感じさせます。
「クーゼスのスーツを着た人の写真やSNSの投稿を見て、『わたしもこういう服装をしてもいいんだって思えた』と言ってくれる方もいらっしゃることが、会社を立ち上げてよかったなと思う理由のひとつです」
女性は皆、かわいらしい服装をしたいとか、成人式で晴れ着を着たいとか、女性的なボディラインを強調した服を着たいというわけではなく、メンズのスーツを着たい方も結構たくさんいらっしゃるというお話に、目からウロコのような思いを抱いた方も多いのではないでしょうか。
田中さんの取組みは、男性はこういう服装が好き、女性はこういう服装が好き、という思い込みをやめて、現状の硬直的な服装規範をよりインクルーシブに考え直すための機会として、たいへん貴重な実践だと言えます。
参考記事:
女性向けメンズ仕立てのスーツで多様なジェンダーを発信。「クーゼス」代表田中史緒里さんにインタビュー(ELLE GIRL)
https://www.ellegirl.jp/career/g37672378/founder-interview-shiori-tanaka-21-0924/
ジェンダー平等の実現と乖離した日本の服装文化…女性向けのメンズ仕立てスーツを作るワケ「スーツに性別は必要ない」(エルザ)
https://beauty.oricon.co.jp/special/101295/