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バイデン大統領が、トランプ政権時代のトランスジェンダー入隊禁止措置を撤回しました
バイデン大統領は25日、トランスジェンダーの米軍への入隊を再び認めるよう命じる大統領令に署名し、トランプ前大統領が指示した入隊を禁じる措置を撤回しました。
もしかしたらLGBTQが軍隊に入隊することを喜ばしいニュースとして報じることに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
以下、LGBTQの従軍の可否をめぐる闘いの歴史を簡単にひもといてみます。
1993年、当時のビル・クリントン大統領は同性愛者の従軍を認めようと(完全な平等を実現しようと)しましたが、米軍上層部と議員の反対に遭い、同性愛者であることを公言しないかわりに入隊を認める、いわゆる「Don't Ask, Don't Tell(訊かざる、言わざる)」政策を取ることで妥協しました。以降、カミングアウトした約1万4000人のゲイやレズビアンが除隊処分を受けたといいます。
LGBTQコミュニティはDADT政策という事実上の同性愛者従軍禁止規定に反対し、職業上の差別の撤廃を求めて運動を続けました(同性婚実現以前の最も大きなイシューでした)
レディ・ガガは2010年のMTVアワード授賞式(かの有名な生肉ドレスを着たイベント)で、たくさんのカメラがセレブの到着を今か今かと待ちかまえているホワイトカーペットに、軍服に身を包んだ4人のゲイ&レズビアンの兵士を伴って登場したり、自身の公式サイトでDADT政策の撤廃を訴えるなどしました。
DADT政策の撤廃を大統領選の公約に掲げたオバマ大統領は、軍関係者からの反発や、連邦上院議会(国会)での反対にもめげず、粘り強い努力を続け、2010年12月、ついに上院で採択され、米軍での同性愛者差別に幕が下ろされました。国防総省は制度変更などの準備作業を進め、翌2011年9月、米軍の同性愛者排除規定が正式に撤廃されました。
一方、米軍で働くトランスジェンダーの人々もまた、トランスジェンダーだと発覚すると、除隊を命じられたり、再入隊を禁じられたり、昇進できなかったりなどの差別を受けていました。
2019年のレインボー・リール東京で上映された映画『トランスミリタリー』では、米軍で働くトランスジェンダーが15000人もいて、軍がトランスジェンダーの最大の雇用先になっている(トランスジェンダーが一般の企業でなかなか雇ってもらえないため)こと、トランス男性の中には、軍でこそ「男として扱ってもらえる」「自分らしくいられる」と感じる方もいることが描かれていました。
従軍トランスジェンダー団体は、軍高官や政府機関に対してロビーイングを行い、その粘り強い対話のおかげでオバマ政権下の2016年7月、正式にトランスジェンダーの従軍禁止措置を撤廃、すでに軍務に就いているトランスジェンダーは性自認を隠さずに任務に当たることができ、1年以内にトランスジェンダーであることをカミングアウトしている人が新たに入隊することも認めるとされました。また、性別移行に関連する医療費も国防総省が負担することになりました。
この感動的な発表から1年が経った2017年7月、トランプ大統領は「トランスジェンダーの従軍を禁止する」と発言、各方面から一斉に非難の声が上がりました。幸い、訴訟が起こされ、裁判所の指示で従軍禁止命令は保留とされました。2018年公開の『トランスミリタリー』では、とりあえず除隊は免れたものの、安心して働き続けられるかどうか不安な状態が続き、「いつ除隊になるかわからないから子どもを作れない」「将校になる道が閉ざされた」と語られていました。
2019年3月には、国防総省が性別適合手術を受けた人やこれから受ける意向の人の新規入隊を禁止し、ほとんどの兵士に出生時に決められた性に基づいて勤務するよう求める新方針を明らかにし、民主党や人権団体から非難を浴びていました。
そして今、バイデン大統領が再び、トランスジェンダー差別をやめ、安心して働けるように保証してくれたということなのです。
バイデン大統領は25日、ホワイトハウスでハリス副大統領とオースティン国防長官を前に大統領令に署名し、「資格がある全てのアメリカ国民が制服を着て国に奉仕できるようにする」と語りました(署名後、Twitterに「入隊資格がある全ての人がプライドを持ち、堂々と軍務に就くことができるほうが、アメリカはより安全になる。非常にシンプルな話だ」と投稿しました)。大統領令では、国防長官と国土安全保障長官に対し、トランスジェンダーを含めて資格を満たす人の米軍や沿岸警備隊への入隊を認めることや、性自認にもとづく除隊などの差別的な扱いを直ちにやめること、性自認を理由に除隊となったり、再入隊できなかったりした人の調査、60日以内に実施状況を報告することが命じられています。
これについてホワイトハウスは声明で「自身の性に対する認識が入隊の妨げとなるべきではない」「資格要件を満たしたすべての国民による軍務を認めることは、軍と国家にとって有益で、国益にかなうことだ」「バイデン大統領はアメリカの強さは多様性のなかにあると信じている」と発表しています。
オースティン国防長官も声明で「大統領の指示を全力で支える。自認するジェンダーにかかわらず最良の才能を活用すべきだ。正しいだけでなく賢い措置だ」と強調しました。
人権団体「トランスジェンダーの平等を求める全米センター」のマラ・キースリング事務局長は、「新大統領はトランスジェンダーの米国民が公平に、敬意を持って遇され、差別の恐怖なく生きられるよう保証するという決意をはっきり示した」と評価しています。
なお、オースティン国防長官は黒人として初めて国防長官に起用された人物です。
オースティン国防長官は就任した翌日の23日、国防総省幹部に対し、米軍部隊内の性的暴行を防ぐ計画が機能しているかどうかを検証するよう、指示しました。米軍内の性的暴行の報告は2006年以降、増加しており、2018年は前年比13%、2019年は前年比3%増加しています。今月19日に上院軍事委員会で開かれたオースティン氏の人事公聴会で、議員から対策強化を求める声が上がり、オースティン氏は初日から取り組むと約束していました。
参考記事:
バイデン新政権 製造業や労働者支援へ 具体的な政策を打ち出す(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210126/k10012833001000.html
米バイデン大統領、トランスジェンダーの軍入隊禁止を撤回(TBS)
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4182918.html
米 トランスジェンダーの入隊認める大統領令(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000205152.html
米軍、トランスジェンダー容認(共同通信)
https://this.kiji.is/726566039855710208?c=39546741839462401
米軍にトランスジェンダー容認 前政権の方針転換―バイデン大統領(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012600159
バイデン氏、トランスジェンダーの米軍入隊禁止を解除(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25CNW0V20C21A1000000
トランスジェンダー米軍入隊容認(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210126/dde/007/030/016000c
「すべての人を包み込み、アメリカは強くなる」 トランスジェンダーの軍入隊を容認 バイデン政権が示した決意(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/82166
バイデン氏、トランスジェンダーの米軍入隊禁止取り消す大統領令に署名(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/usa-biden-military-transgender-idJPKBN29U2KX
軍内の性的暴行、防止計画検証を オースティン米国防長官が指示(共同通信)
https://this.kiji.is/726328093403299840?c=39546741839462401