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LGBT新法が提出されることなく今国会が閉会、与党議員による差別発言は放置されたまま――内外から批判の声が上がり続けています
6月16日、「LGBT差別は許されない」という文言を基本理念などに盛り込むことで与野党合意を見たLGBT新法が、自民党三役預かりとなったまま提出されることなく、第204通常国会が閉会となりました。審議の最中に出てきた複数の与党議員からの差別発言も未だに撤回も謝罪もされず、放置されたままです。
5月21日に差別発言が問題視され、28日にLGBT法案の今国会への提出が見送られると報じられた時からの2週間余り、LGBTQ+Allyコミュニティは、LGBT差別に抗議する24時間シットインを行ない、9万4千を超える署名を提出し、ろう者のLGBTQの方たちも手話で抗議し(YouTubeに動画が追加されましたので、ぜひご覧ください)、渋谷で「0606LGBT新法制定を求めるハチ公前連帯集会」を開催し、北海道LGBTネットワークをはじめ全国各地の団体が自民党本部に要望書を提出し、LGBT自治体議連は党三役への面談を申し入れ、SNSなどでもデモを行ない(一時はトレンド入りも果たし)、これまでにない規模で運動を展開しました。本当に多くの方たちが声を上げました。
世論も味方し、海外からも支援の声が届きました。全国の新聞社の社説や雑誌・WebメディアでもLGBT法案の成立を(私たちの運動を)支持する記事が展開され、全国1285名の弁護士が連名で申し入れ、パナソニックなどの企業や新経連のような経済団体も支持を表明しました。駐日大使もコメントし、IOCが異例の声明を発表、G7首脳共同宣言でもLGBTQ差別の撤廃に言及されています。
にもかかわらず、法案は国会に提出されず、差別発言への対処も見られませんでした。
SNSでは、こんな声が上がっています。
「「差別を禁止する」たったそれだけのことなのに。当たり前のことなのに」
「この法律に反対する力は何なのか。私たちは、どんな相手と戦わなくてはいけないのか。考えると気が遠くなる思いもしますが、目をつぶって通り過ぎることはできないと思っています」
「土地規制法は、参考人からの批判が猛烈にあっても成立させる。でも、必要性が言われてるLGBT新法は成立させない。現政権は、どこを見てるかよくわかる」
「本当に悔しく、残念な国会閉会日です。こんな国会を必ず変えましょう」
マンガでわかるLGBTQ+「パレットーク」は、多くの当事者が感じているであろう気持ちを漫画で表現してくれました。
LGBT平等法案の見送りで、一人のゲイが思ったこと#日本にもLGBT平等法が必要です #EqualityActJapan pic.twitter.com/15Yrv2f7rZ
— マンガでわかるLGBTQ+ 「パレットーク」 (@palettalk_) June 16, 2021
超党派LGBT議連の中で野党側の代表として尽力した立憲民主党の西村智奈美議員と、同党の泉健太政務調査会長は、「性的指向・性自認に関する自民党の差別的な対応に強く抗議し、LGBT差別解消法案の成立を求めます」との声明を発表しました。
「私たちは、「理解増進」どころか理解の入り口にも立っていない発言に対して、満身の怒りをもって抗議するとともに、自民党から公式の場での説明と謝罪を求める」
「当事者の存在を否定するような許しがたい差別発言を投げかけられた上に、「ないよりまし」と苦渋の思いを飲み込みながら法案の成立を心待ちにしていた当事者及び当事者団体の落胆は計り知れない。しかしここで歩みを止めるわけにはいかない。私たちは当事者・支援者の方々の思いとともに、これからも、LGBT平等法の早期成立を求めるとともに、引き続き人権尊重のために取り組むことを誓う」
松岡宗嗣さんは現代ビジネス誌に寄稿した「自民党が提案し自ら潰した「LGBT新法」をめぐる「6年間の経緯」」で「あまりに性的マイノリティの人権や命を軽視していると言わざるを得ない」と述べています。
「憲法で保障されているはずの基本的人権が、特にマイノリティの立場にいる人間には保障されない日本の現状を突きつけられる」
「いまの政治の現状では、残念ながら性的マイノリティの権利は、命は、いつまでも置き去りにされ続けるだろう」
「それでも、いま困難に直面している人にとって、迫りくる壁が止まってくれるわけではない」
この記事はLGBTQ差別を解消するための法案の議論がどのような背景で立ち上がったのか、から始まって、現在に至るまでの経緯や、問題の本質をつぶさにまとめた必読の論考です。法制定を求める運動の「これまで」が、この論考によって見事に総括されています。「これから」の運動に際しても、のちに歴史家が振り返る際にも、この論考が、誰もが参照する基礎資料となることでしょう。
それにしでも「LGBT差別は許されない」というごくごく当たり前の一言を盛り込もうとしただけでどうしてこんなにこじれるのか、自民党保守派はどうして強硬に反対するのか…と理解に苦しむ方も多いことでしょう。こちらやこちらの記事で掘り下げが行なわれています。今後も、こうした保守派の後ろに見える宗教団体のことなどが追及されていくのではないでしょうか。
国際社会からは、日本政府が自ら五輪憲章に違反し、大会の掲げる「多様性と調和(Unity in Diversit」)」とも齟齬をきたしていると見なされることでしょう。五輪のことを脇に置いても、LGBTQへの差別を禁止するどころか政権与党の国会議員から差別発言が出て、それを放置してしまっていることは、人権後進国との誹りを免れないような由々しき事態です。
2014年のソチ五輪の際、ロシアが同性愛者の権利について公に発言することを禁じる法を制定したことで国際社会から非難を受け、オバマ大統領をはじめ欧米主要国の首脳がこぞって開会式をボイコットしました(五輪憲章に性的指向による差別の禁止が明文化されるきっかけとなりました)が、日本もロシアのような扱いを受けることが懸念されます。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは5月の段階で「A Gold Medal for Homophobia in Japan(日本のホモフォビアに金メダルを)」と批判しています(なお、ヒューマン・ライツ・ウォッチは今日、「闘いは終わっていない」とツイートしています)
ブルームバーグによると、米国で最も歴史あるLGBTQ団体の一つである「ラムダ・リーガル」のジェニファー・パイザー氏は、「ソチの例は日本の指導者に対して有効な注意喚起になりうる」と語り、東京大会が近づくにつれ、国際的な関心が高まるとの見方を示しています。
ジェニファー・パイザー氏はまた、「国際ビジネスの世界において日本は極めて重要なメンバーであるのに、LGBTQの平等がますます当たり前になりつつある世界で、国がピント外れのままでいると、政治と同じく日本企業までもが白い目で見られるようになるだろう」と指摘しています。
ロバート・キャンベル氏も毎日新聞のインタビューで、「海外から向けられるまなざしには、かなり冷たいものがあります。日本は、かなりの「バッドルック(悪い見た目)」になっている」「(LGBT法案を見送ったことは)政党として、政治機構としては、非常に残念でもったいない選択をしたと思います。広い視点で見れば日本の国益にとってプラスになる機会を、またしてもドブに捨てる選択を政治家たち自らがしているようにも思うのです」と語っています。
一つ「よかった」かもしれないと思えたのは、かつてない規模で、国内だけでなく世界中から「LGBTQ差別は許されない」と謳う法律の制定を求めて声が上がり、LGBTQ差別禁止(LGBTQの法的な保護)の願いが大きなうねりとなって立ち現れたことに励まされた当事者の方も多かったのではないか、ということです。きっと「世の中捨てたもんじゃない」と、もうこれ以上差別や侮辱に堪える状況を「仕方ない」とあきらめなくてよいと、世界が味方してくれている、と思えた方もいらしたことでしょう。初めて声を上げたり署名などに参加できた方もいらっしゃったのではないでしょうか(それこそが本来の意味でのPRIDEです)
7月には都議選が、この秋までには衆院選もあります。
メディアもLGBTQ差別禁止法(平等法)の制定が衆院選の「火種」「論点」となると見ています(NHK政治マガジンは、「LGBTの人たちを含め、多様性を認める社会の実現については論を待たない」と断言しています)
差別禁止法制定をめぐる運動は決してこれで"終了"したわけではなく、まだまだ続きます。
参考記事:
「自民党が提案し自ら潰した「LGBT新法」をめぐる「6年間の経緯」」(現代ビジネス)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84156
「日本の伝統と言いながら日本史に無知」LGBTをやたらに恐れる保守派の無教養(PRESIDENT)
https://president.jp/articles/-/46819
宮崎謙介〈政界“魑魅魍魎”ウォッチ〉「『LGBT法案』及び腰のワケを全暴露」(Asagei Plus)
https://www.asagei.com/excerpt/177861
LGBT理解増進法案棚上げ、「多様性」掲げる東京五輪直前(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-06-16/QURMOIT0G1L001
東京五輪直前のLGBT法案棚上げが日本にもたらすリスク(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210614/k00/00m/010/243000c
通常国会閉会 政府・与党「安全運転」に終始 衆院選へ火種も(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210616/k00/00m/010/294000c
「差別は許されない」はダメ? LGBT法案に揺れた自民党(NHK)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/62170.html