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公立高校の入学願書から性別欄をなくした都道府県が、2年間で2府県から41道府県にまで広がりました
トランスジェンダーへの配慮などから公立高校の入学願書の性別欄をなくす動きが急速に広がっています。2019年春の入試の際は性別欄撤廃に取り組んでいたのは2府県だけでしたが、今春は41道府県が対応を表明しており、この2年で動きが一気に広がったかたちです。
朝日新聞が昨年12月、47都道府県の教育委員会に尋ねたところ、入学願書の性別欄をなくすと回答したのは41道府県に上り、このうち7県は今春に行う入試からなくすとのことです。
性別欄をなくした自治体の多くは「トランスジェンダーなど、性的少数者への配慮」を理由に挙げましたが、「入学者選抜に性別は無関係で、不要な情報と判断した」(青森県)、「性的少数者への配慮もあるが、性別欄がなくても困ることはなく、他県の状況も見つつ『本当に必要なのか』と議論してきた結果」(山梨県)という回答も。「法的に困るもの以外は性別欄をなくすという、県全体の流れ」(兵庫県)、「県庁・県教委の全庁的な取り組みの一環。願書は2017年までは選択式、2018、2019年が記述式、2020年から削除、と段階的に進んだ」(三重県)など、願書の性別欄に限らず、他の書類も含めた見直しの一環だという自治体もありました。
願書の性別欄をなくしても、中学校が作成する調査書に性別欄があり、高校は入学者の戸籍上の性別を把握することができます。沖縄県は「クラス編成の参考にするなどの便宜上、生徒の目に触れない調査書には性別欄を残している」と回答しました。
性別欄が残っているのは、山形、栃木、群馬、千葉、東京、静岡の6都県で、山形は「2022年春の入試からなくす予定」、栃木は「検討中」と答えました(東京都はLGBT差別禁止の条例を持っているのに、対応しないのか、との批判の声が聞かれます…)
入学願書は入試の際に志望校に提出する書類で、受験生本人が住所や氏名などを記入します。2018年春の入試までは全都道府県が選択式または記述式の性別欄を設けていましたが、2019年春の入試で大阪、福岡の2府県が性別欄をなくす取組みに先鞭をつけました。
朝日新聞の記事では、都立高校3年のトランス男子のことが取り上げられています。高校受験の際は「出願前日に『女』と殴り書き」したそうですが、3年が経ち、就職活動では、履歴書の性別欄に「自分が働きたい性、つまり『男』と記入」し、高校の先生も「もしそれが理由で落とされることがあれば、学校は君のために動くよ」と背中を押してくれたといいます。
この生徒は、性別欄をなくす自治体が増えていることを歓迎し、全国一律での廃止を望んでいます。
「自分の性別は自分で決めるもの。地域によって性別欄の有無が異なり、誰かがまた苦しむことになるのは不平等だと思います」
ジェンダーに配慮した施策を講じている首都圏の自治体の公立中学校長は「性別欄をなくし、本人の苦痛を減らすことは良いこと」と歓迎する一方、学校では健康診断や男女別で行う活動も多く、トランスジェンダーの生徒を「周りの生徒や保護者がどこまで受け入れられるか。制度も含めてまだまだ閉鎖的と言わざるをえない」とし、「願書の性別欄をなくしただけで解決できない課題は多くある」と指摘します。
高校の願書の性別欄は国会でも取り上げられました。昨年11月26日の参議院文教科学委員会で、石川大我議員(オープンリー・ゲイの方です)が各都道府県の状況について尋ね、文部科学省の滝本寛・初等中等教育局長は「教育委員会によっては性別欄がある願書を使っている」「各自治体の判断を尊重したい」と答えました。石川議員は、トランスジェンダーコミュニティの声を受けて日本規格協会が性別欄のある履歴書の様式例を削除する対応を行なったことを挙げ、対応を尋ねましたが、滝本局長は「調査書の様式は企業等のニーズもふまえつつ、厚生労働省や関係団体などと検討していきたい」と述べました。
三成美保・奈良女子大副学長(ジェンダー法学)は、「学校での性的少数者への配慮は進んでおり、法的性別と異なる制服で受験する生徒もいる。願書や受験票など人の目に触れる書類で不必要に性別を尋ねるべきではない。一方で、調査書などで性別を把握し、合格者の男女比などの統計を出すことは必要だ。それがないと、医学部の不正入試問題のようなジェンダー不平等が見えなくなる。政府内でも一般社会でもジェンダー統計の重要性が共有されておらず、それと性的少数者への配慮を混同するのは危険。性別記載が不要なものと必要なものを区別・整理することが重要だ」と述べています。
トランスジェンダーの受験生にとって入学願書の性別欄が、入り口で躓かせる要因であったように、トランスジェンダーの就活生は長い間、履歴書やエントリーシートの性別欄の存在に苦しんできました。
日本規格協会の対応を受けて、昨年12月にはコクヨが性別欄のない履歴書を発売し、当事者の悲願が達成されました。非常に意義のある出来事でした。
これに先立ち、ユニリーバ・ジャパンは2020年度採用選考について、応募フォームから性別欄をなくし、性別を不問とする施策を実施しています。
自治体の職員採用試験においても性別を不問とする動きが広がっています。熊本市では2018年以降、身体能力の測定が必要な消防職などを除き、性別記入を任意としているそうです。
BuzzFeed Japan「就活での性差別、やめてください」大学生やマナー講師が声をあげる理由」やABEMA TIMES「「不採用にされてしまうのでは…」履歴書や面接がハードルに、トランスジェンダーの就活生が明かす苦悩」では、履歴書の写真や面接がハードルになっていること、女性だけにスカート着用やメイクを「マナー」だと推奨することなどが問題視されています。
Xジェンダー(ノンバイナリー)の元就活生・水野さんは「就活になった途端に、“あなたは男性、あなたは女性”と分けられて、“これを着なさい”と」されるのは「耐えられなかった」と語ります。「二元論の就活の服装、マナーに心が折れました。自分のジェンダー表現に合わない服を着ることができず、就活ができなくなり一度は断念してしまいました」
このような就活における「女性はこうすべき、男性はこうすべき」という合理的根拠がない性役割の押付けを「就活セクシズム」であるとし、大手求人サイトやスーツ販売企業などに対し「極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押し付けをやめ、多様性のある装いの提案」「性差別的な偏った表現の見直し」を求める署名運動も立ち上がっています。
昨年9月末には、パンテーンがトランスジェンダーの就活をフィーチャーした新聞広告を出稿したことも大きな話題を呼びました。「男性」「女性」の枠に押し込めるのではない、現に存在する多様なジェンダーの人々を尊重する取組みが今後、さらに広がっていくのではないかと期待されます。
願書から性別欄をなくしても学校でトランスジェンダーの生徒を受け入れる体制が整っていなかったり保護者の理解が得られなかったり「性別欄をなくしただけで解決できない課題は多くある」のと同様、企業の採用活動において性別欄がなくなっても入社後にトランスジェンダーの社員が望むジェンダーで働けなかったり職場での理解が得られなかったりすることもあるでしょう。法的に必須とされているSOGIハラ・アウティング防止策だけでなく、トランスジェンダーの社員への配慮策も含めた幅広い社内LGBTQ施策に取り組んでいくことが求められます(何をしていったらよいのか…と迷う方はぜひOUT JAPANにご相談ください)
最後に、こちらの記事でもお伝えしたGID学会理事長である岡山大の中塚幹也教授の言葉を再掲いたします。
「体の性と自分が感じる性が異なることや、それに違和を覚えること自体は病気でも障害でもないんです。『障害』はその人にあるのではなく、無理解や差別などが存在している社会の方にあります」
参考記事:
(ThinkGender)入学願書、性別欄の廃止進む 公立高、19年2府県→今年41道府県
https://www.asahi.com/articles/DA3S14792330.html
「就活での性差別、やめてください」大学生やマナー講師が声をあげる理由(Buzzfeed Japan)
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/syukatsu-sexism
「不採用にされてしまうのでは…」履歴書や面接がハードルに、トランスジェンダーの就活生が明かす苦悩
https://times.abema.tv/news-article/8646138
「性別」偏見なくして 熊本県内に動き広がる 履歴書、記入欄なしや提出廃止も(熊本日日新聞)
https://kumanichi.com/news/id102251