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米フィギュア連盟とスケートカナダがLGBTQ支援を表明しました
今年のプライド月間に、カナダフィギュアスケート連盟(スケートカナダ)、全米フィギュアスケート連盟(USFSA)が相次いでLGBTQ+コミュニティへのサポートを公式に表明しました。
スケートカナダは公式サイトにレインボーカラーで「HAPPY PRIDE MONTH」と書いたバナーを掲示し、「Eight Ways to Make Skating More Inclusive to the LGBTQI2S Community(スケートをもっとLGBTQにとってインクルーシブなものにるための8つの方法」をはじめ、いくつかのLGBTQ関連のコラムを掲載しました。LGBTQが孤立することなく、安全だと感じることのできる環境づくりのための心得として、相手の言葉に敬意をもって耳を傾けること、悪意がなくても本人の同意なしに噂を流したりしないこと(アウティングしない)、差別を暗示する言葉遣いを避けることなど、8つの項目が紹介されています。
カナダでは1998年に、現在は羽生結弦さんのコーチを務めていることで知られるブライアン・オーサーが、元パートナーから訴えられ、ゲイであることがアウティングされるという事件がありました。当時オーサーはプロスケーターとして活躍していましたが、「これでもう自分のキャリアは終わったと思った」そうです。しかし予想に反して、好意的なサポートのメッセージが、ファンや関係者たちから山のように届き、本人がとても驚いたと語っています。
カナダではほかにも、カルガリー五輪アイスダンス銅メダリストのロバート・マッコール、70年代に6回カナダタイトルを手にしたトーラー・クランストンなど、ゲイであることが知られていたチャンピオンがいます。近年では平昌五輪ペア銅メダリストのエリック・ラドフォードが、同性婚をして養子を育てていることも、好意的なニュースとして受け止められました。
※2S:カナダでは、LGBTを表記する際、2S(two spirit)を書くことが一般的になっています。「インディアン・カントリー・トゥデイ」紙によると、カナダの先住民の社会では「女性、男性、two spiritの女性、two spiritの男性、トランスジェンダー」の5つのジェンダーがあるとされています。two spirit(二つの魂を持つ者)は、自分の体に「女性の魂と男性の魂が同時にある」と感じている人や、一般的に「男らしい男」「女らしい女」というのとは違った、男らしさ・女らしさをを持つ人と考えられています。ある時は女性の格好、ある時は男性の格好をして生活する人もいました。彼らは先住民社会では決してマイノリティではないばかりか、むしろ尊敬される存在として、様々な社会的役割を担っていました(ヒーラーであったり、預言者であったり、伝説や歌を口承する人であったり、結婚の仲介をする人だったり)。しかし、カナダにやってきたヨーロッパ人たちは、まずトゥースピリットの文化を破壊し、隠蔽しようとしました。彼らは先住民に、男女どちらかの性で生きることを強制したため、それに従えない人々は隠れて暮らしたり、命を絶ったりすることとなりました(詳細はこちら)。このような迫害の歴史を、ジャスティン・トルドー首相は2017年、涙ながらに謝罪しました。
一方、全米フィギュアスケート連盟は、これまでずっと、選手たちが公にカミングアウトすることを歓迎していませんでした。アメリカにおいてフィギュアスケートは「健全な」ファミリーエンターテイメントであり、ファンのほとんどが女性と子どもたちであり、スポンサーはアスリートに「社会の理想的モデル」であることを要求しました。性的指向に関しては「聞かない、言わない」というのがこれまでの連盟の基本姿勢でした。しかし、社会の変化と共に、そんな連盟のスタンスも時代遅れになりました。
6月25日、「Out on the Ice: Figure Skating’s LGBTQ+ Community Has a Story to Tell -- And Many Chapters to Still Write(氷上のカミングアウト:フィギュアスケートのLGBTQコミュニティには語るべきストーリーがあるーそしてこれから多くの章が書き加えられる)」というコラムが連盟の公式サイトに掲載されました。
このコラムに登場するのは、元全米チャンピオンのアダム・リッポン、ジョニー・ウィアー、2002年ソルトレイクシティ五輪銅メダリストのティモシー・ゲイブル、1988年カルガリー五輪チャンピオン、ブライアン・ボイタノなどで、それぞれの選手の思いと、個人的な体験などが綴られています。
1996年全米チャンピオンのルディ・ガリンドは、ゲイであることをオープンにした史上初の全米男子チャンピオンと言われました。が、タイトルを手にして間もなく、連盟からゲイであることを公に語らないように要請されたといいます。
元全米チャンピオンのジョニー・ウイアーは現役時代、連盟関係者たちに「もっと男らしい衣装を着るように」「手首は曲げずにまっすぐ保つように」などと言われ続けてきたといいます。
2017年に同性のパートナーと結婚したティモシー・ゲイブルは、2006年に引退するまで、カムアウトしませんでした。「当時はそういう時代だった。競技に出ていた頃にアウトしていたら、自分が成し遂げた業績を達成することは到底無理だったと思う」とゲイブルは語っています。
現在は料理番組などでも活躍するブライアン・ボイタノは、引退後も長い間自分のセクシュアリティを公にしませんでした。長身で力強い滑りをするボイタノは、男子スケーターの中でも、美しさより強さを売りにする選手でした。しかし、彼がゲイであることは関係者の間では周知のことでした。「でも自分の身内以外に、告白しようとは全く思っていませんでした」と言うボイタノが、公にアウトしたのは、2014年ソチ五輪の米国代表団に選ばれたときのことです。ご存じのように、当時、ロシアはアンチ同性愛の法律を制定したばかりで、国際社会から非難を浴びていました。オバマ大統領は開会式をボイコットし、そして、ブライアン・ボイタノや、レズビアンのレジェンド、ビリー・ジーン・キングらをを代表団として派遣することで、抗議のメッセージとしました。
それから、上記のコラムの中では、女子シングルのアンバー・グレン、そしてアイスダンスのカリーナ・マンタなど、バイセクシャルであることを公にした女子スケーターのインタビューも掲載されています。
2018年にカミングアウトしたマンタは若い頃、レズビアンやバイセクシャルの女子スケーターの前例はないのかと、必死で検索をしたといいます。「前例がないことで、自分は存在してはいけないのかと感じていた」という彼女にとって、村主章枝さんがバイセクシャルであるとカムアウトしたことが心の支えになったんだそうです(まさかの村主さん。実は世界的に見ても貴重なカミングアウトだったんですね!)
全米フィギュアスケート連盟の広報担当、バーバラ・レイシャ―トは「私たちは、LGBTQ+のメンバーとファンにとって安全な場所を提供できるよう、努力を続けています。お互いの意見と貢献、心身の健康を尊重し、スケートコミュニティの中で双方が成長できる良い関係を築いていきます」
『Number』の記事は、「世界には、「自分は異常なのか」「存在してはいけない人間なのか」と悩むレズビアン、ゲイ、バイセクシャルの若者、子供たちが大勢いる。時にはそのことを理由にいじめに遭い、周りから疎外されて追い詰められていくケースもある。子供たちが憧れるスポーツの団体が、そういう人々にも安全な居場所を与えて、自分らしく生きながら差別されることのない社会を、と呼びかけることは将来に向けて大きな意義があることに違いない」と締めくくられています。
LGBTQがカムアウトしづらいと言われるスポーツ界で、こうして少しずつ、LGBTQ支援の動きが広がってきているのは、素晴らしいことです。今年のプライド月間、まだまだ素敵なニュースが届くかもしれないですね。
参考記事:
米フィギュア連盟のLGBTへの姿勢。「聞かない、言わない」から変化が。(Number)
https://number.bunshun.jp/articles/-/844156