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デンマークのLGBTの69%が職場でカミングアウト、78%が職場での幸福度が高いと感じているそうです
デンマークではLGBTの69%が職場でカミングアウトしており、78%が職場での幸福度が高いと回答しているそうです。日本よりもはるかにLGBTにとって働きやすい職場職場になっていると言えそうです。
ビジネスメディアAMP[アンプ]に、デンマークのエネルギー庁で働くオープンリー・ゲイのオノ・フォラスさん(27歳)が当事者の視点で「LGBTの人たちが働きやすい職場」について語った記事が掲載されていて、たいへん興味深いものがありましたので、ご紹介します。
まず、法制度や政策における先進性ということが大きいようです。
デンマークは1989年に世界で初めて登録パートナーシップ制度(同性カップルが登録することで、結婚に認められているなかの一部の権利が認められる制度)を導入しました。他の北欧諸国と同様、結婚の平等(同性婚)も早い時期から実現してきました。近年、デンマークでは平等担当大臣が、LGBTをはじめとした平等分野の問題に対して解決策を講じたり、関連する活動・プロジェクトを実施、あるいは支援したりして、ジェンダーの課題を解決に導いてきたといいます。2017年からは、その動きがさらに加速しています。
2019年8月に、平等担当大臣からの依頼でデンマークの研究機関が調査した結果は、以下のようになっています。
<デンマークで働くLGBT約1400人への調査結果>
職場での幸福度が高いと回答:78%
職場でカミングアウト済であると回答:69%
職場で性的指向をオープンにすることが「ある程度ならできる」「あまりできない」「まったくできない」と回答:27%
職場で性的指向による差別にあったことがあると回答:8%
この結果を受け、平等担当大臣は「カミングアウトできていない」31%の人たちに着目し、「まだ目標を達成していない」と述べたそうです。大臣は、すべてのLGBTがカミングアウトできる社会でなければいけないと考えるからです。
日本では、職場でカミングアウトできている人が約1割(厚労省が実施した職場におけるLGBTの実態調査)、職場での幸福度が高いと回答している人が約3割(nijiVOICE2020:特定⾮営利活動法⼈ 虹⾊ダイバーシティ、国際基督教⼤学ジェンダー研究センター 2020)に留まっており、その差は歴然としています。
法制度や政策の面での先進性のほかにも、働きやすさにつながる要因があるでしょうか?
フォラスさんは「デンマーク人は、基本的に人の生活に善し悪しをつけない個人主義の国なんです。例えば、政治家が浮気をしたとしても、それが辞任にはつながらないと思います。浮気は私生活の問題であり、仕事の才能や能力の問題ではないからです。他人の生活に口出しするのはタブーという価値観が古くからあります」と語ります。
「さらに、同性婚の法律が整備されたり、LGBTの権利向上を目指すプライドパレードが毎年開催されたりすることで、よりLGBTを受け入れる風潮が高まってきているように感じます。毎年、夏に行われるプライドパレードは大きな盛り上がりを見せており、2019年には約4万人がパレードに参加(行進)しました。道沿いでパレードを観ていた観客は30万人にも上ります。自宅の窓から手を振って参加した人もいますし、首都の住民はほとんどの人が目にしたのではないかと思います。近年は首相がパレードに参加することもあり、コペンハーゲンではLGBTが広く受け入れられている印象ですね」
フォラスさんは、同僚と雑談しているときに、ごく自然な流れでカミングアウトしたそうです。「週末はどこかに出かけた?」「彼氏と一緒に遊びに行ったよ」という感じで。そうしたら、「そうなんだ」と相手は自然に受け入れてくれたそうです。
フォラスさんは、「カミングアウトしやすい職場には共通する2つのポイントがあると思う」と語っています。
1つは、社内にフランクな雰囲気があること。「メンバーたちが友人どうしのように仲が良く、ラフなコミュニケーションができることは、言いづらいことを伝える上で非常に重要です」
もう1つは、LGBTへの理解度が高いこと。「私の場合は、環境省やエネルギー庁など行政機関で働いているので、同僚にもLGBTの人がたくさんいるし、そもそも理解が浸透しているんです」「私の場合は、入庁面接の段階で多少自分のパーソナリティを見せて、そのときの面接官の反応が良かった職場を選びました。面接時にLGBTだと伝える必要はありませんが、少し反応を試してみることは、LGBTの人たちに必要な気がします」
LGBTの理解を深めるために、職場内にLGBT関連の制度を作る必要はあると思いますか?という質問に対し、フォラスさんは、
「制度を作るのは問題があるからですよね。制度を作らなくても問題が起きないのがベストな状態だと思います。ただ、どうしても対策が必要だと感じたら、制度を作ってLGBTを受け入れる体制を作るというのはアリかもしれません。もっとも良くないのは、職場に問題があるのに、トップの意向により制度を作ることを避ける状態ですね」と語っています。
カミングアウトを受けたとき、免疫がないとどう反応していいかわからない、どこまで聞いていいのか悩んでしまう人もいるかもしれませんが、という質問に対しては、「どこまでオープンに話したいかは人それぞれですが、LGBTの人に質問するときに目安にしてほしいのは、「LGBTではない人にも同じ質問をするかどうか」です」と語っています。「例えば、親しい間柄の同僚なら「恋人はいますか?」「普段、恋人とどんなところでデートしますか?」などとフランクに聞けると思いますが、「あなたの恋愛関係では、どちらが男性でどちらが女性の役割ですか?」とは聞かないですよね」
ほかにも、デンマークのほとんどの職場には、職場委員と呼ばれる労働組合の職場担当者を務める社員が存在していて、もし職場内で解決が難しい問題が起こったら、彼らを通じて労働組合のサポートを受けて解決を図ることができる、ということも、LGBTの働きやすさにつながっているようです。
「それよりも大事なのは、その国の過半数の国民がLGBTを理解しているかどうか。過半数以上が受け入れていれば、差別をした企業側が悪者になりますし、職場での日常生活においては差別する側が少数派になります。デンマークのようにLGBTフレンドリーな国で、もしジェンダーの差別問題が起こったなんて新聞にでも載ったら、その企業は世間からバッシングを浴びることになるでしょう」
まず社員をマネジメントする立場である管理職の社員がLGBTへの理解度を深めるためにおすすめのツールはありますか?との質問に対してフォラスさんは、ドラマやドキュメンタリーをおすすめしています。「気軽な雰囲気を好む方には、『Grace & Frankie』というドラマがおすすめめです。ゲイであることを隠して結婚生活を送っていた二人の男性の元妻の離婚後の状況をコメディタッチで描いたドラマです。シリアスな内容を求める方には、1980年代のアメリカを舞台にエイズとの闘いを含むセクシュアルマイノリティの過酷な状況を容赦なく描き、かつ彼らの文化を華やかに紹介する『POSE』がおすすめです。どちらもネットフリックスで鑑賞できます」
よりLGBTの人たちが生きやすい世の中にするために、これからどんな変化が必要だと思いますか?という質問には、「LGBTの中でもゲイは最も受け入れられていると言われていますが、それでもプロサッカー業界、工場作業員、自動車の整備業界などの業界においては理解が進んでいません。ゲイ以外のレズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーは、さらに状況が良くないのが現状です。特にトランスジェンダーの人は差別にあうことが多く、まだまだやるべきことがあると感じています」と答えています。「さらに言及すると、ゲイと一言でいってもすべての人が男性どうしの1対1の恋愛を望んでいるわけではなく、3人で恋愛・家族関係を育んでいる人もいれば、私と彼氏のように、オープンリレーションシップといって、浮気や不倫とは違い、互いの合意のうえで他の相手と恋愛関係や性的関係を持つことを受け入れる関係性も存在し、関係性の定義はカップルによって異なります。ゲイやレズビアンのような同性のパートナー関係や結婚は世間に受け入れられつつあるものの、必ずしも結婚のような関係を望んでいる人ばかりではないと知ってほしいし、それを“おかしいこと”とみなさないでほしいです。どんな人間関係を持つ人でも、それを職場でオープンに話せるような雰囲気があれば、彼らにとって働きやすい職場になるはずです」
このように先進的なデンマークですが、制度面で言うと、同性カップル、特にゲイカップルが養子を迎えることが非常に困難であるという課題も残っているそうです。「デンマークの場合、アフリカやアジアなどから養子を取ることが多いのですが、それらの国はLGBTのカップルにはほとんど養子を与えてくれません。これは、デンマーク側ではどうにもできないことです」
たいへん興味深いお話でした。
職場の一人ひとりの意識や行動で変えていける部分もあるし、法制度や政策など国がやるべき部分もあるということが言えるかと思います。
必ずしもデンマークを真似る必要はないでしょうが、何か参考にできる部分は取り入れていってもよいかもしれないですね。
参考記事:
LGBT先進国・デンマークでは69%が職場でカミングアウト。現地で働くゲイの男性に聞く「働きやすい職場」とは?(AMP)
https://ampmedia.jp/2020/06/20/lgbt-2/