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同性愛を描くドラマの紹介に「レズビアンの男性役」との見出しをつけた記事に対し、批判が噴出
8月29日、MANTANWEB(まんたんウェブ)※に、「吉田凛音:「レズビアンの男性役難しかった」ショートドラマ『彼女のカノジョ』」という見出しの記事が掲載され、SNSで当事者の方などから批判が噴出しました(現在は、「吉田凛音:新田桃子&宮下かな子&山口貴也とショートドラマ「彼女のカノジョ」」という見出しに修正されています)
※「MANTANWEB(まんたんウェブ)」は、もともと毎日新聞のニュースサイト「毎日jp」内のアニメ・マンガ・ゲームの総合情報サイト「まんたんウェブ」だったのが、2010年から株式会社MANTANが運営するポップカルチャーの総合情報サイトとなったものです。
記事は、YouTubeのドラマチャンネル「僕等の物語」で配信中のショートドラマ「彼女のカノジョ」について、出演している吉田凛音さん、新田桃子さんら4人の俳優にインタビューしているものです。
「彼女のカノジョ」は、吉田さん演じる早川凪と、新田さん演じるゆーこの同性愛関係などをコメディタッチで描くもので、吉田さんは「初めての役柄で、今後もないのではという思いで演じた」「普段から男っぽいとは結構言われますが、それをいかに映像内で表現するかは大変だった。ただ演じてみてすごく楽しかった」と、ゆーこ役の新田さんは「(凪とゆーこの)2人がカップルでも私は女の子だったので、わりと普通の生活と変わらないというか、台本を読んだ際、性別が違うだけで好きとか嫌いという気持ちは変わらない。そこは素というか、好きな気持ちはそのままで演じた方がやりやすいのかなという印象は受けました」と語っています。
それから、「同性愛をはじめ、現代社会に通じるさまざまなテーマが盛り込まれた本作を、特にどのような人たちに見てほしいか」について、新田さんは「台本を見ても(凪とゆーこの)2人が周りを気にして会話を始める、とあり、まだ浸透していないというか、LGBTの方たちに対しての理解力というのがまだちょっと少ないのかなって」と語り、「改めて作品を通して『みんな同じように恋しているんだ』とか『同じ気持ちで生きているんだ』というのと同時に、女性だと妊娠とか浮気とかもそうですけど不安になる部分が多いので、そこも一緒に見てわかっていただけたらうれしい」と語っています。
この記事がTwitterで拡散されると、「レズビアンの男性役難しかった」という見出しに対して「「レズビアンの男性」ってなんですか?」といった批判が噴出しました。(海外では「ゲイ」という言い方で男性どうし、女性どうしの関係も言い表されることがありますが)「レズビアン」は女性どうしの関係であり、「レズビアンの男性」という表現はありえないからです。
それから、記事の内容に関して、カップルを演じているお二人が、いわゆる男役/女役を前提としている様子がうかがえ、問題視されました。
「同性カップルが「男性役」と「女性役」で成り立ってると思っているのね、もういつの時代の偏見ですかーって。それを2020年にやってしまうなんて……」
「レズビアンカップルが「女性役」/「男性役」で成り立っているというような異性愛規範に基づく思い込みを広めるのはやめた方がいいと思う」
「「男性役」「女の子」と未だに言われている点で、セクシュアルマイノリティへの無理解だけでなくジェンダーロール強化の話につながる」
「「LGBTの方たちに対しての理解力が少ない」の直後に「みんな同じように恋している」だったり「女性も男性も幅広く見ていただきたい」だったりが出てきて、表層しか認識していないことが露呈してしまっている」
そして、問題は演じている俳優さんの「LGBTの方たちに対しての理解力」が足りないということよりも、製作側の問題ではないかと指摘されました。
「制作スタッフは、役者にそういう説明をしたのだろうか?だったらこれ、制作側が全然ダメ。何にもわかってないスタッフによって作られた作品なんて、見る価値ないなぁ、って思う。せめて作る側には、キチンとした知識を共有してもらいたい」
「製作陣のメディアでの無理解な発言は、当然そのまま作品の内容自体がそれ相応のものであると見なされうる」
「最低限、性的少数者(LGBTQ)はどんな人たちなのかという研修は、全出演者、スタッフにした方がいいと思う」
こうした批判の声を受けて、MANTANWEBは、見出しから「レズビアンの男性役難しかった」というフレーズを削除する対応を行いました。
しかし、それだけでは根本的な解決にはならず、指摘が上がっているように、問題は、このドラマの製作スタッフがLGBTQを取り扱うのにきちんとLGBTQのことを理解せず、自らの偏見や思い込み(異性愛規範)をそのまま垂れ流すような作品づくりをしてはばからない不誠実さにあります。(ヴァンパイアに噛まれて同性愛者になる人が続出し、異性愛者の主人公が、人間の敵(悪)である同性愛ヴァンパイアたちを退治するという、驚愕のホモフォビア映画もありましたね…)
LGBTQ作品を紹介する記事にまつわる問題としては、つい最近、こういう出来事もありました。
8月26日に『東京スポーツ』紙が、草彅剛さんがトランス女性を演じた映画について紹介する記事で、「強烈!草なぎ剛が〝女装オネエ〟に 主演映画で見せた進化と「母の顔」」という見出しをつけ、内容的にも、トランス女性を真剣に演じている草彅さんの演技について「女装姿に思わず噴き出しそう」「いわゆる世間一般で言う“オネエ”」、さらに「ねえ、アンタさぁ~」などの言い回しに対して「オネエ言葉を連発」「バラエティ番組でのコントのようにも感じそう」などとコメントするという、ひどいものでした。
SNSでは「トランス女性に対する侮蔑的な言葉」「日本特有の「オネエ」という呼称に起因する地獄が、全て詰まっている」「トランスジェンダーを理解する気ゼロの記事でつらい」などの批判が噴出しました(詳細はこちら)
また、今年4月、「トランスジェンダー」であるとされるミュージック・ティーチャー御手洗先生が話題になったNHK朝ドラ『エール』について、御手洗先生を演じた古川雄大さんが「御手洗はトランスジェンダーなので、演じる時には“同性が好き”ということを誇張しすぎないように意識しました」と語るインタビュー記事(例えばこちら)が何のチェックも受けずに多くの媒体に掲載され、やはりSNSで「性自認と性的指向が別であることがわかっていない典型的な勘違い」と批判されていました。
どなたかもおっしゃっていたように、LGBTQを取り扱うドラマや映画の製作に携わるスタッフの方たち、出演者の方たち、そうした作品を紹介するメディアの方たちは、最低限、LGBTQ(性的マイノリティ)についての研修を受けていただきたいです。LGBTQはテレビ的な「オネエ」イメージと同じではないということを知り、「世の中は男/女しかいない」「恋愛は男女でするもの」という思い込みや偏見を払拭し、性の多様性について理解していただきたい。それが現に生きている(全国に何百万人もいる)LGBTQへの最低限の礼儀ではないでしょうか。
参考記事:
トランスジェンダーを女装オネエと表現 東スポ記事に非難殺到(女性自身)
https://jisin.jp/entertainment/entertainment-news/1889425/