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都道府県および政令市でアウティング禁止を謳う条例は皆無、指針で定める自治体も1割程度であることが明らかになりました
共同通信が全都道府県と全政令市に対して、セクシュアルマイノリティであることを本人の了解なく第三者に漏らす「アウティング」を禁止しているかどうかを調査した結果、職員向けの指針(ガイドライン、マニュアル)にアウティング禁止を盛り込んでいる自治体が約1割で、条例で謳っている、または条例に盛り込むことを検討している自治体はゼロであることが明らかになりました。
2015年、一橋大学法科大学院(ロースクール)に通っていたゲイの学生が、同級生にゲイであることを暴露され(アウティングされ)、精神に不調をきたし、校舎から転落死する(自死する)という痛ましい事件が起こり、翌年、遺族らが訴訟を起こしました。
『はじめよう! SOGIハラのない学校・職場づくり』にも事例が紹介されていますが、職場でアウティングされ、同僚からの無視やいやがらせを受けたり、居づらくなって会社を辞めざるをえなくなったりということもあります。LGBTへの理解が進んでいない地域に住む方が新聞で実名報道され、精神に不調をきたした方もいらっしゃいます。民間団体の電話相談窓口には、アウティングで不登校や退職に追い込まれた当事者からの相談が寄せられています(ご参考:「LGBT電話相談に寄せられたアウティング被害件数は110件超」)。電話相談の担当者は「当事者は一瞬にして居場所を失う。引きこもりや困窮状態になるなど『負のスパイラル』に陥ってしまう」と語っています。
暴露する方は何の気なしに言ったのかもしれませんが(カミングアウトを受けた側が驚き、抱えきれずに友人に言ってしまうというケースも多いのですが)、LGBTへの差別や偏見が根強く存在する社会において、アウティングの被害は深刻で、当事者にとっては命に関わる問題にもなりえます。
一橋大がある東京都国立市で2018年、アウティング禁止を盛り込んだ条例が全国で初めて施行され、先進的であると評価されましたが、国立市以外の自治体ではどうなのか?ということはよくわかっていませんでした。
今回の都道府県と政令市(67自治体)を対象にした調査の結果、当事者にカミングアウトされた際のプライバシー保護やアウティングの禁止、窓口対応などでのLGBTへの配慮を定めた職員用マニュアルやガイドライン、ハンドブックを作っていたのは三重県や熊本県、千葉市や京都市など9自治体で、今後作成を予定していると答えたのは長野県や大分県、静岡市や岡山市、福岡市など7自治体であることがわかりました。
一方、国は、パワハラ関連法の成立に伴い、職場でのアウティング防止の指針づくりを今後検討する構えですが、現時点では未整備で、地方自治体からは法制定を求める意見も出ています。
これ以上、自殺者が増えないよう、あるいは、学校や会社に通えなくなる、辞めざるをえなくなるという悲劇を生まないよう、やはり行政が率先してアウティングを防ぐための施策を行っていく必要があると専門家も指摘しています(行政の動きを待たず、企業でも、アウティングの禁止を明文化したり、社内研修で周知したりということがすでに始まっています。とても大切なことです)
参考記事:
職員向け禁止指針1割 性的指向暴露「アウティング」(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2019071502000061.html
社説:アウティング 行政は率先して禁止(京都新聞)
https://this.kiji.is/523424619155801185?c=39546741839462401