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驚愕の同性愛者差別映画が公開され、非難轟々。上映停止を求める署名も
ヴァンパイア(吸血鬼)に噛まれて同性愛者になる人が続出し、異性愛者の主人公が、人間の敵(悪)である同性愛ヴァンパイアたちを退治するという、驚愕の映画『バイバイ、ヴァンプ!』が公開され、SNS上で炎上、上映停止を求める署名も始まっています。
実際に映画を観た方たちによると、以下のようなあらすじです。
全員が同性愛者である中世ルーマニア発祥のヴァンパイア(吸血鬼)が、なぜか茨城県にソドムの街(聖書に登場する、悪徳が栄えた退廃的な街で、神の怒りに触れて滅ぼされた)を作ろうとやって来る。主人公の少年は、実はヴァンパイアと人間のハイブリッドで、クラスメイトが次々にヴァンパイアに噛まれて同性愛者にされていくのを阻止するため、武器(十字架など)を持って同性愛者たちのたまり場を襲撃する……。
同性愛者のヴァンパイアは「まとも」に異性愛である人間の敵(悪)であり、人目も気にせず教室内でセックスを始める「性欲お化け」として描かれている、ゲイ=女装というステレオタイプを助長している、「あいつ、俺のお尻狙っているかも」「同性愛に走るわけにはいかない」「だって、ホモになるんだぜ?」「レズはいいよな」といった偏見まるだしなセリフのオンパレードだということです。
アイドルグループ「祭nine.」リーダーの寺坂頼我さんなど若手俳優が多数出演し、一部のアイドルファンから注目されていた作品ですが、この作品に出演している「推し」(推しメン。応援している人)を観に行った方が、自身のblogに「同性愛に対するありとあらゆる誤解を濃縮したよう」「「同性愛者は、同性であれば相手は誰でも良くてセックスのことばかり考えている」等という製作側のひどい思い込み、または差別意識を感じざるを得ない」と綴っています。また、この作品がアイドル映画であり、ファンの子たちに「この使い古された偏見を笑いとして見せてしまうことが大人として苦しい」と、「(Twitterの)タイムラインに流れる「楽しかった、面白かった」という無邪気な感想が、刃となって別の誰かを傷つけている現状をとても悲しく思っています」とも。「大人の責任として」たいへん真っ当なことを語ってくださっていました。
TwitterなどのSNSでは、「教室で見るリアルな差別発言にとても似てて、しんどい」「同性愛者として怒りを覚えます」「当事者の若者が傷つくことを考えなかったのか」「いじめやバッシングを受ける当事者の恐怖に加担していることを自覚してほしい」「どうしてこのような作品が、誰も止めることなしに上映に至ってしまったのか、きちんと説明してほしい」「20年遅れのヘイト映画」「『his』を観に行ったら、これの予告編が流されて、つらかった」「上映してる映画館にも、どういうつもりなのか聞きたい」「茨城県と撮影地の茨城県境町が「協力」し、完成試写会には境町の町長が登壇。茨城県はLGBT支援県ではなかったのか…」といったコメントが多数、上がっています。
2月16日、静岡県在住の高校2年の当事者の男の子が、映画を実際に観て、「同性愛=なりたくないもの/差別対象というような表現が多く感じられ、潜在的に同性愛嫌悪を引き起こしてしまうような映画の演出に、悲しみを覚えた」として、公開の停止を求めて署名を立ち上げました。冷静に何が問題なのかを整理して伝え、また、ホモフォビックな箇所を修正して再上映してもいいのではないか(そういう意味で「中止」ではなくいったん「停止」)と語る真摯さで、多くの方の賛同を得ました。
同日、この映画のTwitter公式アカウントが「この映画には一部、同性愛の方々に対し不快な思いを抱かせる表現が含まれているかもしれませんが、同性愛を差別する作品ではありません」などといったコメントを発表しましたが、「同性愛者を傷つける差別的表現だから問題視されている。人々の批判に全く答えていない」「もっともらしい言葉を並べて言い訳しているだけ」「「冗談に何マジになってるんだよ!バカじゃないの?」と怒り出すいじめっ子のソレとそっくり」などといった批判が相次いでいます。
17日にはAbemaTV『AbemaPrime』で、この映画の問題点が取り上げられ、エグゼクティブプロデューサーの吉本曉弘さんが大阪からの中継で出演し、オープンリー・ゲイのライター松岡宗嗣さんやスタジオの方々と対話しました。
吉本さんは「差別ではないと考えている」「いろんな愛をテーマにしている」「これはコメディだ」「周りに同性愛の人もいて、映画を観ていただいてる」「こういうものを笑って観れるオープンな時代ではないか」と主張。
これに対し、松岡さんは「ひどい偏見を感じる。1つは同性愛者を制欲の塊として描き、異性愛こそが愛だとしている点、2つめは噛まれると感染するという点、3つめは愛は自由だと言いながら、同性愛への偏見を撒き散らしているということ」「同性愛に目覚めた、走ったというセリフも偏見の表れ」「同性愛者にされた人たちが教室の中で性行為。性欲のモンスターとして描かれている。教師が嫌がる生徒にセクハラする場面もある」「考えたくもないが、これを人種や障害と置き換えたらどうか、明らかに差別ではないか」「同性愛者を笑い者にしている、嘲り笑っている」「日本では同性愛をカミングアウトできる人が多くない。実際に自殺を考える人も多い。メディアの表現が追い詰めてきた部分もある。だからこそ、偏見をなくしていこうと頑張っている。ドラマや映画でも、いい作品も作られるようになった」「若い人に向けて公開されているが、高校生が勇気を出して上映停止を訴えた」「このような特定の属性を貶めることをいつまで続けるのか」
小島慶子さんも「完全に同意」「知り合いの同性愛者がいいと言ったから差別ではない、というのは、差別者が言う典型」とフォローしてくださいました。
カンニング竹山さんも、「私もコメディやってる者です。ピンポイントで嫌がってる人を傷つける笑いになっているものが、コメディに入るかというと、入らないと思う。制作側が気づかないとだめ」と語っていました。
(この放送の内容をまとめた記事はこちら、放送の全編はこちら)
19日、署名キャンペーン発起人の高校生、今田恭太さんへのインタビューが掲載されました。今田さんは「クラスの生徒がヴァンパイアに噛まれて、『あいつ俺のお尻狙っているかも』と同級生が言う場面がありました。これは実際に起こっているフォビア(嫌悪)の映しです。ゲイがカミングアウトをすると、『俺のこと好きなの?』とか『俺のお尻狙っているの?』と言われることがあります。現状の悪い部分を映していると感じました」「同性愛は快楽に溺れているだけで愛はないという表現であったり、(噛まれた生徒たちが)教室でキスをしたり服を脱ぐなど卑猥な表現を中心にした描写。『同性愛には走るわけにはいかない』『(舞台の町が)同性愛の街になってしまう』『女好きから男好きになるの嫌じゃね?』という発言もありました」「間違った認識を生み出すかもれない映画が上映されることが怖くなり、自分の性別のことで傷つく人が少しでも減ってほしいなと思って署名を立ち上げました」
(ハフィントンポスト「「噛まれると同性愛に目覚める」映画『バイバイ、ヴァンプ!』 高校生が上映停止を求め、署名を始めた理由」より)
一昨年来、LGBTを描いた良質なドラマがたくさん製作され、また、現在、稀代の名作ゲイ映画『his』が公開され、感動を呼んでいますが、一方で、このような偏見・差別むきだしな問題作がノーチェックで公開されてしまうという現実があります(映倫も通過しています)。同性愛に限ったことではありませんが、差別に無自覚な一部の人たちが、社会的マイノリティ(その属性ゆえに不当に肩身の狭い思いをさせられ、スティグマを付与されている)集団に対して侮辱し、傷つけるようなメディア表現をしてしまうことに対する何らかの社会的な規制を施す(マイノリティを守る)枠組みが本当に必要だということが、今回の件で浮き彫りになったのではないでしょうか。
参考記事:
「吸血鬼にかまれると同性愛者に」 映画に批判広がる(朝日新聞)
“噛まれたら同性愛者”映画に批判殺到 協力の茨城県にも(女性自身)
製作委員会「差別する作品ではありません」 同性愛者への偏見あおるとして映画「バイバイ、ヴァンプ!」に批判殺到(ガジェット通信)
「合議の中で誰も問題視しなかった。見ていただければ分かってもらえる」 映画『バイバイ、ヴァンプ!』が同性愛者を差別との批判にエグゼクティブ・プロデューサー反論(AbemaTIMES)
「噛まれると同性愛に目覚める」映画『バイバイ、ヴァンプ!』 高校生が上映停止を求め、署名を始めた理由(ハフィントンポスト)