NEWS
うつや発達障害があるLGBTQも安心して利用できる就労移行支援事業所が開設へ
認定NPO法人ReBitが、うつや発達障害があるLGBTQの求職活動に関する調査を実施し、困難の実態を把握するとともに、8月に日本初となるLGBTフレンドリーな就労移行支援事業所(障害がある人の就職を支援する福祉サービス)の開設を目指します。
ReBitの代表であるトランス男性の藥師実芳さんは、自身も発達障害(ADHD)を抱える当事者として、前職でADHD特有のミスや、トランスジェンダーであることによるハラスメントが重なり、メンタル不調になった際、「ああ、相談できる人も場もない」と感じたと語っています。自身の苦労だけでなく、LGBTQと精神・発達障害という複合的なマイノリティであるがゆえに求職時にハラスメントを受けたり、やっとの思いでつながった福祉サービスが安全に利用できなかったりしたことで、絶望し、亡くなった仲間もいて、コロナ禍でそうした困難や困窮の状態がどんどん加速していくことを肌身で感じ、今回の就労移行支援事業所の設立に踏み出したそうです。
◆精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査
ReBitは2021年5月1日~23日に「精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査」を実施。調査はインターネットで実施し、260名が回答しました(うち有効回答206名)
<目的と意義>
LGBTQは差別的な社会の状況などの影響でメンタルヘルスが悪化しやすいことがわかっています。「LGBTに関する職場環境アンケート2015」(虹色ダイバーシティと国際基督教大学ジェンダー研究センターの共同研究)によると、LGBの25%、Tの35%がうつを経験しています。一方で、精神・発達障害があるLGBTQは、性のあり方を安心して相談できる場が少ないがゆえに、困り事の根幹にあることを相談できなかったり、働く上での不安がさらに大きくなったり、医療・福祉へのアクセスに障壁が生じてしまうこともあります。
この調査は、精神・発達障害があるLGBTQの求職活動の現状を明らかにすることで、職場や行政・福祉サービスなどでの支援体制が改善されるための一助となることを願って実施したものです。
<結果速報>
調査結果から見えてきた、精神・発達障害があるLGBTQが求職時に抱える不安や困難を5つのポイントにまとめました。
1)求職時、性的マイノリティかつ障害があることに由来した不安や困難が多い
精神・発達障害があるLGBTQの92.5%が、求職活動やキャリア形成について、性のあり方や障害に由来した不安や困難を経験していました。「各企業に性のあり方や障害への理解や、安全に働ける環境があるかわからず不安だった(54.5%)」「性的マイノリティかつ障害がある社会人のロールモデルがいなかった、もしくは少なく不安だった(53.5%)」「性のあり方と障害の両方を開示し、相談できる人・場がなかった、もしくは少なかった(50.8%)」「性的マイノリティかつ障害があるため、差別的言動やハラスメントを受けるかもしれないと不安だった(43.9%)」「求職活動で性のあり方と障害の両方を伝えたら、合否に影響するかもしれないと不安だった(38.0%)」などが上位に挙げられました。
LGBTQであること、精神・発達障害があることの個別の困難に加え、インターセクショナリティ(交差性)により求職活動における不安・困難が多層化している様子が窺えます。
2)面接など選考時の、困難やハラスメント経験が多い
精神・発達障害があるLGBTQの88.2%が、面接などの選考時に、性的マイノリティや障害に由来した困難やハラスメントを経験していました。
「選考時に、性のあり方を伝えられなかった・隠さなくてはならず困った(32.1%)」「人事や面接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言を受けた(23.5%)」「性のあり方に関連し、職場での不安や望む対応を、人事等に伝えられず困った(21.4%)」などが挙げられました。
3)応募企業に性的マイノリティであることや障害があることを伝えていない
精神・発達障害があるLGBTQの72.8%が「性的マイノリティと障害の両方を開示し、応募した企業はない」と回答しました。
言えない背景として、「伝えたら、採用結果へ悪い影響があるかもしれないと思った(55.4%)」「伝えたら、差別やハラスメントを受けるかもしれないと思った(54.5%)」などが挙げられました。
4)性的マイノリティかつ障害があることを開示してキャリア相談することが難しい
精神・発達障害があるLGBTQの72.2%が、「求職時、性のあり方も障害も両方を開示してキャリアについて相談した経験がない」と回答しました。特に、福祉関係者、ハローワーク等の公共の相談窓口、ケースワーカー等の行政職員の公的な支援サービスに、両方を開示して相談した回答者は、わずか11.8%でした。
相談しなかった理由として、「どこに相談をしたらいいかわからなかった(56.0%)」「開示したら、求職活動を進める上で不利になるかもしれないと思った(50.7%)」「開示したら、差別的言動やハラスメントを受けるかもしれないと思った(44.0%)」など、安心して相談できる場所の不足や、相談した結果が差別やハラスメントにつながることへの恐れが挙げられました。
5)行政・福祉サービスが利用しづらい
障害や就労に関する行政・福祉サービスの利用経験があるLGBTQのうち76.8%が、行政・福祉サービス利用における不安や困難を経験していました。「性的マイノリティであることに関連し、どこだったら安心して利用できるかわからなかった(48.4%)」「性的マイノリティであることを伝えたら、利用を断られたり、不利な対応やハラスメントを受けるかもしれないと思った(30.5%)」「支援者・職員が、性的マイノリティに関する知識や理解がなくて困った(29.0%)」「利用者から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言を受けた(31.7%)」など、安心して利用できる行政・福祉サービスがわからない、性的指向や性自認を伝えたら利用を断られるのではないかといった利用に関する不安や、支援者・職員や他利用者の無理解や否定的言動が挙げられました。
(アンケート結果の詳細は、こちらの記事をご覧ください)
<全体考察 ~複合的マイノリティのキャリア形成と支援における課題と今後に向けて~>
1)精神・発達障害があるLGBTQは、求職時における困難が多いが、相談しづらいことからも可視化しづらい現状があります。
精神・発達障害があるLGBTQは、求職時における不安・困難を経験する割合が高く、インターセクショナリティ(交差性)により、その不安・困難がより多層化している様子が窺えました。一方で、差別等を恐れ、当事者の多くが、キャリア相談において性的マイノリティであることや障害があることを伝えることができず、そもそも相談先につながれていない状況があります。当事者が自身の存在や困り事を「言えない」、社会的に「いないこと」とされないよう、調査等を通じた支援ニーズや現状の把握を継続的に可視化し、社会で議論を深めていく必要があると考えられます。
2)精神・発達障害があるLGBTQの困難解消には、企業や支援職への理解促進や支援体制構築が必要です。
困難解消のために、人事・面接官の理解促進や職場環境整備の促進など、企業の取組みは重要です。また、障害や就労に関する行政・福祉サービスの利用における困難の経験が高く、LGBTQが社会のセーフティーネットからこぼれ落ちてしまっているという現状が浮き彫りになったことから、行政・支援職の理解促進や連携を通じ、LGBTQも行政・福祉サービスを安心して利用できる体制の構築が喫緊の課題と言えます。
◆LGBTQなども安心して利用できる就労移行支援事業所『ダイバーシティキャリア』の開設に向けて
調査で浮き彫りになった精神・発達障害があるLGBTQの困難の現状に鑑み、また支援を求める当事者の声に応え、ReBitは、LGBTQなども安心して利用できる就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリア」の開所を目指しています。
就労移行支援事業所とは、障害や疾患がある人の就職・定着支援を目的として行われる障害福祉サービスの一つです。キャリア形成に関する講座の受講や、コミュニケーションやパソコンスキル等のビジネススキルの向上、面接練習や履歴書添削などの就職支援を受けることができます。
『ダイバーシティキャリア』では、これまで3500名を超えるLGBTQなどマイノリティへのキャリア支援を提供してきたReBitのノウハウを活かし、誰もが自分らしい生き方・働き方を探せるよう、一人ひとりの就職に伴走します。
<概要>
ダイバーシティキャリア
場所:東京都新宿区新宿1丁目
開所:2021年8月(予定)
時間:平日9:00~18:00(訓練時間は10:00~15:00)
主な対象:精神・発達障害、後天性免疫不全症候群(HIV)など、障害や疾患がある方。障害以外もマイノリティ性がある「複合的マイノリティ」の方も歓迎です。(定員20名)
※障害者総合支援法に基づく就労支援事業のひとつで、約9割の人が無料で利用しているサービスです
※設立に向けたクラウドファンディングを現在、実施中です
◆オンライン報告会
ReBit代表理事の藥師実芳さんによる調査報告、ダイバーシティキャリアのサービス管理責任者による事業所の説明を行なうオンライン報告会が開催されます。
日時:7月10日(土)19時~20時
配信:認定NPO法人ReBitのYouTubeチャンネル
参考記事:
【調査速報】精神・発達障害があるLGBTQの92%が求職活動で困難を経験。また、76%が行政・福祉サービス利用における困難を経験。企業や支援職への理解促進や支援体制構築を求める声も。(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=000000016.000047512