NEWS

　日本で結婚した後に性別変更したアメリカ人トランス女性が21日、在留カードは女性なのに、日本では「住民票の性別を男性のままにする」か、「女性に変更するなら妻の続柄を「縁故者」にする」と言われたことを受け、国や目黒区、大田区を相手取り、計220万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。
　同性婚をめぐっては、今年3月に札幌地裁で「同性婚を認めないのは違憲」との判断が出されており、今回の裁判も新たな「同性婚訴訟」として注目を集めることになりそうです。

　
　提訴したのは、青山学院大学英文科教授のエリン・マクレディさんとパートナーのマクレディ・緑さん。お二人は2000年に日本で法律婚し、3人の子どもを育てているカップルです。エリンさんは性別違和を覚え、2018年に国籍のあるアメリカの裁判所で性別と氏名を変更し、現在、パスポートや在留カードには女性と記載されています。
　しかし、その後、エリンさんが当時住んでいた目黒区で住民票の性別変更を申請したところ、性別を女性に変更するかわりに緑さんとの続柄を「縁故者」にするとの申入れをされ、お二人はこれを拒否しました（続柄は今も「夫」のままです）
　2019年5月には、総務省や法務省、目黒区に対して適切な対応を求めて申入れを行ないましたが、回答はありませんでした。お二人は転居先の大田区でも今年3月、同様の申請をしましたが、受け入れられず、現在、住民票は「男性」のままになっています。
　代理人である山下敏雅弁護士によると、こうした目黒区や大田区の対応は、現行法では認められていない同性婚を国が避けたためと推測されます。
　
　エリンさんと緑さんは提訴後に霞が関の司法記者クラブで会見を開きました。
　エリンさんは、提訴の理由を次のように語りました。
「私が性別変更してからも、家族や職場の方々はみんながサポートしてくれていています。私たちのような家族はたくさんいます。政府が私たちを家族と認めてくれない理由は何でしょうか、全く理解できません。日本政府は家族に関する考え方を改める必要があると思います。
　また、政府は多くの人たちが反対している東京五輪を開催しようとしていますが、五輪憲章には多様性を認めるということが書かれています。それを無視して、政府が私たちのような家族を潰そうとしていることは理解できません。この裁判でそうした現状が変わればうれしいです」
　緑さんは、「ありのままの自分で生きられる社会を」と語りました。

　訴状などによると、エリンさんが国籍のあるアメリカの裁判所命令によって性別変更が認められたことは「日本でも効力を発揮する」もので、住民票の性別が変更されないことは、憲法13条が保障する人格権を著しく侵害しています。
　また、目黒区がエリンさんと緑さんの住民票の続柄を「縁故者」にするようエリンさんに求めたことは、憲法24条1項が保障する「適法に成立した婚姻関係に対し公権力から不当な干渉を受けない」という二人の利益を侵害するものです。国に対しても、目黒区に対して適切な指導を行わなかったことは、憲法に違反するなどとしています。

　山下弁護士は、「民法上、お二人は法律婚している状態にも関わらず、住民票で認められないのはおかしい」と指摘。「人格の根幹に関わるため、国は場当たり的な対応をやめるべきです。自分らしい性別で生きていくことの大切さを考えてもらいたい」「札幌地裁では違憲判決が出ており、世論も同性婚に賛成が5割を超えています。おふたりはすでに20年以上、結婚している状態であり、実態に合わせなければならない。婚姻とは何か、同性婚はなぜダメなのか。裁判所にはきちんとした判断を出していただきたいです」と語りました。



参考記事：
米で性別変更 日本で住民票の性別変更認められず 女性が提訴（NHK）
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210621/k10013096021000.html
女性に性別変えた米国人　妻の続き柄は「縁故者」に？（朝日新聞）
https://www.asahi.com/articles/ASP6P6G0SP6PUTIL05D.html
アメリカで性別変更も住民票の変更認められず　トランス女性が国などを提訴（ハフポスト日本版）
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60d06465e4b0876cc93fd87c
米国人のトランス女性と日本人女性が「同性婚訴訟」、結婚しているのに性別変更認めないのは「違憲」（弁護士ドットコムニュース）
https://www.bengo4.com/c_18/n_13203/