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元プロバスケットボール選手がトランスジェンダーであるをカミングアウトしました
昨季まで女子バスケットボール・Wリーグのトヨタ自動車に所属したヒル・理奈さん(27歳)が10月10日、SNS上でトランスジェンダー男性であることをカムアウトしました。
ヒルさんは強豪・桜花学園高時代にはU-17日本代表の主将として世界選手権にも出場した花形で、東京五輪の出場も目指していましたが、現役引退を契機として、性別以降とカミングアウトを決意。9月末に胸の乳腺摘出手術を受け、名前もヒル・ライアンに改名する予定だそうです。
アメリカ人の父と日本人の母の間の5人兄弟という家庭に育ったヒルさんが性別違和を覚えたのは、バスケットボールを始めた10歳頃のことだそう。変化が現れはじめた自分の身体に対する「嫌だ」という気持ち、周囲から女性として扱われることへのなんとも言えない抵抗感、かわいらしい服を着たりギャル文字を書いたりしているチームメイトと自分は違うという感じ、男子から寄せられる好意への戸惑い…。中学生になって、インターネット検索で「トランスジェンダー」や「FtM」という言葉を知った時、そうしたモヤモヤの正体に気づきました。無理をして周囲に合わせることをやめ、バスケットボールに打ち込み、強豪・桜花学園高校に進学して1年から活躍しました。U-17日本代表にも選ばれ、主将として世界選手権にも出場しました。
高校1年の時に初めて彼女ができて、そのことを、親しい友人には話していました。高校3年の時にはチームメートもほとんど知っていました。家族も受け入れてくれて、恋人と一緒に実家に帰省した際も「彼女」と紹介したそうです。
理解ある友人や家族に囲まれ、女性とつきあっていることについては自然な形で受け入れられていましたが、性自認については、あえてカミングアウトしていなかったそうです。その理由の一つは、男性と自認しながら、女性のカテゴリーでバスケをプレーしていることに葛藤を感じていたから。「自認している性は男性なのに、女性の体を都合よく利用して女子のカテゴリーでより高いレベルで競技しているというのは甘えなんじゃないか。そんな葛藤がすごくあって……」。もう一つは、そもそも自分の性自認をあえてカミングアウトする必要があるのか、疑問に感じていたからだそう。「僕は自分を男性とわかっています。僕というひとりの人間を見てくれたら、それですごい幸せ、と思っていました」
高校卒業後、米フロリダ州にあるトップアスリートのためのトレーニング施設・IMGアカデミーで1年間過ごした後、ルイジアナ州立大に進学。元NBAのスター選手、シャキール・オニールを輩出した名門校で文武両道を目指し、在学中、2020年東京五輪の開催が決まった時期にはユニバーシアードの選考合宿にも招集され、夢も大きくふくらんでいました。いつか日本代表に入って東京五輪に出たいという夢を叶えるため、日本代表に入るための合宿のような第一関門に近づけると思い、帰国してトヨタ自動車に入団したそうです。
しかし、ヒルさんは2019年シーズン限りでトヨタ自動車を退団し、現役生活に区切りをつけました。その後、カンボジアの最貧困地域でボランティア活動をするなかで、自身のアイデンティティともじっくりと向き合い、決意を固めたといいます。今年9月、日本に帰国してすぐに、性別適合手術に必要な診断を受け始め、乳腺を摘出する手術もしました。心と身体の準備が整い、10月11日にカミングアウトデーに、「プライドハウス東京レガシー」の記者会見で自身の性自認について語ることも決めました。今後は競技からは離れて教育分野に進むことを希望しており、出版も計画するなど、新しい人生を歩む姿を共有していくそうです。
『Number』誌のインタビューでヒル・ライアンさんは、「嘘をついていたわけではないんですけど、自分の一番大切にしている部分を隠している気がして。あとは特に若い世代に向けて、いろいろな生き方があってもいい、生き方として僕のような表現の仕方もあるよ、と勇気を与えられたら、という思いです。悩みを抱えているのは自分だけじゃないんだとか、こんな風に壁を乗り越えたり受け入れている人もいるんだ、というメッセージになればと思っています」と語りました。
「まだファンの方たちが覚えてくれているといいんですけど。元プロ選手というプラットフォームを使うことによって、いろいろな方たちにパワフルなメッセージを送ることができれば、と思っています」
「人生のなかで辛いことが一切ない人なんていないけれど、マイノリティの方はなにげない日常生活の中で困難が多いのも事実。自分の感情を押し殺したりせず、悩み、苦しむ自分がいてもいい。自分をハグしてあげる、というくらい大きな愛があればいろいろなことはいい方向に変わってくる。自分に対する愛情を持ってほしいのと、それくらい大きな愛をもった人が、世の中にはいっぱいいるよ、というメッセージをみんなに知ってほしいと思います」
「自分のありかたはそれぞれ。男性だから、女性だからだからこうしなきゃいけないというのはないし、自分の表現の仕方、あり方は思うままでいい。ただ、現実問題としてスポーツ界の受け入れ態勢など課題はある。LGBTQ+をサポートするのに、そのコミュニティに属している必要は決してありません。ベターな環境を作るために、さまざまな分野の人々が協力し合い、一歩ずつでも共に前進していけたらと思います」
日本のスポーツ界では、性的マイノリティが参加しやすい環境づくりの必要性が指摘されている。日本スポーツ協会が2018年に実施した調査では、調査に応じた約1万人の指導者のうち3割弱が身の回りに性的マイノリティの当事者がいると答えたものの、スポーツにおける性的マイノリティに関する知識が十分には理解されていないことも明らかになりました。特にトランスジェンダーの方は、男女に分かれて競技することが前提となっているスポーツの場面で苦悩に直面しがちです。夢中になって自分を解放できる場であると同時に、自認と異なるジェンダーを受け入れなければならない場でもあるからです。
参考記事:
“女性”の身体に「ありがとう」 元プロバスケ選手がトランスジェンダーをカミングアウトした理由(Number)
https://number.bunshun.jp/articles/-/845359
元プロバスケ選手のカミングアウト。“女性だった”身体に「ありがとう」と言えるようになるまで(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5f7e5958c5b600470a9747c5
元女子バスケ選手がトランス男性と告白「自分を大切に」(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASNBC4FL1NB8UTQP01P.html