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サッカー選手の下山田志帆さんが現役アスリートとして初めて同性愛者であることをカミングアウト
6月21日、「プライドハウス東京」への応援メッセージ・ムービーがYoutube上にアップされました。
有森裕子さんら、アライのアスリートの方もたくさん登場していて、素晴らしいのですが、滝沢ななえさんとともに、サッカーのドイツ女子2部リーグ「SVメッペン」でプロ選手としてプレーしていた下山田志帆さんがLGBTアスリートとして登場し(レズビアンであることをカムアウトし)、「今は見えていないだけで、身の周りには同じようなセクシュアリティの仲間が絶対にいると思うし、いますごい苦しい人も、ちょっと一歩踏み出して、オープンにスポーツを楽しめる環境になれたら、すごくうれしいです」と語っています。
日本の現役スポーツ選手で性的指向が異性愛ではないとカムアウトした方は、おそらく初めてです(引退後のカミングアウトとしては、滝沢ななえさん、村主章枝さん、チャーリー礒崎さんがいらっしゃいます)
毎日新聞に、下山田志帆さんにインタビューした記事がいくつか掲載されています。
茨城県出身の下山田さんは、十文字高(東京)で全国高校選手権3位に入り、慶大時代にはユニバーシアードの日本代表候補に入りました。高校時代に自らの性的指向に気づき、大学時代に現在のパートナーとの交際が始まったといいます。しかし、そのことを公にはできず「生きづらさを感じてきた」といいます。
大学卒業後、2017年にドイツに渡りましたが、その年にドイツで同性婚が認められました。「彼女がいることへの特別な反応はなく、LGBTの人たちが自然と社会に溶け込んでいた」。寛容な社会で過ごしたことも背景に、昨年12月に一時帰国し、両親に彼女の存在をカムアウトしました。お父様は押し黙った後、「自分が決めた道を生きなさい」と言ってくれたそうです。
そして今年の2月、自身のツイッターに「彼女がいます」と投稿し、3月には「プライドハウス東京」の公式サイトの動画で性的指向を公表していました(現在は見ることができません)。先月、2年間のドイツでの活動に区切りをつけて帰国し、現在、国内で所属先を探すとともに性的マイノリティへの偏見を解消する活動を始めたといいます。
下山田さんはカミングアウトに至った心境を「いつでもどこでも自分らしく生きられるように自分の力で環境を整えたいと思った」と語りました。カミングアウト後、サッカー界に限らず、まだカミングアウトしていないスポーツ選手から連絡が入っているそうです。「一緒に何かできる仲間が増えた」
国際オリンピック委員会(IOC)は2014年、五輪憲章で性的指向による差別を禁じました。東京五輪・パラリンピック組織委員会も大会ビジョンで性的指向などの違いを認め合う「多様性と調和」を明記しています。下山田さんが帰国したのは、東京五輪を日本の転機にしたいと考えたから、だそうです。
「意識を変えるきっかけを与えたい。東京五輪を前に多様性を認める流れが強まっている。今、変えられなかったら、もう変われない」
これは世界的な傾向ですが、スポーツ界には同性愛嫌悪(ホモフォビア)が根強く残っています。スポーツは、力や勇気、統率など「男らしさ」とされる規範を刷り込む文化的な装置としての役割もあったと言われています。フェンシング女子の元日本代表で、トランス男性の杉山文野さんは、「強いものがえらい、男は女よりも上という風潮が強く、現役時代にカミングアウトは考えられなかった」と語っています。
中京大学スポーツ科学部の來田享子教授は、このように語っています。
「五輪は単なるスポーツの祭典ではない。五輪を招致して開催するということは、五輪が目指す理想の社会をできるだけ実現しようと開催都市が努力することを意味している。大会後、私たちの社会がどのように変わるかが問われている。
震災支援の呼びかけや、差別的な言動で攻撃する「ヘイトスピーチ」への批判など、アスリートの発言が社会を変える力になる例は多い。下山田さんのようなアスリートが公表することによって社会に大きな力を与えることは確かだ。ただし、我々はこのように差別される側、抑圧される側に勇気を求める構造自体を変える必要がある。
2017年から日本スポーツ協会(JSPO)の研究班長として「スポーツ指導に必要なLGBTの人々への配慮に関する調査研究」を進めている。問題に思うのはLGBTへの理解は深まっていても、指導者の7割以上が自分の周りには当事者が「いない、いなかった」と考えていることだ。選手が気づかれないように努力しているのが実態ではないだろうか。
世界経済フォーラムが発表した昨年のジェンダーギャップ(男女格差)指数で、日本は格差の小さい順から並べて149カ国中110位。夫婦別姓すら認められない格差の根強いこの国で、東京五輪を通じてどのようなレガシー(遺産)を残せるか。日本のスポーツ界には社会を変えるための積極的な行動が求められる」
参考記事:
「絶対に仲間はいる」性的指向公表したアスリートの思い(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASM3L46LYM3LUTQP00L.html
偏見打破へ大きなエネルギーに 下山田さん告白 五輪LGBT共生掲げ(毎日新聞)
https://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20190620/k00/00m/050/001000c
20年東京五輪 開幕まで400日 多様性認め合う五輪に 同性愛告白、女子サッカー選手(毎日新聞)
https://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20190620/ddn/001/050/004000c