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日弁連が政府・国会に対し、同性婚認める法改正を求める初の意見書を公表
同性婚が法律上認められていないのは「重大な人権侵害」だとして、日弁連は政府や国会に法改正を求める意見書をまとめ、7月25日に公表しました。日弁連が同性婚に関する意見書をまとめたのは初めてのことです。
2015年、全国のLGBT約450人から日弁連に対して婚姻の平等を求める人権救済申し立てがありました。これに対し、日弁連は申立人のうち23人にヒアリング調査を実施、どのような不利益があるかなどについて、聞き取りを行いました。申立から4年という歳月がかかりましたが、同性婚に対する反対意見までもつぶさに検討し、20ページにわたる意見書をまとめ、今月18日付けで発表しました。
意見書は、国民の間での婚姻の意義についての認識が「生殖と養育の場」から「夫婦の親密な生活の場」に変化していると指摘し、「性的指向が同性に向く人々は、互いを配偶者と認められないことによる各種の不利益を被っている」「これは、婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害と言うべきである」と結論づけています。婚姻を「両性」の合意のみに基づくとした憲法24条について、憲法制定当時は同性婚を想定していなかったとし、同性婚を禁じた規定ではなく、むしろ許容しているとの見方を示しました。
意見書で述べられている内容のポイントを示します。
【同性婚と憲法13条(婚姻の自由)】
・同性カップルも異性カップルと同様に人格的生存に深く関わる価値を有する。そのため、同性カップルにも、自己決定権としての婚姻の自由が保障されるべきことは明らか。
【同性婚と憲法14条(法の下の平等)】
・現在、法律上の婚姻をした夫婦には、民法だけではなく、様々な法令上の利益や社会生活上の有形無形の便益が与えられている。しかし、同性同士の場合には、どんなに親密で人格的な関係を築いても、法律上の婚姻が認められていない以上、これらの法的利益や社会的便益を享受することはできない。同性婚を認めないという別異の取り扱いは、重要な権利利益について大きな違いをもたらしていることからも、厳格に審査されるべき。
・同性との婚姻を認めない理由を正当化するものとして、同性婚を認めることは、婚姻の意義を生殖と子の養育を目的とする異性婚を当然のものとしてきた、いわゆる歴史的、伝統的結婚観を根底から覆し、婚姻制度を大幅に変更することになり、許されないという考え方がある。しかし、そもそも、子どもを産み育てるかどうかは、最も私的な領域に属することであり、人としての生き方の根幹に関わり、憲法13条の自己決定権として、またリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)として保障される。そのため、いわゆる歴史的、伝統的結婚観による婚姻の意義を生殖と子の養育を目的とするものと限定することは、正当な理由としてなり得ない。
・同性婚を認めることは、民法が禁止している重婚なども認めざるを得ないと懸念を示す論者もいるが、重婚の禁止の趣旨は、婚姻が一対一の結合をその本質とすることにあり、そもそも許されるべきものではない。同性婚を認めることとは全く次元を異にする。
・現在の婚姻制度は男女を前提にしており、同性婚には適用できない規定もあり、民法やそのほかの法令の改正には困難が伴い、同性婚を認めれば、行政手続きに混乱が生じるという考え方がある。しかし、アメリカをはじめ、同性婚を認めた国々で、同性婚が認められたことによって、手続き的な混乱が生じたという報告は特にされていない。
・こうした理由から、法制度上同性婚を認めないことは、憲法14条の定める平等原則に反するものである。
【憲法24条における同性婚】
・憲法24条1項に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とある。「両性の同意」という文言が用いられていることから、同性間の合意による婚姻は、両性の合意を欠くものとして、憲法上、許容されていないのかが問題となる。
・選択的夫婦別姓訴訟の最高裁判決(2015年12月)では、憲法24条1項について「婚姻するかどうか、いつ誰と婚姻するかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたと解される」と判示した。つまり、婚姻は当事者の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきもので、同性婚を禁止する趣旨ではない。
・憲法の制定当時、同性愛は精神障害として治療の対象とされていた時代であり、同性婚を想定するようなことはあり得なかった。当然、憲法制定会議の議論においても、同性婚を禁止すべきか否かが議論されることもなかった。
・したがって、憲法24条は同性婚を法律で認めることを禁止しておらず、その基本的な趣旨に照らせばむしろ、許容しているものと考えるべきである。
また、意見書では同性パートナーシップについて、「各国で社会的歴史的に積極的な役割を果たしてきた点は評価できる」としながらも、平等の観点からは不十分であり、「同性愛者に対する差別や偏見を助長するおそれをはらんでいる点に留意せざるをえない」と指摘。自治体が同性パートナーシップ制度を導入したとしても、婚姻制度とは異なり、憲法14条の平等原則違反が解消されるものではないとしています。
以上から、「同性婚を認めないことは、憲法13条、憲法14条に反する重大な人権侵害であると評価せざるを得ないこと、及び憲法24条は同性婚を法律で認めることを禁止する趣旨とは考えられないことに照らせば、我が国は、速やかに同性婚を認め、これに関連する法令の改正をすべきである」と結んでいます。
日弁連が同性婚に関する意見書を公表したことを受け、申立を行なった同性婚人権救済弁護団は25日に霞が関の司法記者クラブで会見を行い、「日弁連が申立人の同性婚を求める切実な声にきちんと声を傾け、事件侵害の実態をしっかりと把握し、4年間に慎重な議論を重ねて、極めて適切かつ妥当な意見を社会に顕したことに、敬意を表する」とコメントしました。
東京都内で同性パートナーと暮らして20年になる40代のレズビアン女性は「私の周りで、セクシュアリティをオープンに生活している人はほとんどいません。大都市以外のエリアに住む友人は偏見が怖くて、パートナーと一緒に住むことすら難しいと言っています」「法の下での平等が実現すれば、特別だった存在が特別ではなくなり、やがて当たり前の存在になって行くと信じて、私は申し立てをおこない、勇気を出してここにきました」「生き方を肯定された気がして、うれしい。国は一刻も早く同性婚を可能にしてほしい」「私たちは結婚ができないまま、すでに20年が過ぎてしまったので、これから同性婚が可能になり結婚したとしても、金婚式を迎えられるかどうかはわかりませんが、せめて銀婚式は行えたら、というささやかな希望を持っています」と語りました。
香川県から駆けつけた田中昭全さんと川田有希さんのカップルは「申立てをした4年前に比べて(同性婚に対する)メディアの取り上げ方はすごく変わってきましたし、今回の参院選の争点にもなっていました」「どんどん理解が進んでいるなと思っているタイミングで、この同性婚人権救済申立ての結論が出たので、すごく嬉しく思っています。これがどんどん後押しになってくれたらいいかなと思っています」「いろんな国が同性婚を実現していくなかで、(日本は)すごく遅いなという気持ちがある。日本も早く整備、法制化されてほしいと思います」と語りました。
今回の意見書は、総理大臣、法務大臣、衆参院両議長に対して送られました。
現在行われている「結婚の自由を全ての人に」訴訟の証拠としても申請される見通しです。同性婚人権救済申立ての上杉崇子弁護士は、「訴訟の大きな証拠になるだけでなく、同性婚の必要性を広く社会に訴えるための大きな後押しになるだろう、と語りました。
参考記事:
日弁連「同性婚を認め速やかに法令改正を」(日テレNEWS24)
http://www.news24.jp/articles/2019/07/25/07470747.html
同性婚認めるべき」日弁連が意見書(TBS)
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3734344.html
同性婚認めないのは人権侵害 法改正を 日弁連が意見書(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/k10012007991000.html
日弁連、同性婚認める法改正を 政府・国会に、初の意見書公表(共同通信)
https://this.kiji.is/526975811376628833
同性婚認めず「重大な人権侵害」=日弁連、法改正求める(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019072500850&g=soc
同性婚認める法改正を…日弁連が意見書(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190725-OYT1T50276/
日弁連「同性婚認めないのは重大な人権侵害」初の意見書(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASM7T42MYM7TUTIL019.html
同性婚、法改正して認めるべき」日弁連が初の意見書公表(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20190725/k00/00m/040/242000c
「同性婚ができないのは重大な人権侵害」 日弁連が国に法制化を求める意見書(弁護士.com)
https://www.bengo4.com/c_23/n_9920/
「同性婚を認めないのは、重大な人権侵害だ」 日弁連が意見書を国に提出(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/same-sex-marriage-rights-japan-federation-of-bar-associations_jp_5d37d425e4b004b6adb7b7b7
日本で同性婚が認められるべき「8つの理由」。日弁連が意見書を発表(BuzzFeed)
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/7reason-marriage-equality-in-japan