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EUが、LGBTQを差別するポーランドの自治体の補助金申請を却下しました
欧州連合(EU)は7月28日、「LGBTフリーゾーン(排除区域)」宣言を発してLGBTQの権利を抑圧しているポーランドの6つの自治体がEUに行った補助金申請を却下しました。
ポーランドでは、こちらの記事でお伝えしたように、国土の約3分の2にあたる80以上の自治体が「LGBTフリーゾーン(排除区域)」を宣言しています。これらの地域では、多様性への寛容を説く行為や、平等を推進するNGOなどへの資金援助が禁じられています。
昨年には、ポーランドのIKEAが「同性愛者は殺されるべき」と社内イントラに書いた従業員を解雇したことに対し、司法長官が「間違いなくスキャンダラス」だとして検察に捜査を命じ、与党議員が呼びかけて全国的なボイコットに発展するというひどい事件がありました。約1年の調査の末、今年5月、検察はIKEAの人事部長を、従業員の「宗教上の権利」を冒したとして告発しました。告発状では「良心、宗教、表現の自由を保障するポーランド憲法に違反している」と述べられていました(詳細はこちら)
手をつないで歩いていた女性カップルが後ろから来た車の男に「このレズビアンめ」と罵倒されたり、ゲイバーの前で立ち話をしていた男女が、知らない人から棒で殴られる事件もあったといいます(詳細はこちら)
こうしたアンチLGBTQの動きを後押しているのは、LGBTQを「イデオロギー」「外国からの良くない影響」「伝統的価値観を脅かす」と攻撃してきたアンジェイ・ドゥダ大統領と与党「法と正義(PiS)」であると見られています。先日の大統領選に際してドゥダ大統領は、保守層へのアピールとして性的マイノリティについて学校など公的機関で教えることを禁止する文書や同性愛者の養子縁組を禁じる法案に署名しました。ジャーナリストのアンジェイ・スタンキェビッチ氏は「PiSにとって、性的マイノリティの問題は勝つために利用できる材料の一つ。新たな敵を見つけては攻撃する手法で、人々を分断してきた。社会から多様性が失われていくのが心配だ」と語っています。
大統領選の結果、リベラル派でLGBTQ支援を訴えてきた元ワルシャワ市長のラファル・チャスコフスキ氏は、健闘むなしく、僅差でアンジェイ・ドゥダ氏に敗れました。
EUは、2000年、EU加盟国に対して雇用と職場での性的指向にもとづく差別を禁止しています(EUはEU法の一つとして、加盟国への法的拘束力があるEU指令を出すことができます)。これにより、LGBTQの求職者を採用に際して不平等に扱うことや、LGBTQの従業員に対してからかい、ののしり、嘲笑などの行為を職場で行うこと、さらに、昇進させない、研修を受けさせないというような差別的扱いを含め、雇用と職場での待遇について、性的指向を理由とした一切の差別やハラスメントを禁止する国内法の整備が全加盟国に対して求められました。
同じく2000年に公布された欧州連合基本権憲章第21条には、「性別、人種、肌の色、民族的社会的出自、遺伝的特徴、言語、宗教・信条、思想、国内少数民族出身、財産、出生、障害、年齢などの理由による差別」の禁止とともに「性的指向による差別」の禁止も明記されています。憲章に違反している場合は欧州裁判で追及される可能性があります。
EUはさらに、差別禁止のための決議や勧告、中長期行動計画とアクションリストの作成、全加盟国への実態調査などを実施し、調査結果に基づいてLGBTQの人権についての授業の導入や、ヘイトクライム禁止法の制定、警察官へのヘイトクライム取締り研修などの実施を勧告してきました。ここ数年は、LGBTI人権年次報告書を発表するほか、ソーシャルメディアツールキットの作成、情報ネットワーキング、市民団体とのコラボレーションなど、理解促進のための各種プログラムを行っています。
2014年5月17日(国際反ホモフォビア・トランスフォビアデー)、キャサリン・アシュトン前EU外務・安全保障政策上級代表は、「EU加盟国は、各国の文化的、伝統的、宗教的価値観に基づくものであっても、LGBTI人権を侵害する言動は許されません。LGBTIの人々の集会の権利、表現の自由は守られるべきです」と述べました。
2019年2月には、今後5年間の「LGBTIの未来 アクションリスト(2019-2024)」を決定し、性自認の法的手続きを人権侵害なく適切に行うことや、同性カップルの家族の保護など、新しい課題についても行動することを呼びかけています。
ポーランドは2004年にEUに加盟しましたが、2015年にアンジェイ・ドゥダが大統領に就任して以来、アンチLGBTQの動きが強くなってきたため、EUは非難や警告を発してきました。EU議会は昨年12月、「LGBTフリーゾーン」の台頭を非難し、欧州憲法に明記されている「性的指向による差別の禁止」の遵守を求めました。また、ポーランドに対するさらなるモニタリングを行うことが提案されました。
今年6月には、欧州委員会が、ポーランドにおけるコロナ禍の現状に鑑み、特別な支援金の供出を検討するにあたって、LGBTフリーゾーン宣言を発している自治体に対して警告文を発し、LGBTQの雇用を拒むような企業がないかどうかなどの検証を行い、新しい「差別の撤廃と平等の推進の方針」を採用することを求めていました。
こうした流れの延長線上に、今回の補助金の申請の却下があります。
共同通信の記事では「地域交流のための補助金」とされていますが、補助金の申請が行われたのは「Europe for Citizens」という、EUと欧州市民の間のギャップをなくすことを目指し、欧州市民がEUの歴史や多様性を理解し、民主的な参加ができるよう、議論を促すようなプログラムです。EU内の127の自治体から申請があり、その内ポーランドは8自治体でした。却下された6自治体がどこであるかは明らかにされていません。ちなみにポーランドはEUからの各種補助金の最大の受益国だそうです。
EUの平等問題担当閣僚に当たるヘレナ・ダッリ欧州委員は、「EU加盟国では、EUの価値観と基本的人権が尊重されなければなりません」と述べました。「それが、『LGBTフリーゾーン』を採用している6つの自治体の申請が却下される理由です」
欧州委員会のスポークスマンは、「Europe for Citizensプログラムとの提携を求める自治体は、すべての欧州市民がジェンダーや人種、宗教、障害の有無、年齢、性的指向によって差別されずにアクセス可能であることが必須要件です」と述べました。ポーランドの6自治体は、このプログラムの「差別の撤廃」という趣旨に違反しているのです。
参考記事:
EU、LGBT差別で補助金却下 ポーランド申請に異例の対応(共同通信)
https://www.47news.jp/news/5073178.html
EUは「性的少数者のディフェンダー」をめざす|ヨーロッパで進む理解と差別禁止(後編)【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編12】(サライ)
https://serai.jp/living/367805
EU funding withheld from six Polish towns over 'LGBTQ-free' zones(Euro News)
https://www.euronews.com/2020/07/29/eu-funding-withheld-from-six-polish-towns-over-lgbtq-free-zones
EU sends thinly-veiled funding threat to Poland over its heinous homophobia(Pink News)
https://www.pinknews.co.uk/2020/06/18/poland-lgbt-free-zones-homophobic-eu-funding/