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「親が性別変更しても子どもに悪影響はない」「すでにある私たちの家族の形を否定しないでほしい」と訴える性別変更の「子なし要件」に対する抗議デモが行なわれました
最高裁が性同一性障害特例法の「未成年の子なし」要件を合憲と判断というニュースをお伝えしていましたが、この判決に対して問題提起する「#子なし要件が合憲なんてありえないデモ」が12月16日夜、東京都の有楽町駅前広場で行なわれ、約70人のLGBTQ+アライの方たちが集まりました。参加者は、トランスジェンダーフラッグや「#トランスの権利は人権だ」といったメッセージカードを持ち、性同一性障害特例法の性別変更要件は人権侵害ではないかと訴えました。
ハフィントンポストによると、このデモを主催したのは、女性として男性と結婚した経験のあるトランス男性の頼(たのみ)さん。2人の子どもを育てるトランス女性である友人の存在がきっかけだったといいます。
頼さんが、自分が男性だというアイデンティティを持つに至ったのは、今年の春のことだったそうです。幼い頃から「女性らしい」と言われる服の色など、性別ごとに決められた役割に疑問を持っていました。現在名乗っている「頼」という名前は、戸籍名の「頼子」の一部をとったものです。自分に女性的な名前がつけられているのが嫌で、10代の時は友人に「頼朝」と呼んでもらうようにしていたそう。自分もそうなりたいと憧れていた芸能人やアーティストは全員男性だったそうです。それでも20代になってからは「女性でいること」を頑張っていました。2017年に、大学院の研究仲間だった男性と結婚。彼との生活は楽しいことも多かったものの、時々、なんとなく自分らしくいられていないという感覚があったと言います。そして昨年、コロナ禍と、夫の遠方赴任が重なり、独りで自分と向き合う時間が増えたなかで、本来自分が歩みたかった人生について考え、髪を徐々に切っていき、最終的にツーブロックにして、鏡を見て、「私、男だったんだな」と、しっくりきたそうです。夫に性自認のことを打ち明け、今年の春、離婚することになりました。元夫と話し合い、「普通の夫婦でいなきゃ」といった言葉から、自分を含む多くの人が、社会の「当たり前」に合わせ、望む生き方を我慢していることに気づいたそうです。頼さんは8月からホルモン療法を始めていて、男に見られたいこと、戸籍性も変えたいという気持ちに気づきます。だからこそ、性別変更要件の「性別適合手術が必須で、子どもも持てない」という要件に絶望しているそうです。「『男女が結婚して、子どもを育てる』という、伝統的家族像に当てはまらない人は増やしたくない」という国の思惑を感じています。トランスジェンダーについて調べるようになり、パートナーと結婚するために、本当は心から望んでいるわけではないのに、性別適合手術を受けて性別変更する人がいることも知りました。要件があることで人生の選択肢が狭まり、「伝統的家族像」に沿った生き方を強いられる人がいるのではないかと思いました。
そうしたなかで知り合ったトランス女性の友人。彼女は男性として女性と結婚し、子どもを2人育ててきましたが、結婚した後に自分が女性だと気づき、妻に理解を得て、性別違和を軽減するためのホルモン療法を受けています。本当は性別適合手術を受けて、戸籍上も女性になりたいと思っているものの、「子なし要件」の壁にぶつかり、諦めているそうです。
頼さんは「自分がトランスジェンダーだと、早いうちから気づく人もいるし、そうじゃない人もいる。気づいた後で、望む生き方を選べないのはおかしいと思います」と語ります。
そうして頼さんは、子どもを2人育ててきたトランス女性の友人のことを思いながら、デモを開催し、彼女から託された手紙を読み上げました。
「思い返せば少しだけ、変わっていました。初恋をするのも、好きになるのもいつも女の子でした。(自分が)男とされているから男として、(女の子を)好きなのだと思ってきました。でも私の好きは、いつも女の子どうしの話をする延長でした。思春期になり、私はみんなと違う成長をしていきました。それでも自分は男だと信じ込むようにしました。大人になり、現在のパートナーと出会い、結婚という結論に行き着きました。何年もたって子を授かり、助け合いながら妊娠期間を過ごし、出産に立ち会いました。難産でした。いよいよ我が子がこの世に姿をあらわしてくれたその時に、『女の子ですよ』と分娩室の中で小さく聞こえた歓喜の声の中で、私はありえないほどの喜びに包まれながら、ハッキリと気付いてしまいました。私もこうでありたかったことに。この尋常でない感情がおわかりいただけるとは思いません。愛するパートナーとの子どもが無事産まれてくれた喜び、パートナーと子どもへの感謝といたわり、それと同時に、私はなぜあちら側ではなかったのか、疑問とそれに対する答えが、たとえようがない速度でぐるぐる回っていました。パートナーを騙したとも思いました。2人目の(子どもの)あれこれが落ち着いた頃に、パートナーに打ち明けました。私のパートナーへの愛や子どもへの愛情には疑いようがなく、パートナーも私を人として愛してくれました。もちろん戸惑いはあったことでしょう。そのことをごまかすつもりはないですが、私たちのパートナーシップは強固であり、お互いの子どもを育てていくことに、性別は障害にならないということです。それを否定する権利が誰にあるというのでしょうか。
先日、とあるニュースで『伝統的家族観に配慮』という言葉を目にしました。伝統的家族観とは何か? 同性の配偶者を認めない、多様な家族という価値観を認めない、残酷な価値観です。
私たちの上の子は5歳になりました。もういろいろなことがわかる年齢です。『お父さんは女の子』。このこともおぼろげながらに理解してくれます。もちろん『なんでお父さんは女の子なの?』という疑問を投げかけてくることもあります。私にも答えなどありませんが、丁寧に答えます。パートナーともお互いに尊重しあえるように、日々さまざまなことを共有しあい生きています。これが私の家族です。私たちの家族は私たちが決めます。私の性別が変更されることによって『親子関係などの家族関係の混乱』などきたしません。『子の福祉に影響』など出ません。むしろ客観的事実とことなることが法的事実とされることで、アウティングの危険に生涯さらされます。親がアウティングされることは子の生活に大きく影響を及ぼします。
私たちはあなた方の価値観からすると異常なのかもしれません。しかし私たちの生活をよく見てください、話を聞く耳を傾けてください、少しだけ変わっている、普通の人間です。通常とされるみなさんと同様の人権を平等にもっています。それがたとえ功利的であろうとも偏った価値観で存在を否定することはできないはずです。あらためて子なし要件を合憲と見なす司法に強く抗議いたします」
また、トランス女性のエリン・マクレディさんも妻の緑さんとともに登壇し、思いを語りました。
「子どもには、なりたい自分に、そして幸せになってほしいと願う人は多いと思います。その願いは、親自身がなりたい自分にならないと、幸せにならないと、教えられないと感じています。自分は女性であると家族に伝えたことで、子どもとの関係は、むしろ良くなりました。親が自分の望みを諦めないことで、子どもは自分もそうしていいんだなと希望を持ったり、安心したりできる未来につながることもあると思います。セクシュアリティ=弱みではないけれど、そこに生じる葛藤といった意味での弱みを見せることで、子どもも自分のことを言いやすくなったり、安心できたりするんだなと感じました。自分の本当の望みを犠牲にして生きている人は、世の中にたくさんいると思います。議論を呼びそうな言葉ではありますが、現状、特に日本の女性に多いかもしれないと感じています。でも、それを強要されるのはおかしい。性別変更の『未成年の子なし要件』は見直されるべきだと思います」
緑さんも、「カミングアウトをしてくれた時、驚きはあった。だけれど、こんなに博識でユーモアがある、大好きな人と、これからも一緒に人生を歩んでいこうと思いました」と語りました。
そのほか、「行けないけれど、想いを届けたい」と、ノンバイナリーの方や、関西や海外のトランスジェンダーの方、アライの方などから、トランスジェンダーが置かれている状況の理不尽さを訴える8通のメッセージが送られてきたそうです。頼さんはそれらのメッセージも心を震わせながら読み上げました。
デモの開催を通じて、現行法の性別変更要件がおかしいと思っている人はたくさんいると、希望を感じたといいます。
「いまだに差別は根強く、デモに参加したくても、来られない人もいる。そんな人の思いがかき消されないように、性別変更要件が撤廃されるまで、声を上げ続けます」
参考記事:
「未成年の子なし要件は合憲」に抗議のデモ。「誰もが最初から気づくわけじゃない」
https://nordot.app/843819280185065472?c=426126268348957793
「親が性別変更しても、子どもに悪影響はない」子育て中のトランスジェンダーらがデモで訴えたこと
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61bbfc58e4b0297da61c692c