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尼崎市の幹部が職員の性的指向を署内にアウティングしていたことが明らかになりました
兵庫県尼崎市の職員に市幹部が市民へのカミングアウトをやめるよう指導し、失望した職員が退職した問題についての続報をお伝えします。新たに幹部が部署内でこの職員の性的指向をアウティングしていたことがわかりました。
兵庫県尼崎市保健所で2019年、バイセクシュアルの30代男性職員(Aさん)に対し、「不快に思う市民がいる」との市民団体の指摘があったとして、幹部が「性的指向を市民に明かすことは公務員として不適切」などと指導し、Aさんは「社会の無理解を行政が容認したことがショックだった」として依願退職していたことが12月15日、明らかになりました。
17日の市議会総務委員協議会では、市が示した、来年度から4ヵ年の指針となる「市男女共同参画計画」の素案について「ジェンダー平等を目指す理念にLGBTQの権利擁護は含まれているのか」などの質問が相次いだといいます。冒頭、「市職員たちのLGBTへの認識は十分だったのか」と市議から質問が上がり、市側は、今回の問題が起きたのは2019年秋だったとし、「LGBTについて学ぶ職員研修を始めたばかりで(市役所全体での理解は)初期段階だった」と述べ、不十分さを認めました。そのうえで、来年度からの「市男女共同参画計画」に関して性的マイノリティの権利擁護を込めて「性の多様性を前提としジェンダー平等な社会をめざそう」という副題をつける意向を明らかにしました。具体的には、「教育と啓発の推進、相談や交流の場づくりなど必要な支援に取り組む」とのことです。
尼崎市の稲村和美市長は20日の定例会見で「多様な性を理解していこうとする最中の出来事で、今後繰り返すことがないよう取り組む」と述べました。
幹部の対応など一連の問題の検証は?と問われた稲村市長は、「検証というレベルかわからないが、詳しい報告を現場に求めている。時間がたち、職員も退職していて詳しい事実確認は難しい点もあるが、どこが問題かしっかり分析する」と回答。また、再発防止策について、「(性的マイノリティへの理解や支援を表す)アライのシールを作り、職場で見える場所に貼ってもらうなど、来年1月から『見える化』していく。アライを名乗るから全てを理解できているわけではないが、差別をなくしたいという姿勢や気持ちが見えるようになれば、当事者の応援になるのではないか。第一段階として、職員には必修に近い形でウェブ研修を受けてもらい、シールを渡す。シールを身に着けたり貼ったりするかは任意だ。市役所外へ広げることも次の段階で進めたい」と述べました。
一方、同じ20日、幹部がAさんの性的指向を同じ職場の職員にアウティングしていたことがハフィントンポストの取材によって明らかになりました。
保健所によると2019年秋、市民団体から保健所の幹部に「男性職員に性的指向を打ち明けられ、困惑している人がいる」と申し入れがあり、それを受けて幹部が、Aさんが所属する部署の部長や課長、部署内の複数の職員に「Aが市民にバイセクシュアルだと伝えていると、団体から申し入れがあった」と伝え、事実確認を行ないました。Aさんには事前に、申入れ内容や、他の職員に性的指向を含めて事実を確認することを説明しませんでした。事実確認の中で初めて、男性職員がバイセクシュアルだと知った職員もいたそうです。
同年12月中旬、幹部職員らがAさんと面談し、「市民団体から苦情が寄せられている。勤務中はプライベートなことを言うのはやめた方がよい」と、カミングアウトを差し控えるよう求めました。面談の中で、Aさんが「市民の1人から結婚観を何度も聞かれ、話を終わらせたくて、セクシュアリティを正直に答えたことがある」と訴えましたが、市民団体への事実確認はしませんでした。
市はアウティングの事実を認めたうえで「辞めた職員が、カミングアウトは全てダメだと解釈してしまったのだと思う。性的指向のカミングアウト自体を否定したつもりはなかったが、説明や配慮が足りていなかった。再発防止に努めたい」と話しています。
LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は、尼崎市の対応について「本人の同意なく性のあり方を暴露する『アウティング』や、SOGI(性的指向や性自認)に関する『SOGIハラスメント』に該当するのではないか」と語りました。
「本人がバイセクシュアルであるかどうかどうかは焦点化される問題ではない。確認するにしても、本人にどこまで言ってよいかや、なぜカミングアウトをしたのかなどについて、他の職員への確認の前に丁寧に聞き取りすべきだった。今回のケースでは、本人の性的指向を特定せず、事実確認する方法もあったと思う」
パワハラ防止法施行に伴って作成された厚労省の「職場におけるハラスメント関係指針」には、SOGIを含め、プライバシーの保護が義務付けられています。本人の同意なく第三者に伝えることはアウティングになるため、業務上必要な場合は、まずは本人に許可を取ることが大切です。神谷さんは「同意が得られなかった場合は自治体の専門窓口など、秘密保持義務がある窓口に、まずは相談してほしい」と呼びかけます。
また、今回のケースは、Aさんが市民団体側から結婚観を何度も聞かれるといった、顧客・取引先(カスタマー)からの「カスタマーハラスメント」を受けているとも言える、と指摘されています。
「公務員に限らず、職員が取引先に対して強く出られないことは多々あると思う。ただ、カスタマーハラスメントを受けた被害者の思いを十分に受け止め、内部を罰するのではなく、上司が外部との関係調整などを行なうことも必要だと思う」
参考記事:
「ジェンダー平等にLGBTは含まれないのか」 尼崎市協議会で「性の多様性」議論、質問相次ぐ(神戸新聞)
https://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/202112/0014924671.shtml
「差別なくす姿勢、シールで『見える化』」「職員に研修を実施」 LGBT指導問題で尼崎市長会見(神戸新聞)
https://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/202112/0014930804.shtml
兵庫県尼崎市、職員のセクシュアリティをアウティングしていた。市民にカミングアウトは「不適切」と指導(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61c00c0ae4b0bcd21940b53d