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コロナ禍の影響で治療を受けられずにいるトランスジェンダーの苦悩…「治療拒否は『死』と同じ」
長崎新聞が5月19日、コロナ禍の影響で治療を受けられずにいる県内50代の性同一性障害(GID)当事者の苦悩を記事に取り上げました。
長崎県大村市在住の晃基さん(55歳)は、FtMトランスジェンダーの方で、性同一性障害(GID)と診断され、戸籍も体も男性になろうと昨春、性別適合手術を受けることを決意しました。年齢的にも残された時間は多くなく、晃基さんは「手術は『必要緊急』」と語ります。
晃基さんは福岡県内の病院に月1回通院し、担当医は「年齢のこともあるので手術を急ぎたい」という晃基さんの意志を十分に酌んで、手術のガイドラインに沿ってホルモン治療を施し、順調にいけば今年9月にも手術を受けられることになっていました。
ところが4月上旬、福岡県にも緊急事態宣言が出され、スケジュールは白紙に。しかし、定期的にホルモン治療を受けないと、ホルモンバランスが崩れてしまうことも多いため、晃基さんは県内十数の病院に電話しましたが、どこも診てくれなかったといいます。「理解のある医師がいない。ショックだった」
本来の「ジェンダー」を取り戻すため、県外の病院に通うのは「不要不急」なのか、と晃基さんは何度も自問したそうです。自分が医療従事者の立場なら「自粛するしかない」。仮に感染してしまった場合、「行動経路やジェンダーも明らかにされる」「この時期に性別適合手術なんて、と言われるのが怖かった」
女性から男性への性別変更を望むトランスジェンダーのなかには、周期的な生理が精神的に大きな苦痛になり自死に至るケースもあるといいます。「当事者にとって、手術や治療は時間との闘い。その対応を拒否されるのは『死ね』と言われているのと同じ。せめて死ぬ時は本来の自分でいたい。どうか理解してほしい」と、晃基さんは切実に語ります。
14日、長崎県や福岡県でも緊急事態宣言が解除されましたが、晃基さんの手術の日程のめどは、まだ立っていないといいます。
県内の性的マイノリティ支援団体「Take It!虹」の儀間由里香代表は、「『治療を受けられないか』という医療機関への問い合わせは紛れもないSOS。普段からないがしろにされがちな人たちが、緊急事態においてより困難な状況に追いやられることを痛感した。医療現場や行政機関の理解度を底上げしていくことが必要だ」と語りました。
晃基さんと同様、ロックダウン(自宅隔離制作)の影響で、性別適合手術の遅れや、ホルモン治療やカウンセリングを受けられずにいる人々は世界中にいて、トランスジェンダーは「極めて脆弱な状態に置かれている」と国際的にも問題提起されています(BBC「Coronavirus: Transgender people 'extremely vulnerable' during lockdown」)
先月、GID学会理事長の中塚幹也教授(岡山大学)も、性同一性障害者の自殺リスクに警鐘を鳴らしています。
また、トランスジェンダーに限らず、コロナ禍でLGBTの脆弱性が高まっていると、国連事務総長も警鐘を鳴らしています。
決して「不要不急」などではなく、このような時だからこそ、LGBT(性的マイノリティ)への支援が「必要緊急」なのではないでしょうか。
参考記事:
性的少数者「治療拒否は『死』と同じ」 外出自粛で手術白紙に(長崎新聞)
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=635298479741666401
Coronavirus: Transgender people 'extremely vulnerable' during lockdown(BBC)
https://www.bbc.com/news/world-52457681