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大津市の性別違和を持つ園児の母親が市に対して調査と再発防止策の検討を申し入れ 「性に悩む人が多くいることを知ってもらいたい。みんなが自分らしく生きられる世の中に早くなってほしい」

 今年1月、滋賀県大津市が保育園児の性別違和や受診歴のことを市の公式サイトに無断で掲載し、両親が「アウティング」だと提訴していた問題で、1月28日に提訴を取り下げ、2月4日、市に対して調査と再発防止策の検討を求める申入れを行ないました。会見した母親は「同じ被害が繰り返されないようにしてほしい」と訴えました。

 

 関西テレビ「「間違えた体で生まれた」園児が明かした"性別への違和感" 無断で市が公開」によると、大津市に住む佐藤ゆうきちゃん(仮名)は、体は男の子ですが、3歳の頃から「かわいい服を着たい、自分は女の子」と話すようになりました。「まだ小さくて言葉が出ない時から指差しなどをして、女の子の服を選んでいた」と語るゆうきちゃんのお母さんは、ゆうきちゃんの意思を尊重し、女の子として接することにしたそうです。
 4歳の時(2019年4月)、ゆうきちゃんが市の公立保育園に入園すると、お母さんは園に事情を説明したうえで、女の子の服装で通わせることもありました。しかし、入園から1ヵ月後、「『死んで生まれ変わって女の体に生まれ変わりたい』とか『間違えた体で生まれてきた』と泣いていた」といい、服装がきっかけでほかの園児から「うそつき」「おとこおんな」などと言われ、たたかれたり、持ち物を壊されたりなどのいじめにあっていたことがわかりました。
 5月以降、お母さんは何度も保育園や市のいじめ対策推進室にいじめの相談をしました。ゆうきちゃんが覚えたてのひらがなで「なかまはずれ」「ぼこぼこ」などと書いたメモを握りしめて相談に行ったこともありました。しかし、「平行線で、全く話を聞いてくれなかった」そうです。「『成長過程』と『じゃれあい』ばかりずっと言われて。『本人の思うままにしていいのかを主治医に聞いてほしい』と言われました」
 ゆうきちゃんは大学病院で「性別違和」の診断を受けましたが、保育園は身体測定の方法を変えるなどの対応をして、いじめについては「注意深く見ておく」と返答しただけでした。性別をからかういじめは収まらず、ゆうきちゃんは円形脱毛症などの症状が出て、2020年10月、とうとう保育園に通えなくなりました。
「いじめられた時のことを急に思い出してしまって、日中泣いちゃったりとか。大人に対してもまったく不信感がつのって、目も合わせられなくてしゃべれなくなっちゃってて…『死にたい、死にたい』と言ってます」
 ゆうきちゃんとお母さんが苦しむなか、さらに追い詰められる出来事が発覚します。無断で大津市のホームページに「今年度入所した4歳児が、自分の性に違和感を感じる訴えをし11月に受診」と公開されていたのです。2019年度入所の4歳児はわずかであるため、ゆうきちゃんのことは容易に特定されてしまいます。お母さんは「(今後も)噂とか、またいじめられる可能性がすごい高まってしまうので、この地域の小学校には行けない」として、大津市を離れ、新しい環境で再スタートすることを決めたそうです。

 お母さんは社会全体で問題意識を持ってほしいと考え、昨年12月25日に大津市を提訴しました。
 市は1月18日に当該部分を削除し、「園児が限定されるような表記があり、非常に申し訳なく、保護者におわびしたい」と謝罪しました。お母さんは1月28日に提訴を取り下げました。
 そして、2月4日、いじめ防止対策推進法の重大事態に準じた調査検証や再発防止策の検討を市に申し入れました。市はいじめがあったと認めていたものの、いじめ防止対策推進法の対象が小学生以上であることから、「年齢上、いじめに当たらない」などとして調査しなかったといいます。2020年11月に謝罪し、報告書を提出したものの、その内容が不十分だったため、今回、市常設の第三者機関「大津の子どもをいじめから守る委員会」に調査と検証を申し入れることにしたものです。
 お母さんは涙ながらに「年齢に関係なく、苦しんでいる子どもがいれば助けてください」と訴えました。ゆうきちゃんは現在も外出できず、夜中に「死にたい」とつぶやいたり、泣き出したりすることがあるそうです。同席した代理人の石田達也弁護士は「大津には常設の専門家による委員会があるので、重大事態とみなして検証してほしい」「保育園でもいじめの調査はなされるべきだ」と述べました。市幼児政策課は「内容を確認して検討する」としています。

 「性に悩む人が多くいることを知ってもらいたい。みんなが自分らしく生きられる世の中に早くなってほしい」と、ゆうきちゃんのお母さんは語ります。
「私の子どもは早いうちから親に性別違和に関して言えましたけど、なかなか世の中には、言えない子どもたちも多くいると思うんです。若い時から人は男/女の2通りだけでなくて、世界には多様な人がいることを知ってほしい。まずは正しい知識や正しい理解を私たち(おとな)がしていかないと、子どもたちにも伝わらないと思います」
 ゆうきちゃんはもうすぐ小学1年生。どんな服装で学校に通うのか、まだ決めることができないでいるそうです。

 
 性別違和に苦しむ方の診察を20年以上続けてきた岡山大の中塚幹也教授によると、これまで受診した1167人のうち、56.6%にあたる660人が小学校に入学する前に性別違和を持ち始めていたそうです。中塚教授は、「体の性と自分が感じる性が異なることや、それに違和を覚えること自体は病気でも障害でもないんです。『障害』はその人にあるのではなく、無理解や差別などが存在している社会の方にあります。人生の早い段階で望む性での生活のスタートラインに立てれば、あとは『個性』だと言えるのではないでしょうか」と語ります。

 同様に20年近く性別違和に苦しむ方を支援してきた大阪医科大学の康純准教授は、性別違和を持つ時期は「入園前から大人まで、さまざま」だと語ります。「社会がいつ性の役割を押しつけるかという「環境」と、いつ訴えるかという本人の「特性」にもよります」
「例えば、「女の子なんだからこの服を着なさい」と、家庭で言われるのか、保育園で言われるのか、学校で言われるのか。また言われた時に、もやもやした気持ちを抑え込んでしまい、成長してから主張する子もいれば、すぐに「それは嫌だ」と主張する子もいるわけです」
「体の性も「男」と「女」の二つにはっきり分けられるとは限りません。二つしかないのはあくまで戸籍で、それで性の全ての要素を決めるのは少し乱暴ではないでしょうか」
「性別違和があるのに、ただ一つの性の役割を押しつけることは、他の子ががまんしないことをその子だけにがまんさせることになります。大人は、子どもの意見を聞き、見守るべきではないでしょうか」
「「配慮」ではなく、「この男女の区別は本当に必要か」と改めて考えてみてほしいです」
 

 withnews「2歳ごろから「自分は女の子」いっちゃんが自分の居場所をつくるまで」では、ゆうきちゃんと同様、保育園のときに性別違和を覚え、周囲から心ない言葉をぶつけられながらも、自分の居場所をつくってきたいっちゃんという子のことが紹介されていました。
 現在小学4年生となったいっちゃんは、LINEのビデオ通話でのインタビューで「私も保育園でいじめられてて、味方は誰もいないと思っていました。一人で頑張るしかないかなって。私のことは私しかわからないから」と語りました。
 お父さんは当時のことを「何をどうしていいかわからなかった」と振り返ります。いっちゃんが年長クラスに上がる頃、お母さんが「スカートはかせてあげたいね」と言ったことをきっかけに家族で話し合い、「女の子宣言」をすることにしました。保育園の先生に説明すると「わかりました。じゃあ女の子でいきましょう」と二つ返事。先生から他の園児に「いっちゃんは今日から女の子だからね」と説明してもらいました。お父さんも保護者会で「本人の意思を尊重したいので、知っておいてほしい」と他の保護者にお願いをしました。その後も、「気持ち悪い」という園児はいたそうですが、他の園児が「いっちゃんはいっちゃんだからいいじゃん」とかばってくれたそうです。いっちゃんの本名が男の子しか使わない響きを含んでいたので、改名もしました。
 しかし、小学校に入学する直前、いくつもの困難に直面しました。事前に校長に会うと、元の名前を「くん」づけで呼ばれ、「女の子として通うのはちょっと」と言われたそうです。診断名を求められ、主治医に相談して「それでうまくいくなら」と「性同一性障害」と診断してもらいました。
 お父さんも、保育園と同じように保護者への説明の機会を設けてほしいと校長にお願いしましたが、返ってきた言葉は「ちょっとやめておいて」だったといいます。地元の教育委員会に打ち合わせに行くと「思春期までわかりませんよ」「男として育てる努力をしては」と言われたそうです。お父さんは内心で憤ったといいます。交渉を重ねた結果、小学校から「女の子として通うことを許可する」との回答をもらいました。
 入学後、校長が変わって「話を聞いてくれる人になった」そうですが、それでも4年生になった今、「学校はストレスがたまる」といっちゃんは話します。学校には行ったり行かなかったり。楽しみは地元とは別の市で開かれる性的マイノリティの子どもとの交流会です。同じ境遇の子どもも参加しています。「いろいろ話せるから居心地がいい」そうです。
 最後にいっちゃんは、「世界に同じ人はいない。個性を見て、わかってほしい。人間という同じ生き物に生まれたんだから、支え合えるようになった方が得だと思う」と語りました。


 保育園や学校によって、自治体によって、性的マイノリティの子どもへの対応がガラリと変わることがあるという現状。たまたま理解ある人に恵まれた場合はラッキーで、そうでなかったら泣き寝入り、というのではなく、これは社会全体で支援していかなければいけないことなのだと大人たちが受け止め、きちんとLGBTQについて学ぶ機会を設けたり、専門家を配したり、制度を整えたりという取組みを国や自治体が率先して行なってほしいと願うものです。また、いっちゃんが心のよりどころとしているような性的マイノリティの子どもの交流会のような活動を、たまたま近くの市にあったからよかったね、ではなく、継続的な活動が可能になるような助成(サポート)をしていくことも大切です(海外ではLGBTQコミュニティ支援団体に企業からたくさんの寄付が行なわれています。日本でもそういうふうになるといいですね)



参考記事:
「間違えた体で生まれた」園児が明かした"性別への違和感" 無断で市が公開(関西テレビ)
https://www.fnn.jp/articles/-/141766
大津市、就学前年齢を理由にいじめ調査せず 「性別違和」保育園児側が検証申し入れ(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210204/k00/00m/040/300000c
性別違和の園児、母「いじめ検証を」 大津市に申し入れ(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP246VQ3P24PTJB00C.html
子どもの性の違和感、いつから? 専門家に聞く(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP267J0PP1PPTJB013.html
性別違和の園児が涙の訴え「1回死んで女になる」 市がHPで「アウティング」(47NEWS)
https://news.goo.ne.jp/article/47news_reporters/nation/47news_reporters-20210204124509.html
2歳ごろから「自分は女の子」いっちゃんが自分の居場所をつくるまで(withnews)
https://withnews.jp/article/f0210119003qq000000000000000W0g210601qq000022397A

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