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東京新聞の調査で、首都圏の同性パートナーシップ証明制度を導入している自治体のなかで災害時にLGBTQに配慮する施策を整備しているところは42%であることがわかりました
東京新聞が首都圏1都6県で同性パートナーシップ証明制度を導入している31自治体に対し、災害時の避難所運営マニュアルなどがLGBTQに配慮したものになっているかどうか調査したところ、東京都世田谷区、文京区、渋谷区、豊島区、江戸川区、府中市、茨城県、埼玉県さいたま市、鴻巣市、千葉県千葉市、神奈川県横浜市、川崎市、小田原市の13自治体で何らかの施策が行なわれていることが明らかになりました。
東日本大震災以降、同性カップルが避難所で家族として過ごせるかどうかということや、トランスジェンダーの方が避難所で自認性に基づいてトイレを利用できたりするかなど、避難所でのLGBTQの不安や困り事という課題が見えてきました。
震災後、東北各地のLGBT団体が被災した当事者の方たちの声を聞き集めたり、直接支援したり、動きました。被災地のLGBTを支援する「JAPANレインボー・エイド」という団体も立ち上げられ、「被災とセクシュアル・マイノリティ」というシンポジウムも開催されました。
岩手のLGBTQ支援団体「岩手レインボー・ネットワーク」は、東日本大震災などでの聞き取りを踏まえた「にじいろ防災ガイド」を2016年に発行しています。そのなかで挙げられているのは、LGBであれば、関係を周囲に明かしていない同性カップルが避難所のスタッフに「どういう関係ですか?」と人前で詮索されたり、プライバシーが保たれるかどうかという心配、トランスジェンダーやXジェンダーであれば、避難所で性別欄に記入を求められるのが苦痛だったり、性自認や性表現に沿った物資をもらいにいったら不審がられる、トランス男性が生理用品を受け取りづらいといった問題です。コロナ禍の今もそうですが、親族と同様に同性パートナーの安否情報を得られるかどうかという心配もあります。
そもそも救援活動は「男女別」に限定しないでほしい、LGBTQへのハラスメントや性暴力が起こらないようにしてほしい、同性パートナーも世帯として扱ってほしい、相談・支援体制を確立してほしいという声も緊急災害対策本部宛てに届けられています。
しかし、そうしたコミュニティからの働きかけにもかかわらず、国や自治体でLGBTQに配慮した災害時対応の施策が進められたかというと、その動きは鈍いものがあります。
東日本大震災が起こった当時はLGBTQ支援を行なっている自治体がほとんどなかったのですが、2013年の大阪市淀川区によるLGBT支援宣言、2015年の渋谷区・世田谷区による同性パートナーシップ証明制度などを契機として、どの自治体にもLGBTQの住民がいるし、配慮や支援が必要だとの認識が必要であるということが広く認知されるようになったこともあり、自治体の地域防災計画や避難所運営マニュアルにもLGBTQへの配慮や対応を盛り込むようになってきました。
毎日新聞が昨年、全国の121自治体(全国の都道府県、道府県庁所在地、政令市、東京23区)に対し、災害時の対応を定めた地域防災計画や避難所運営マニュアルなどにLGBTQへの配慮があるかどうかを調査した結果、全体の23%にあたる28自治体で何らかの施策が盛り込まれていることが明らかになりました。
今回、東京新聞は、昨年末までに同性パートナーシップ証明制度を導入済みの首都圏の自治体(茨城、群馬両県と29の市区町)に対して災害時の対応を定めた地域防災計画や避難所運営マニュアルなどにLGBTQへの配慮があるかどうかを調査しました。1月から2月にかけてアンケートを送付し、全自治体から回答を得たそうです。
その結果、地域防災計画や避難所運営マニュアルなどに「性的少数者の対応や配慮、その必要性を明記している」と答えたのは、東京都世田谷区や文京区、横浜市、茨城県など13県市区、全体の約42%であることが明らかになりました。記載内容は、性別に関係なく使えるトイレの設置や当事者が安心して集まれる場所の確保、理解促進の必要性、などでした。
江戸川区はパートナーシップ制度導入を機に、避難所開設・運営マニュアルに性的少数者への配慮を追加。港区は2020年度策定予定の男女平等参画行動計画で「LGBTQの視点を取り入れた防災対策」を明記するそうです。また、神奈川県葉山町は2021年度に見直す地域防災計画で盛り込む方針だそうです。
特に明記がない千葉県松戸市や神奈川県横須賀市は、「必要性は理解しているが、国(や県)のガイドラインに具体的な記載がない」と回答しています。
一方、災害公営住宅の入居で同性カップルを「同居の親族」と同様に扱うとしたのは15自治体で、地域防災計画や避難所運営マニュアルなどでLGBTQへの配慮が明記されていない相模原市や栃木県栃木市なども同様に扱うとしていました。
42%を「しかない」と捉えるか、「もある」と捉えるかは、見方が分かれるところでしょう。上記の毎日新聞の全国の自治体への調査の23%という数字に比べたら多いわけで、やはり同性パートナーシップ証明制度を導入しているような自治体はLGBTQ支援策が充実していますね、と見ることもできるでしょう。
LGBTQ施策を推進したことが庁内に「気づき」を与え、地域防災計画にLGBTQ対応を明記する後押しとなっている状況も浮かび上がっています。
文京区の鈴木大助防災課長は「防災課の意識だけだと気づきにくい部分がある。LGBT施策やダイバーシティ推進の担当者がいて、連携できていることが大きい」と語りました。文京区はいち早く教職員向けのきめ細かなガイドラインを策定し、全庁でLGBTQへの理解・支援策を深めようと動いてきた、いわばモデル自治体です。2018年度に地域防災計画を修正した際、LGBTQ支援団体に意見を聞き、その結果、LGBTQ対応を踏まえた訓練を行なうことや、誰もが安心して避難所生活を送れるようプライバシーの確保やトイレ、入浴に配慮することなどを記載したそうです。
昨年12月にパートナーシップ宣誓制度を始めた埼玉県鴻巣市は、制度導入に向けた庁内連絡会議で災害時の配慮や対応の必要性が共有され、2021年度にも地域防災計画に記載することになっています。担当者は「制度ができたことで、具体的に進んだ」と語ります。
千葉市は避難所開設・運営マニュアルに「性別・LGBT(性的少数者)への配慮チェックシート」があります。LGBT法連合会に相談し、市が作成した職員向けガイドラインの内容を反映したそうです。
内閣府は熊本地震を受けて2017年に公表した避難所での被災者支援に関する事例報告書で、LGBTQへの配慮が重要だという意見を紹介し、「誰もが安心して尊厳を守れるような配慮が求められる」としています。
災害時のLGBTQ支援に詳しい弘前大男女共同参画推進室の山下梓助教(岩手レインボー・ネットワークの主宰者でもあります)は、「パートナーシップ制度がある自治体でも、災害時のLGBT対応は想定されにくく、後回しになりがち。当事者は全国どこにでもいる。防災計画や指針に位置付け、取組みや情報を発信していくことが必要だ」と語っています。
災害が起こった際、LGBTQの不安を解消するような取組みは、以前よりは着実に進んできてはいるものの、まだまだ道半ばであるとも言えそうです。
1週間前、東北を再び強い地震が襲い、少なからぬ被害を及ぼしたタイミングでもあり、今回の東京新聞の調査は、災害時のLGBTQへの配慮の施策が後回しにされることなく、全国で速やかに進められることの必要性を強く感じさせるきっかけとなりました。
参考記事:
災害時のLGBT対応まだまだ 本紙調査で判明 配慮明記は半数未満(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/87372
性別欄の自由記述、間仕切り用意…ガイドライン必要 災害時のLGBT施策に課題(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/87374