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サッカー女子W杯でアメリカを優勝に導いたミーガン・ラピノーのコメントが話題に。「このチームにはピンクの髪もタトゥーもゲイもいる」「同性愛者なしのチームで優勝なんてできない」
女子サッカーW杯で史上最多4度目の優勝という偉業を成し遂げたアメリカチームが7月10日、ニューヨーク市庁舎前で凱旋パレードと表彰セレモニーを行いましたが、キャプテンとしてチームを世界一に導き、また、自身も得点王とMVPに輝いたミーガン・ラピノー選手のスピーチが素晴らしいと、賞賛されています。
選手たちは、「ワールドチャンピオン」と書かれた黒いTシャツにデニムといったラフないでたちで、クイーンの「We are The Champions」を歌ったり、優勝カップを高らかに掲げて踊りだしたりして、詰めかけた数万人のファンと喜びを分かち合いましたが、キャプテンのミーガン・ラピノー選手が表彰セレモニーの壇上に上がると、歓声はより一層大きくなりました。
トレードマークのピンク色のショートカットに丸いサングラスをかけたラピノー選手は、一息おいてチームメイトやファン、そして場所を提供したニューヨーク市への感謝の言葉を述べ、次のように続けました。
「私たちのチームにはピンクの髪や紫の髪、タトゥーしてる子、ドレッドヘアの子、白人、黒人、そのほかの人種の人たち、いろんな人がいます。ストレートの女の子、ゲイの女の子(gay girls)も。ねえ!」
自身が同性愛者であることをカミングアウトしているラピノー選手のこの言葉に、会場は大いに沸き立ちました。
さらに彼女は、「次のステップ」へ進むために自分たちにできることとして、こう訴えました。
「私たちはもっと良くできる。もっと愛しあい、憎みあうのをやめましょう。
しゃべってばかりいるのをやめて、もっと他人の言うことに耳を傾けましょう。
これはみんなの責任だと認識しなければなりません。
ここにいる人たち、いない人たち、いたくない人たち、賛同する人たち、反対する人たちーー世界をより良い場所にするのは、私たちの責任です。
このチームはそれを背負い、自分たちの立場と発言力を素晴らしく理解していると思います。
そう、私たちはスポーツをする。
そう、私たちはサッカーをする。
そう、私たちは女子アスリート。
でも、私たちはそれ以上でもあります。みなさんも、それ以上の人たちです。
みなさんは、ただのファンではない。みなさんは、ただのスポーツを支持している人ではない。みなさんは、ただの4年に1回テレビで観る人ではない。
みなさんは、この道を毎日歩いている。
共に生きる人たちと毎日ふれあっている。
周りの人たちのためにできることは、何だろうか?ーー家族のため、親しい人たちのためにできること。
親しい10人のため。
親しい20人のため。
親しい100人のため。
この責任が一人一人にあるのです。
この数年でたくさんの論争がありました。
私もその被害にあいました。協会との対立では、時にその原因でもありました。
謝りたいこともあります。謝らないこともありますが。
今は結束する時です。この会話こそが、次のステップなのです。
協力をしなければなりません。みなさんが必要です」
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) 2019年7月11日
ラピノー選手は、これまで男子サッカーと女子サッカーの間にある大きな賃金格差について、平等になるよう是正を求めて発言してきました(『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』の70年代から、あまり進歩していないようです…)
今年3月には、「実質的に同じ働きをしているのに、男子代表選手よりも女子代表選手の方が賃金が少ないのは差別にあたる」として2015年W杯で共に優勝を果たしたチームメイト27人と共にアメリカサッカー連盟を提訴しています。エースのモーガン選手は「同点ゴール」と「平等をもたらす人」などを意味する「イコライザー」の見出しで『タイム』誌の表紙を飾る「時の人」にもなりました。
彼女たちの訴えは多くの共感を得て、決勝後のスタジアムや祝賀パレードでは「EQUAL PAY(男女に平等な賃金を)」と声を上げるサポーターたちの姿が目立ったそうです。
FIFAのインファンティーノ会長は7月5日、2023年に開催される次の女子W杯では賞金を倍に引き上げると発表しました(でも、それでも男女平等にはほど遠いと指摘されています)
ラピノー選手は、6月28日のフランス戦で2得点を挙げて準決勝進出を決めた後、「LGBTプライド月間にこの成果を上げられたことは感無量?」と問われ、「Go gays!」と笑顔で答え、続けて「同性愛者なしのチームで優勝なんてできない。これまでだってずっとそう。これこそ科学。私にとって、同性愛者であることと、プライド月間中のW杯で輝けたことは素晴らしい」とコメントしていました(カッコいいですね)
ラピノー選手は昨年、「カミングアウトすることは、人々にとって重要なこと。目に見えることは大切です」として、パートナーの女子プロバスケット選手スー・バードと共に、有名な『EPSN』誌の名物企画「ボディ」特集で表紙を飾り、同性カップルとして初だと話題を呼んでいました。
今年1月には、サッカー雑誌のインタビューでW杯について「優勝してホワイトハウスに行くのが楽しみですか?」と聞かれ、「あのくそホワイトハウスになんか、行くわけない」と答えて、話題になりました。この発言にトランプ大統領は怒り心頭で「スポーツリーグやチームは、ホワイトハウスに来るのが大好きだ」「ミーガンは口を動かす前に勝て!仕事をしろ!」「ミーガンはこの国、ホワイトハウス、または国旗を侮辱するべきではない」などとと怒涛のツイートを連投していました。
優勝後の7月9日、CNNの報道番組に出演したラピノー選手は、ホワイトハウスに招待されたら?という質問に対し、自分も行かないし、チームのメンバーも行かないだろうと答えました。「みんなで一生懸命に築いてきた土台、戦って手に入れた成果、自分たちの生き方を誰かに貸したい選手は一人もいないはずだし、みんな現政権に認められたいとも汚されたいとも思っていないはず」。そして、トランプ大統領へ向けて「あなたのメッセージは多くの人を排除している。私を排除してる。私に似た人や、白人以外の人を排除している」と語りました。そして「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」という決めゼリフについて「すべての人にとって素晴らしかったわけじゃない時代に逆戻りしようとしている。ごく一部の人には素晴らしかったのかもしれない、そして今もごく一部にはそうかもしれないけどね。でも多くのアメリカ人にとって、今のアメリカは決して素晴らしくなんかない」とも語りました。
なお、ラピノー選手は、米連邦議会からの招待は受諾したそうです。9日、民主党のシューマー上院院内総務(先日のニューヨーク・プライドにも参加していました)が明らかにしました。
そんなラピノー選手に対する差別的な攻撃もないわけではありません。
マンハッタンの42丁目ブライアントパーク駅にNIKEのラピノー選手の写真を大写しにした広告が貼られていましたが、8日、何者かが広告にホモフォビックな落書きをしたことが発覚し、貼り替えられました。警察はヘイトクライムとして捜査しています(ヘイトクライム禁止法により、通常の事件よりも厳しい刑が課されます)
それから、福岡ソフトバンクホークスのデニス・サファテ選手が「ヘイ、ラピノー。アメリカをそんなに憎んでいるなら、出て行け! 誰も止めたりしない」とツイートし、読売ジャイアンツのスコット・マシソン選手が「わかる。他のところがどうなのか見に行け」とツイートしたことが、問題視されています(本拠地がアメリカ国内だったら、解雇でしょうね…。日本でも抗議運動が始まっています)
ニューズウィーク日本版は、「サッカーのプレーでファンを魅了し、LGBTの旗手となり、トランプにも屈しないラピノーは、分野を超えた新世代のアメリカンヒーローだ」と絶賛しています。全くその通りで、歴史はきっと、彼女をこそ、アメリカのニュー・ヒーローとして讃えるようになることでしょう。いずれはビリー・ジーン・キングのように、大統領自由勲章を授与されるような人物になるのではないでしょうか。
参考記事:
サッカー 女子W杯フランス大会 米選手、優勝パレード 差別と闘う 「待遇を平等に」共感広がる(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20190711/dde/007/050/036000c
差別と闘う サッカー米女子代表 「ホワイトハウスに行かない」トランプ政権批判も(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201907/CK2019070602000296.html
ミーガン・ラピノー「私たちのチームにはいろんな人間がいる」 W杯優勝パレードで披露した女子サッカーキャプテンのスピーチが超アツい(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d26fb24e4b07e698c45e0c0
「このチームには、ピンクの髪もタトゥーもゲイもいる」 女子W杯で頂点に立った選手が訴えること(BuzzFeed)
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/megan-rapinoe-speech
同性愛を公言、ヌードも披露 女子サッカー米代表のミーガン・ラピノー(ニューズウィーク)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2019/07/post-12487.php
「もっと愛し、憎しみ減らして」 同姓愛公言のラピノーが訴え(Daily Sun)
https://www.dailysunny.com/2019/07/10/nynews190710-6/
女子W杯優勝の立役者ラピノーに…プロ野球選手「アメリカを出て行け」「わかる」(ゲキサカ)
https://web.gekisaka.jp/news/detail/?279216-279216-fl