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今度の衆院選で、全都道府県の選管が選挙公報の候補者の性別を掲載しないことが明らかに
10月31日投開票の衆議院選挙の選挙公報について、47都道府県すべての選挙管理委員会が立候補者の性別を掲載しないことがNHKの調査で明らかになりました。
総務省は昨年7月1日、プライバシー保護の観点から、国政選挙や自治体選挙の公報などに掲載する候補者の情報を限定・縮小するよう求める通知を、都道府県選挙管理委員会に送付しました。住所については国政候補は居住市区町村まで、地方候補は字(あざ)や町名までとし、番地は記載しないこと、性別、生年月日は掲載しないよう求めています。
今回の衆院選が、この方針を受けての最初の全国規模の選挙となります。NHKは、各地の放送局を通じて、都道府県の選挙管理委員会が候補者の性別をどのように扱うのか取材し、その結果、47都道府県すべての選挙管理委員会が公報に性別を掲載しないと答えました。前回・4年前は、半数程度の選挙管理委員会が掲載していたそうです。
東北大学大学院の河村和徳准教授は、「世の中のトレンドとして、個人情報の保護に敏感になっていて、選挙管理委員会が候補者でも性別などの情報を積極的に出す必要はないと考えるようになったと言える。LGBTの人たちが立候補しやすくなるという点で意味があると言える」とコメントしています。
前回の衆議院選挙では性別を公報に掲載していた北海道の選挙管理委員会の岡部一宏主幹は、「プライバシー保護の観点やトランスジェンダーの方への配慮などを考慮して、できるだけ立候補しやすい環境を整えようという趣旨で、今回の変更に至った。性別などを表記されることで、立候補を控えていたような方がいたとしたら、ぜひ政治への参画を検討してもらえればと思う」と述べています。
すでにトランスジェンダーの北海道議が誕生しているわけですから、衆院選にチャレンジするトランスジェンダーの方が現れてもなんら不思議はありませんし、なかには戸籍上の性別を公表したくない方もいらっしゃることでしょう。選挙公報には性的指向は掲載されておらず、LGBの方は特に性的指向を公表することなく立候補できましたが、トランスジェンダーの方が立候補するためには戸籍上の性別の公表というカミングアウトの強制(事実上のアウティング)が伴っていた、つまり人権侵害とも言えるハードルを課されていたわけで、今回の施策は、そのような理不尽なハードルを取り払い、不平等を解消する取組みだと言えます。決してトランスジェンダーへの"行き過ぎた配慮"や”特別扱い"などではありません。
なお、この件を報じたNHKの記事が、東北大河村准教授のコメントの「LGBTの人たちが立候補しやすくなるという点で意味があると言える」をリード文にフィーチャーしていることもあり、SNS上では「LGBは関係ないだろう」という批判の声が上がっています(北海道の岡部氏は「トランスジェンダーの方への配慮」と述べています)。また、「女性議員の比率を上げるという話はどうなるのか。性別を把握できないではないか」といった批判の声がたくさん上がっています。
トランス男性の活動家・遠藤まめたさんはこの記事について、「選挙公報にはわざわざ載せないけど性別にまつわる統計は当然とっている。女性政治家を増やすのと候補者の個人情報をまもることの両方をやろうという話(そもそも大半の有権者は選挙公報の性別記載を見て、候補者の性別を把握するわけじゃない)」とコメントしています。
昨年から今年にかけて公に不要であると認められた履歴書の性別欄についても、何十年も前からトランスジェンダーのカミングアウトの強制(アウティング)につながるとして廃止を求める声が上がってきましたが、企業が(女性活躍推進のために)女性の比率を把握するうえで性別欄が必要だと主張してきたことが、実現を妨げてきた側面がありました。そもそも、男女雇用機会均等法では、「男性だから採用する、女性は採用しない」などと性別を採用の判断に用いること自体が禁じられています。採用に際してジェンダーバイアスを取り除くことこそが重要なのです。こちらの記事で、性別がわからないブラインドオーディションを行なった結果、女性の合格率が50%も上がったという事例が紹介されています。履歴書の性別欄がなくなることで女性の採用が今より減ることはなく、むしろ個人の能力が適正に評価されることで採用される女性が増えるのではないでしょうか(高校や大学の入試での女性の足切りの問題も思い出されます)
このように、女性の活躍を推進することと、トランスジェンダーのプライバシーを守ることは、ジェンダーをめぐるバイアス・偏見・差別をなくすという点で一致しており、なんら矛盾しません。性別欄の話に限らず、あたかもトランスジェンダーへの"行き過ぎた配慮"が女性の権利を侵害するかのような言説が(特にインターネット上で)見られますが、本当にそうなのか、よくよく考えてみる必要がありそうです。
参考記事:
衆院選 47都道府県の選管 候補者の性別 公報に掲載せず(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211016/k10013310311000.html