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ハンガリーが同性カップルの養子縁組やトランスジェンダーの性別変更を禁止し、非難の声が上がっています
東欧のハンガリーで今月15日、同性カップルの養子縁組を禁止する憲法修正案が可決されました。5月にはトランスジェンダーが出生証明書の性別を変更することも禁止されており、「LGBTQの権利の後退だ」「欧州的価値の推進に逆行している」と非難する声が上がっています。
ハンガリーではこれまで、同性カップルの片方が申請すれば養子縁組は可能だったのですが、今回可決された法案によって「(子の)母親は女性、父親は男性」と規定され、同性カップルが養子を引き取って育てることが禁止されました。独身の場合も、政府から特別な許可がなければ養子縁組はできなくなります。
ヴァルガ・ユディット法相は「結婚しているカップルが養子縁組できる。つまり結婚した男性と女性だけが養子を迎えられることになる」などと述べました。
人権団体アムネスティのヴィグ・デイヴィッド氏は、「ハンガリーのLGBTQコミュニティにとって、そして人権にとって暗い日になった」と語りました。
ハンガリーは今年5月にも、トランスジェンダーやインターセックスの人々が出生証明書の性別を変更することを禁じる法案を成立させました。性別を変更(訂正)したいトランスジェンダーやインターセックスの人々にとって、身分証明の公的書類に望まない性別が記載されつづけることの苦しみはいかばかりか…。
アムネスティは「国内人権機関(人権オンブズマン)は、直ちに憲法裁判所に問題とされる条項の削除を求めるべきである」「すべての人が自認する性を法的に認められるべきであり、また、名前の変更、性別変更は、公的書類に反映されるべきである」と非難しています。
オルバーン・ヴィクトル首相は「キリスト教徒の家族の価値観」を盾に、「西側諸国の新たなイデオロギー形態に対抗し、イデオロギー的あるいは生物学的な妨害から子どもを守る必要がある」などと述べて、こうした憲法の修正や法改正を進めてきました。
同国の憲法は現在、このような姿になっています。
「親は保守的精神に基づいて子どもを養育しなければならない」
「ハンガリーは、子どもが出生時のジェンダーを特定する権利を擁護し、同国憲法に基づくアイデンティティと、キリスト教文化に基づく価値観の中で養育されることを保障する」
ハンガリーはかつて東欧の民主化を主導した国であり、LGBTQの権利擁護に関しても東欧で最も先進的な国でした。1996年には「非登録の同棲制度」(同性カップルも事実婚と同様に扱う制度)が導入され、2009年にはシビルユニオンに該当する「登録パートナーシップ法」が施行されています(今でも東欧諸国でシビルユニオンが認められているのはハンガリーだけです)。東欧で初めてのユーロゲームズ(ゲイゲームズの欧州版)もハンガリーで開催されました。
しかし、右派のフィデス=ハンガリー市民同盟が勢力を急拡大し、2010年にオルバーン政権が誕生すると、アンチLGBTQへと急旋回します。2011年には首都ブダペストのプライドパレードが当局によって中止に追い込まれました(翌年には裁判所が許可を出し、パレードが無事に復活。しかし、数百人の極右集団が押しかけ、たびたびパレードを襲撃、警察と対峙する緊迫した状況になっています)。2018年にはオルバーン首相が多文化主義やLGBTQを否定する立場を鮮明にし、大学での「性の多様性」の研究を禁止しました。今年10月には、同性愛者のキャラクターが登場する子ども向けの本に関する論争の中で「(同性愛者は)子どもたちに近寄るべきではない」と述べ、ホモフォビアをむきだしにしています。このような首相の姿勢は、国民のLGBTQへの差別や暴力を激しくさせると懸念されています。(ポーランドとよく似た状況と言えます)