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F1のセバスチャン・ベッテルとルイス・ハミルトンがハンガリーの反LGBTQ法に抗議しました
2010年〜2013年、4年連続でF1ワールドチャンピオンに輝き、F1において数々の最年少記録を樹立しているドイツのレーサー、セバスチャン・ベッテルが、F1ハンガリーGPの決勝前の国歌斉唱時に『Same Love』というメッセージが書かれたレインボーカラーのTシャツを着用し、ハンガリーの反LGBTQ法への抗議の意を示しました。
レース前セレモニーに関する一連の手続きを定めた文書で、「『持続可能性、多様性と包括性…』とのアナウンスが終わった後、ドライバーはTシャツを脱ぎ、レーススーツを着て国歌斉唱のネームカードの位置に移動すること」と規定されていましたが、ベッテルは「SAME LOVE」のメッセージが描かれたレインボーカラーのストライプ柄のTシャツ(これに同じデザインのマスクを合わせていました)を脱がずに国歌斉唱に臨み、叱責処分を受けました。
レース後、ベッテルは「失格になっても構わない。僕は気にしないし、また同じことをする」と語りました。
ベッテルは6月中旬にハンガリーで成立した反LGBTQ法への抗議の意思を表明し、LGBTQコミュニティへの支援として、Tシャツだけでなく、ヘルメット、レーシングシューズ、マスクにもレインボカラーをアレンジしていました。そして、「もちろん、法律を作るのは僕たちではない。でも、その法律の影響を受けている人たちへの支持を表明するだけでもやる価値はあると思うんだ」と語っていました。
2020年のF1世界選手権を制し、ミハエル・シューマッハと並ぶ史上最多7度目のF1ワールドチャンピオンに輝いた英国のレーサー、ルイス・ハミルトンは、ベッテルの行動を「素晴らしいことだし誇りに思う」と称えました。
「セブが今週末、LGBTQコミュニティのために声を上げ、このようなスタンスをとったことは素晴らしいと思う」
「今週末の初めに僕はそのことについて話した。彼がそうすることは重要だと思うし、それほど大きな問題にはならないだろう」
「僕たちは自分たちの立場を示さないといけない。僕たちは多様性と包括性を推し進めようとしているけど、LGBTQコミュニティも100%その中に入っている。彼のしたことを誇りに思う」
「LGBTQコミュニティをサポートするためにどの色のシャツを着ることができるかを謳った規則はない。そんなのナンセンスだ。よくやった、セブ。次回は同じシャツを一緒に着るよ」
ルイス・ハミルトンはハンガリーGPの開幕を翌日に控えた7月29日、ハンガリーの反LGBTQ法を批判し、Instagramに以下のようなコメントを掲載していました。
「美しき国、ハンガリーのすべての人々へ
今週末のグランプリを前に、政府の反LGBTQ+法の影響を受けている人々を支援する意向を伝えたい。
権力者がこうした法律を提出することは容認できないばかりか卑怯で見当違いだ。誰を愛し、どのようなアイデンティティを持っていようとも、誰もが自分らしく生きる自由を持つべきだ。
僕はハンガリーの人々に対して、LGBTQ+コミュニティの権利を守るために、今度の国民投票で投票する事を強く促したいと思う。彼らはこれまで以上に僕らのサポートを必要としている。
愛は常に勝る。どうか周りの人たちに愛を示してほしい。ポジティブな気持ちを送る。#lgbtq」
しかし、F1レースディレクターのマイケル・マシは、ベッテルのTシャツは明らかにルール違反であると述べました。
「今年初め、FIA(国際自動車連盟)とF1との内部協議の結果、国歌斉唱の間、ドライバーはレーシングオーバーオールのみを着用する必要があることを明白にした」
「このような起こったのはこれが初めてだ」
F1-Gateの記事では、「今、F1がなぜそのような動きをしたのかが明らかになりつつある。結果として政治的嵐を避けるためだ」と指摘されています。
ハンガリーの与党フィデスの欧州議会議員であるタマーシュ・ドイツは、ソーシャルメディアでベッテルを揶揄し、「ドイツ人は常に現在の傾向に従ってスポーツイベントで政治的に正しいシンボルを使用するのが得意だ」と投稿し、1936年の悪名高い五輪のナチス式敬礼の写真を添えたといいます(最悪…)。「すべてが微妙で、文化的で、ヨーロッパ的だ。知っている人は理解するだろう」
ちなみにF1は昨年、新型コロナウイルスを根絶するための団結、そして世界的な差別をなくすためのメッセージとして「We Race As One(我々はひとつになってレースを戦う)」というキャンペーンを展開し、素晴らしいことに、レインボーカラー、トランスジェンダーカラー、人種的マイノリティのカラーを合わせたプログレス・プライド・カラーをシンボルカラーに採用し、セーフティカーやコースサイドの看板もそのように描かれていました(こちらの記事をご覧ください)
しかし、今年初め、F1は声明で「今シーズン、レインボーは#WeRaceAsOneのプラットフォームと一緒には機能しないことになる」と述べ、レインボーカラーが外されました。声明では「新型コロナウイルスのパンデミックについては、まだ戦いが進行しているところだ。我々は環境、社会、コーポレートガバナンス戦略の3つの中心となる部分に、プラットフォームを集中させる」「その柱は、持続可能性、多様性と包括性、そしてコミュニティである。これらの分野は、既に進歩を見ることができるこのスポーツの優先事項だ。しかし今後数ヵ月から数年のうちに、それについてより注力することになるだろう」と述べられましたが、多様性と包括性を掲げながら、なぜ性の多様性のシンボルであるレインボーを外すのか、明確な説明はありませんでした。
今年、ハンガリーでGPが開催されるにあたり、アンチLGBTQのオルバン政権に忖度し、このような措置をとったのでは…との疑いが持たれそうです。
F1では数少ない黒人のドライバーであるルイス・ハミルトンは、モータースポーツの多様性欠如について検討する「ハミルトン・コミッション」を立ち上げ、英国内のマイノリティグループの若者を支援する慈善団体「Mission 44」を設立し、2,000万ポンド(約30億4,400万円)を投じています。
セバスチャン・ベッテルも、2020年のトルコGPでもレインボーカラーの「ダイバーシティ・ヘルメット」を使用し(この時は特にコメントはありませんでしたが、LGBTQの弾圧に傾いているトルコ政府への意思表示だったのではないかと受け止められています)、のちにそのヘルメットをチャリティ・オークションにかけています(収益はアフリカの子どもを支援する団体に寄付されました)
こうした有力なレーサーの活動が、モータースポーツ界におけるマイノリティ支援の動きの推進力となってきたのは素晴らしいことです。いずれはF1も、五輪憲章のようにLGBTQ差別禁止を明確にできるよう、歩みを進めていくことを期待します。
参考記事:
セバスチャン・ベッテル、失格覚悟で“反LGBT法”抗議Tシャツを着用(F1-Gate)
https://f1-gate.com/vettel/f1_63901.html
反LGBTQ法に反対のベッテル、国歌斉唱中のTシャツ着用で叱責処分「失格になったって構うもんか」他4名も叱責(FORMULA-DATA)
https://formula1-data.com/article/sebastian-vettel-wearing-anti-lgbtq-t-shirt-reprimanded
ルイス・ハミルトン、F1ハンガリーGPを前に同国の”卑怯”な反LGBTQ法を批判(FORMULA-DATA)
https://formula1-data.com/article/hamilton-criticises-anti-lgbtq-laws-ahead-of-f1-hungarian-gp
ハミルトン、LGBTQ+への支持表明したベッテルを称賛「素晴らしいことだし誇りに思う」(motorsport)
https://jp.motorsport.com/f1/news/hamilton-proud-of-vettel-for-f1-stand-with-same-love-t-shirt/6642237/
F1、持続可能性と多様性を推進すべく……We Race As Oneを今年も継続。”虹”イメージは使用せず(motorsport)
https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-drops-rainbow-branding-in-updated-we-race-as-one-initiative/5378237/